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リク達の訓練
しおりを挟むカーリンさんの調理道具作りを早く、という意見にはさらに、ソフィーとアマリーラさんが前のめりで、すぐにでも作るべきだと主張をした。
料理にはあまり造詣が深くないソフィーとアマリーラさんが、何故? と思ったけど、美味しい料理を食べるため、という事みたいだ。
アマリーラさんはともかく、ソフィーも結構食いしん坊だよね……あまり表に出さないし、悪いわけではないけど。
そういうわけで、二、三日後くらいがいいかな? と俺は思っていたんだけど、急遽明日の午後城下町に繰り出す事となった。
ソフィー達が強引に決めた形だ。
姉さんからは、そういった職人を紹介すると言われたけど、そちらは辞退。
ララさんに話してみて、誰も見つからなかったら頼る事にした。
ちなみにアマリーラさんも付いてくると言っていたんだけど、そちらはモニカさん達の訓練もあるため、リネルトさんによって強引に止められた。
まだ王都周辺の魔物の集団を倒さなきゃいけないのもあるみたいだ。
そちらの方は、もう数日あれば大まかに討伐完了するだろうとの事だけど、日数に関しては俺が参加するかしないかによって変わるとからしい。
なら、俺もと思ったんだけど、先に調理道具の目星をつけておいてから落ち着いて参加して欲しいとの事だった。
エルサを使って長距離も移動できる俺は、散発的に参加するよりも少し後の方が都合がいいかもしれないからとか。
理由として、魔物の集団の一部が大きく移動をしている様子が見られるらしく、数日後には王都以外の村などに到達する可能性があるとの事だ。
だったらと思ったけど、むしろ今日明日ですぐにというわけではないので、途中で俺がカーリンさんのために抜けるよりは、できるだけ明日中に済ませておいた方がいいだろうと。
それなら、明後日以降は集中的に参加というか……一気に魔物を倒す気で挑んだ方がいいのかもしれないと納得し、頷いた。
姉さんがポツリと、りっくんもゆっくりした方がいいわよね、頼ってばかりだけど……なんて呟いていたし、俺ってそんなにあくせく動いているかな? と首をかしげる場面もあったんだけどね。
……まぁ確かに、ちょっと忙しいとか、のんびりしたいと思う事がないわけじゃないけども――。
「ふっ! はぁ!」
「まだまだじゃ! 無駄な動きが多い。標的を見定めて、最小限の動きで打ち倒すのじゃ!」
「はい!」
翌日の昼前。
朝食後から続くエアラハールさんによる訓練で、剣を振るう俺に厳し叱咤が飛ぶ。
そのエアラハールさんは、訓練場の床に座り込んでいるんだけど……二日酔いらしい。
それでも指導の方はちゃんとやってくれるから、特に文句はない。
「ソフィーは、モニカの動きにもちゃんと注意を払うの! モニカの槍は、剣よりも引き戻すまでの隙ができるの!」
「わかった!」
「そっちは、あっちの二人がカバーし合ってできた隙を補うのよ」
「了解!」
俺は一人で想定敵に対して剣を振るう、ほとんどただの素振りに近い訓練だけど、モニカさん達の方は違う。
アマリーラさんとリネルトさんを相手に模擬戦を続けて、ユノとロジーナがモニカさん達の動きに対してアドバイスするという形だ。
もちろんアマリーラさんとリネルトさんは、二人で動く連携に慣れているうえ実力もかなり上なので、三人相手でもかなり加減しているけど。
アマリーラさんの持っている武器が、ショートソードより少し短めの木の棒という時点で、全力じゃないのはすぐわかるけど。
ちなみにリネルトさんは逆に、ロングソードタイプの木剣を二本、左右の手に持っている。
いつもならショートソードタイプの剣を一本、もしくは二本で手数や身軽さを重視しているのに……ある意味、リネルトさん達にとっても訓練の一環なのかもしれない。
獣人だからか、アマリーラさん程ではなくともかなりの膂力があるようで、本来両手で持って扱うはずの長く重い木剣を、片手で不十分にならない程度には振れているみたいだ。
細かい技術なんかももしかしたらあるのかもしれないけど、俺はまだそれがわかる程じゃない。
「何をよそ見しておるんじゃ! ちゃんと集中せんかい!」
「すみません! ふっ! せや!」
モニカさん達の方を見ている事を、エアラハールさんに注意されて木剣での素振りに集中する。
俺は、一応くらいはできている基礎を固めつつ、以前にも言われた無駄な動きを減らして、洗練された動きになるように、という事らしい。
自分の動きを意識的に変えつつ、無駄に動かないようにしたうえで動作は鋭くする、と要求されている中で、さらに敵を想定した素振りになっているから、これがかなり難しい。
敵を想像するので、ただ振り下ろすだけの素振りよりも大変なのはもちろんの事、想像が甘ければどう動いていいのかもわからなくなってしまう。
それを自分の動きを意識しながらだからね……。
さらにユノとロジーナからの注文で、これからは剣を振るう時には必ず魔力を意識する事という、昨日やった結界を張れるようになるため、魂の修復を早めるのも一緒にと言われているからさらに大変だ。
当然ながら、木剣だとしても同じく魔力を意識しなければならない。
あと、ゴブリンとの戦いのように魔力を操作するのは、訓練中はやらないようにとも言われていたりする。
「はぁ……はぁ……はぁ……んっ! たぁっ!」
「疲れるじゃろ? 普段はあまり疲れを感じないみたいじゃが、これは普段ではないからじゃ。集中して、実際の戦いよりもむしろ深く強く動く。息が切れる事が全て正しいわけではないのじゃが、訓練でこそ息を切らし、疲れるくらいにやらねばならん。実戦では、考えなければならない事も多く自分の動きに深く集中はできんからの」
「はい! ふん! せい!」
多くの事を意識しているせいもあるけど、魔物と戦っている時とは違って全身への疲労が強く、息が切れる。
ほぼ動きを止めず、ずっと動き続けているのもあるんだろうけど、それにしたって今の訓練の方がかなり消耗しているのは確かだ。
「力の込め方が間違っておるぞ! 疲れて、体が泳いでもおる! 疲れた時こそ、最小限の動きを意識するのじゃ!」
「は、はい!」
厳しい声が響く中、魔力、体の動き、力を込めるタイミングや力を抜くタイミングを間違えないよう気を付け、酸素を求めてあえぐ口を引き結んで、剣を振るっていく。
ここまで厳しい訓練は初めてだ……それだけ、エアラハールさんも本気という事なんだろう。
もちろん、これまでの訓練だって手を抜いていたとかではないとは思うけど。
戦争が現実味を帯び、さらに猶予が少ないからこそ、急いで鍛えてくれているのかもしれない。
……二日酔いにはなっているけど。
「ぜぇ、はぁ、はぁ……んむ! せやぁ!」
ともあれ、珍しくは余計かもしれないけど、真面目に始動してくれるエアラハールさんの心意気に応えるため、モニカさん達の方から聞こえる木剣を打ち合う音や、声などを聴きながら、全力で訓練に集中した。
昼食までの間だったけど、これなら延々と魔物を相手にしていた時の方が疲れないなぁと思いつつ、これも自分のため、ひいては皆のためと自分に檄を入れながら――。
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