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カーリンさんの調理器具

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「はい。この部屋でお世話になっています。もう、すごいんですよ! 王城の料理人さん達! 獅子亭でも、大繁盛していたので毎日大変なくらいの量を、質を落とさないように調理していましたけど……こちらはさらに調理する量が多く、料理に携わる人の数も多いんです! それでいて、調理の質もほかとはくらべものにならないくらいで……!」

 突然興奮したように言いつのるカーリンさん。
 料理の事になると人が変わるなぁ……それだけ、料理という事そのものが好きなんだろう。
 王城で作る料理の量が多いと言うのはまぁ、当然と言えば当然か。
 兵士さん達もいるし、百人前後というお客さんを相手にしていた獅子亭だけど、王城では千人規模だろう。

 一か所で集中して作っているのか、それとも場所ごとにそれぞれの役職の人達に対して作っているのかまではわからないけど。
 でも今のカーリンさんの言葉を聞けば、ある程度は集中した場所で多くの料理人さんが集まって、大量の料理を作っているのだと思われる。

「ははは……それは、カーリンさんの勉強になって何よりですね」
「あ! すみません、いきなりこんな事をリク様に!」

 正気に戻った、という程ではないけど熱くなっていた事に気付いたカーリンさんが、ガバッと勢い良く頭を下げた。
 気にはしていないんだけど、とにかくカーリンさんが参考になると思える場所があって良かったと思うのが本音だ。
 ……割と、王都に連れて来たにしては放ったらかしというか、放り出した感があったからカーリンさんが楽しそうで何よりだと思う。

「いえいえ、まだクランは始動していませんし、今のうちにカーリンさんがさらに腕を磨いて美味しい料理を作ってくれるのを、楽しみにしています」
「はい! 絶対、皆さんに美味しく満足してもらえる料理が作れるようになります!」

 今でも十分、というか獅子亭で働き始めた前後から既に、美味しい物を作れていると思うんだけど、それでは満足できない人なんだろうな。
 とにかく、クランが始まってカーリンさんの作った料理が食べられるのが楽しみだ……きっと、俺以外の冒険者の人達は美味しくて驚くだろうし、満足もしてくれると思う。
 結構、お腹が満たされればそれでいいとか、とりあえず動けるだけの食べ物があればなどなど、ろくな食生活をしていない冒険者っていうのも多いみたいだし。
 そうして、カーリンさんの満足そうな様子が確認ができたと安心して、再び部屋に戻ろうとしたら、何やらカーリンさんの方からウが売ような視線が……。

「あの、リク様……催促するようで申し訳ないのですが……」
「うん? どうしたんですか?」
「アルケニーの素材、それを使った調理器具の作成の話は、どうなりましたか?」
「あ~、そう言えば。いえ、決して忘れていたわけじゃないんですよ? えぇ、決して……」

 言われて、そういえばアルケニーから採取した素材、というか足などを加工して調理器具を作るという話があったのを思い出した。
 カーリンさんにも行ったけど、本当に忘れていたわけではいんだ……今思い出したと自分で考えてしまったけど。
 ちゃんと、アルケニーの素材で加工に必要な分は冒険者ギルドに納品せず、保管してあるからね。

「ちょっと他の事にかまけてしまってました……」
「いえ! リク様がお忙しく、国のため、皆のために活躍なさっているのは十分存じておりますので!」

 忙しいと言えばそうなのかもしれないけど、その忙しさの大半は、俺が自分で言いだした訓練のせいだったりするからなぁ。
 ないがしろにするつもりはなかったんだけど、それに近い状態になっていたカーリンさんには申し訳ない。

「ですがその、クランがいつ開始されるのかはわかりませんが……できれば作るのは早い方がいいかと……」
「そうですね……予定では近いうちに建物が完成するみたいですので、そこから本格的に準備となりますけど」
「それ、私も聞いていないわよ?」
「あ、そうだった。マティルデさんから今日言われたんだよ。モニカさんが戻って来てから、すぐこっちに来たから言いそびれてた」

 ソフィー達は報告のために冒険者ギルドに言ったから、もしかするとそちらで聞いている可能性はあるけど、モニカさんはすぐ俺の部屋に来たから、聞いてなくて当然だろう。
 話さないといけない事、やらないといけない事が、中途半端になってしまっているなぁ……気を付けないと。
 今回は話す暇がなかったというのもあるから、仕方ないかもしれないけど。

「ともかく、それに合わせて作れればと考えています」
「そうですか……うーん……」
「何かあるんですか? 早い方がいいと言っていましたけど」
「いえその、調理器具というのは全てではありませんが、ある程度使い込んでこそ仕上がる物もあるんです。馴染ませる、というのが近いかもしれませんが。使い慣れるのとは少し違ってですね……」
「ふぅむ、成る程」
「確かに、使い慣れたというのもあるけれど、父さんなんかは毎日使っている調理器具を大事にしているわね。これじゃないと、美味しい物ができないなんてことも言っていたから」

 そういえば、鉄のフライパンは使い込んで油を馴染ませる事で成長する……みたいな話を聞いた事がある。
 俺は料理人じゃないからよくわからないけど、そういった調理器具ももしかしたら他にもあるのかもしれない。
 いや、そのまま鉄のフライパンのような器具の事を、カーリンさんとモニカさんは言っているのかもしれないけど。

 使い込むという事を考えると、本格的に準備を始めてから作ってもらうより、今のうちに誰かに頼んで作ってもらっておく……つまり早いうちにやっておいた方がいいんだろう。
 頼んだその日にできあがる物でもないだろうからね。

「それじゃ……うーん、まだ王都周辺の魔物も全部駆除したわけじゃないし……してないよね、モニカさん?」

 そういえば、今日はどれくらいの成果があったかなど、まだモニカさんから聞いていなかったなと思い出す。
 さすがに広範囲だし、数が多いから魔物の集団を全て倒して回ったって事はないだろうとは思う。
 ただアマリーラさん達が一緒だから、無茶をしていないかちょっと不安になって、モニカさんに聞いてみた。

「リクさんじゃないんだから、そんなに早く進まないわ。今日はどちらかというと私達というよりも、リーバー達に協力してもらったからかなり多くの魔物を倒したのは間違いないけどね」
「リーバー達に?」
「騎乗、でいいのかしら? その状態で、空から強襲を掛けるとか……そういう戦い方ね。その辺りは、後で話すわ」

 兵士さん達もやっていた、ワイバーンとの協力戦術というかそういうようなものだろう。
 簡単なやり方で言えば、小さめの魔物が相手なら単純にワイバーンが空から降りて踏みつぶすなんて事もできるだろうし、兵士さん達も行っていたけど一方的に空から魔法を使う事だってできるわけだ。
 それらの事を今日は試したんだろうけど、多分ソフィー辺りは自分達の訓練にならないと少し不満に思っているかもしれない。
 まぁ、ソフィー自身は魔法を使えないけど、魔法具を使ったりワイバーンとどの程度協力したかにもよるかもしれないけどね――。


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