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フィリーナの結界発動準備へ移行
しおりを挟む魔法はつまり攻撃なりなんなりと、用途は様々だけど……このタイミングで多くを用意しておきたいというのは、戦争に備えてだろう。
本来は、魔法具に組み込んで魔力を蓄積させたり、ハウス栽培用の結界を維持するためだったりのはずだったんだけどなぁ。
「えぇ。その事をアルネ達にも話したんだけど、正式に戦争物資として認められたわ。これからクォンツァイタはしばらくの間、後方支援用の物資として定期的に搬入され、魔力を蓄積して保管されていく予定よ」
「成る程……」
ブハギムノングがこれから先重要になる、と言うのもあるけど街全体が潤いそうだなぁ。
軍需産業は、とんでもない富を生み出すなんてどこかで聞いた事があるし……まぁそのクォンツァイタを活用する方法を見出したアルネは、そんな富よりも研究欲の方が勝っているようだけど。
……鉱夫組合の組合長、フォルガットさんは今頃かなり上機嫌になっていそうだ。
「そんな話はいいのよ。とにかく結界を作って頂戴。そうね……ここにいる私達を包み込むくらいの大きさでいいわ」
「そうだったわ、クォンツァイタではなく結界の話だったわね。なんのためにかはわからないけど、クォンツァイタの魔力蓄積に関してはリクが保証してくれるみたいだし、やらせてもらおうじゃない」
「……結構、楽しそうだよねフィリーナ」
俺がクォンツァイタの魔力蓄積を手伝うと言ったからか、先程まで渋る感じだったのが一切なくなり、今は喜々として持ってきたクォンツァイタを袋ごと持ち上げた。
アルネとかカイツさんは、魔法とか魔力が関わる研究に対して意欲的すぎるくらいで、それをよく冷めた目で見ていたりするフィリーナだけど……フィリーナの方はフィリーナの方で、魔法に対してはアルネに負けないくらい意欲的だよね。
おかげで、強力な魔法を使ってセンテの時は大活躍だったんだから、いい事なんだろうけど。
「すぅ……ふぅ……」
俺の言葉を多分意図的に無視し、フィリーナが目を閉じて深呼吸と共に集中し始める。
数秒程で、フィリーナの周囲に可視化された魔力があふれ出す。
クォンツァイタや、フィリーナ自信、それから自然の魔力を集めた結果……というだけではなく。
「そうか、魔力を練っているんだ」
以前、俺がフィリーナに話した事の中で、魔力を練るというのがあった。
そのおかげで、既存のエルフや人間が使う魔法だけでなく、研究次第でもっと強力な魔法が開発できるとかなんとか言っていたけど……。
すでにある魔法も改良するなり、使い手が魔力を練るようにする事で、威力などを増したりもできるとかなんとか。
「魔力を集めただけじゃ、そうそう可視化される魔力を発する事なんてできないわ。それこそ、クォンツァイタの魔力を借りて大量に放出したとしてもね。魔力を魔力として、練って濃くしていく事で可視化されていくの。普通わね」
「リクは普通じゃないから、仕方ないの」
「……俺も一応、魔力を練るくらいはしているんだけどなぁ。そもそもフィリーナに話したのは俺だし。でも、練らなくても可視化された魔力くらいは出せるかな」
そう言って、魔力を放出……はしない。
今はフィリーナが集中しているし、俺が可視化された魔力を出して邪魔しちゃいけないから。
魔力は人それぞれで質が違うし、変な干渉をしてしまいそうだったからね。
「…………」
段々とフィリーナを包むようになっていた魔力が、周囲に広がっていく。
それと共に、フィリーナ自身も何やら小さく口を動かして呟いているようだ、よく聞こえないけど。
多分、結界を形成するための呪文とかそういうものかな?
「白い魔力になっていく……。変換されていっているって事かな」
「そうね。魔力はただ外に出るだけでは無害で特になんの性質も持たないもの。リクのように濃い魔力を振り撒くなら別だけど、可視化されるくらいならそのままにすると特に何も起きず、ただ消えていくだけよ」
「ほとんど、自然の魔力に溶けて混ざり合うだけなの。なんの意味も持たない魔力になっていくの」
「でも、可視化されたんならそれだけで十分濃い魔力なんじゃ? 俺が魔力を出すにしても、ここまで可視化はされていなかったはずだし……」
なんの性質も持たない、なんの意味も持たないというのなら、何故俺が昨日ゴブリン達と戦った時、俺自身を覆っていた魔力を放出しただけでゴブリンマジシャンの魔法を防げたのか……。
あれは、今フィリーナが広げている魔力みたいに、はっきりと可視化されていなかったはずなのに。
可視化されるのが濃い魔力であるのなら、今見ている魔力の方が濃くて、何かに干渉しそうなものだけど。
「あくまで、可視化された魔力は濃く大量の魔力だけど、一定以上であり、変換されるものだからよ。魔法の効果に近付くための変換がされていない魔力なら、無色透明。つまり、可視化されているとしてもほぼ目に見えないわ」
変換された魔力に色が付くというのは、俺も自分で何度も見ているから知っているけど……そうか、可視化されるというのは無色透明のままじゃないというのもあるのか。
魔力自体は、元々無色透明で目に見えない。
だからどれだけ濃くても、どれだけの量を放出しても、今のように可視化されたようにはほとんど感じないって事かな。
「でも昨日は、リクを中心に薄っすらと目に見えるくらいになっていたの。どれくらいの魔力を噴射したの?」
「どれくらいって言われても……俺自身を覆っていた魔力を、剥がして霧散させたような感じだからなぁ」
出した魔力量がどれくらいだったか、なんてあの時よく考えていなかったからわからない。
わかるのは、意識する事で霧散させる魔力の調整ができていたくらいだ。
なにはともあれ、本来無色透明で目に見えないはずの魔力、なんの性質も持たない魔力が薄っすらと目に見えるようになっていたというのはもしかしたらガラス越しに俺を見るような感覚だったんだろうか?
「まぁあれも、一応リクの体を覆っていたわけだし、外に出て一応の役割も与えられていたのだからでしょうね」
体から漏れ出て、俺を覆っていた時点で少しだけ変換されていたため、可視化される条件をほんのちょっと満たしていたとか、そういう事だろうか?
「うーん……わかったようなわからないような……」
「リクの魔力量で、ちゃんと理解していないのは危ういけど……この世界の人間じゃないのなら、仕方ないのかもしれないわね。感覚的にも、こちらに来てからでしょう?」
「まぁ、そうだね」
元々魔力だ魔法だなんてもののない世界から来たからね。
自分の体にとんでもない量の魔力があると言われても、最初はあまりピンと来ていなかったくらいだ。
多分エルサとの契約のおかげなんだろう、あのくらいからなんとなく魔力を無意識にでも認識し始めたような気がする。
なんとなく、元の世界にいた頃より力がみなぎっているような、そんな感覚は少しあったくらいかな。
……最初は無一文、何も知らない状態でこの世界に投げ出されたから、獅子亭のマックスさん達にお世話になっていたけど、働いてもあまり疲れなかったりとか、その程度であまり不思議には感じなかったけど――。
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