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マティルデさんからの報告
しおりを挟む「ありがたいわ。じゃあ……」
そう言って、マティルデさんから一枚の書類が渡される。
素材買い取りと、後払いにする手続きみたいなものらしい……よく見てみると、マティルデさんの手元には後で買い取りをする旨が書かれているような書類もあった。
多分、俺がどちらを選択してもいいように両方準備していたんだろう。
「よしっと。それじゃ、お願いします」
「えぇ、確かに。冒険者ギルドの統括ギルドマスターとして、約束を違えない事を誓うわ。本当なら、信用に頼るような事はしなくても良かったはずなんだけど」
「まぁ今は色々大変でしょうし、それは俺もわかりますから」
冒険者ギルドの建物が破壊されただけでもそうだけど、テーブルの上に散乱している書類などが、どれだけマティルデさんが大変で忙しいのかがよくわかる。
以前、中央冒険者ギルドのマティルデさんの部屋に入った時は、書類などの束が多くあったのは似ているけど、ちゃんと整理されて綺麗だったからね。
片づけをしている暇さえないんだろう。
「あ、そうそう。リクにも一応報告しておかなきゃね」
「ん、何をですか?」
とりあえず要は済んだと思って、座っていた椅子から立ち上がりかけた俺を呼び留めるように言うマティルデさん。
マティルデさんの方から俺に報告するような事ってあったっけ?
「ブハギムノングの冒険者ギルドからの報告が来ているわ。以前に……」
「そういえば、そんな事もありましたね」
マティルデさんの報告というのは、ブハギムノングの鉱山でモリーツさんやイオスがエクスブロジオンオーガの研究をしていた事に関係していた。
一人や二人であの場所を用意するのは不可能で、まだその時は組織的な動きはあれど、帝国の関与とかまで詳しく知らなかったのもあるけど……とにかく、冒険者の中にも協力者がいるんじゃないか。
そう思って、ブハギムノングの冒険者ギルドのギルドマスター、ベルンタさんだったっけ……その人に調べてもらっていたんだった。
で、マティルデさんに知らされた報告内容によると、ブハギムノング自体にはほぼ常駐している冒険者がいないため、帝国と通じているいわば裏切り者はいなかったと。
ただ、ルジナウムなどブハギムノングのある王都から見ると北東のハーゼンクレーヴァ子爵領に、それなりの数が発見されたと。
深くかかわっている者、少しだけ関わっている者など様々らしいけど、とにかく帝国との関与や組織との関与が見られたとの事だ。
ハーゼンクレーヴァ領……つまり、フィネさん騎士として仕える貴族家で、俺に良くしてくれたフランクさんが治める領地。
冒険者だけでなく、貴族軍の兵士なども含めて調べが進んでいて、そちらにも入り込んでいるのも確認されたとか。
だからこそ、コルネリウスさんに近付いて色々と吹き込んで性格や考えを歪めさせる事もできたんだろう、とベルンタさんが予想し、フランクさんも認めて気を引き締めて事に当たっているらしい。
フランクさんとも、協力しているのならこのまま任せられそうだ。
「ハーゼンクレーヴァ領は、帝国から見ればかなり遠くにあるけど……だからこそ狙われたのかもしれないわね」
「そうですね……帝国と事を構える際には、広報からの物資支援をする役割になるだろうとも聞きましたし」
それは、ヘルサルのあるシュットラウルさんが治める領地も一緒だけど……フランクさんの子爵領はルジナウム近くに大きな穀倉地帯があるらしく、食糧供給地としても重要らしいからね。
あと、ブハギムノングにある鉱山とかも重要拠点と言えるだろうし。
だからこそ、狙われたのもあるし、帝国から離れているからこそもし企みが邪魔されても、簡単に帝国が疑われない可能性がある、というのがマティルデさんの見方だ。
結局のところ、俺達がほとんどの企みを潰して、一部杜撰な計画もあったおかげで帝国にある組織がっていうのはわかったんだけど。
まぁでも、あの頃は帝国そのものが関わっているというより、帝国にある組織が程度にしか考えていなかったんだけどね。
組織と帝国のクズ皇帝が関わっている可能性、というのも考えてはいたけど、直接関わっているのかなどは確証がなかった。
今は、レッタさんの証言も含めて様々な状況から、帝国の、そしてクズ皇帝が主導してアテトリア王国へ工作を行っているというのに確信できているけど。
「あとはそうね、センテからの報告で帝国に関わっている可能性のある者達のあぶり出しも行っているわ。それと同時に、ブハギムノングもそうだけど、この国にある各冒険者ギルド支部にも通達を出したわ。あまり身内を疑うような事はしたくないけど、こればっかりは仕方ないわね」
「そうですね……誰が味方で、誰が敵なのかは知る必要がありますし」
これから戦争をすると考えているんだ、敵が内部に入り込んでいたらそこから何かを仕掛けられるかもしれないし、後ろを気にしていたら帝国とまともに戦えない事もあるだろうからね。
まずは内部を、身内とも言うべき近い人達を調べて、安心して帝国との戦いに備えたい。
「それと……改めて、リクの作るクランに加入するよう、こちらで選んでいた冒険者も同じく調べているわ。そちらにもいるかもしれないし、もちろん帝国との関与、向こうに与しているようなのがいれば弾かせてもらうわ」
「はい、よろしくお願いします」
センテやヘルサルで募ったクラン加入希望の冒険者さんは、既にあちらで調べているので大丈夫だとは思うけど……それ以外の人達はまだ本当に信用できるかわからないからね。
元々、帝国との戦争に関わるとしてのクランでもあるから、マティルデさん達の選別によって怪しい人物は取り除かれているんだろうけど。
あまり多くの人が弾かれるような事はないといいなぁ。
多いという事は、それだけ帝国と関わっている人が多いという事でもあるから。
「あとはそうね……建物としてはだけど、任されていたクランで使う拠点がそろそろ完成するわ。予定ではもう完成しているはずだったんだけどね。五日前後ってところね。また完成したら伝えるわ」
「それでも、考えていたより早いですから。よろしくお願いします」
クランで使う建物に関しては、元々マティルデさんに任せていたし……まぁはっきりとクランを作ると明言はしていなかったのに、もう完成間近という事は、俺が頷くと考えて着手していたんだろうとは思うけど。
できるかどうか、俺がクランを作って多くの冒険者を率いていいのか? という悩みはあったけど、最初から断る方面ではあまり考えていなかったからいいし、早くできるに越した事はないからね。
ただまぁ、建物自体が完成してもまだクランの拠点として使えるかは別の話。
そこから、物を運び込んだりとかいろいろしてようやくだ……でも、センテやヘルサルで募った希望者が、王都に到着してもしばらくは各自で過ごさないといけない期間が予想よりかなり少なくなったのは、間違いないと思う。
ルギネさん達とか、今は王都周辺に現れた魔物の集団の対処に当たってもらっている、というか依頼を出して受けているらしいけど、それが終わった頃にはクランが始動できそうだ。
後からヘルサルを出発した冒険者組は、多分すぐにクランに加入してそこで活動できるようになるだろうと思われる――。
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