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極まる混乱?
しおりを挟む「えっと、ララさん?」
「んもう! なんなのよなんなのよリク君ったら!」
「うぇ!?」
組んでいた両手を頬に当て、クネクネ……というか顔をブンブン左右に振るララさん。
そんな反応をされるとは思っていなかったから驚いた。
声も、少し高めに出している……けど野太い声だったのが、さらに低くもっと野太くなっているのは気のせいだろうか。
「そんな事言われたら、嬉しくてどうにかなっちゃいそうじゃない! もう、リク君は私をどうするつもりなの!? めちゃくちゃにしてっ!」
「いや、どうするも何も、調理道具を作って欲しいだけなんですけど……めちゃくちゃになんてしませんよ……」
「んまっ! そんなに冷静に返されると、熱くなっちゃうじゃない! リク君はもうどうしてこんなに……いい女殺しね!」
「そんなつもりじゃ……というかどうしろと……」
否定したはずなのに、ララさんをさらに盛り上げてしまったようだ。
女殺しとか、そんなつもりは一切ないし、俺にそんな事ができるわけがないのになぁ。
……いい女、という部分はノーコメントにしておこう。
何をどう言っても角が立つ気がするし。
「ともかく、ララさんに調理道具の制作依頼をしたいって事です。報酬はちゃんと用意してありますから」
「ぐふふ……そう、そういう事ね。報酬はリク君の体ってわけなのね……だからこうして、私を褒め倒したと思ったらすげなくあしらって、もう! 上手なんだから!」
「何も上手じゃありませんよ!」
「ふしゃー!」
「あらら、またアマリーラさんが威嚇を始めましたねぇ」
「このまま見ているのも面白そうだけど、リク君がララさんに襲われたらモニカちゃんが悲しむだろうから、止めましょうか。カーリンさんも手伝ってくれるかしら?」
「は、はい!」
全身をクネクネさせ、もはや軟体動物になりかけているんじゃないかと思う程、よくわからない動きを始めるララさんに戦慄し、一歩二歩と後退りする俺を見かねたのかなんなのか……。
アメリさんとカーリンさんがララさんの後頭部辺りを、店の扉横に立てかけられていた鉄の棒で強打した事で、ようやく混乱が極まりそうだった状況が収まる。
ララさんが怪しい動きを始めたくらいから、アマリーラさんも再び威嚇を始めたりしていたし、俺一人じゃどうしようもできなかったからね。
もちろん力づくで、というのもできなくはなかったかもしれないけど……とりあえず言葉で落ち着かせるのは不可能だったと後から考えてもそう思う。
ちなみに後頭部を強打されたララさんは、ハッとなって正気に戻っただけで、気を失う以前に痛がる素振りも怪我もなかった。
アメリさん曰く、ここまでの事はそうそうないらしいけど、時折妄想の世界に旅立って戻って来ないので、強制的に引き戻すために鉄の棒があるのだとか……良い子は絶対真似しちゃいけないやつだね、主に強打する方。
とりあえず、ララさんが石頭どころか鉄頭とも言えるくらいの人だというのがわかったところで、店先でずっと話していた事に気付き、店内の奥に入り、一息付けた。
ララさん一人でやっているお店だからか、全員が座る分の椅子はなかったのでアマリーラさんとリネルトさんは立ったままでいいとの事だったので、申し訳ないけどそれに従う。
アマリーラさんも店に入る頃には落ち着いていて、許容できる事柄を一気に越えてしまったため、混乱して威嚇してしまったと、ララさんに謝ってもいた。
後で聞いた話だけど、俺に対して色目を使った事も威嚇するに至った原因の一つだったらしい。
うぅむ、混乱していたせいで正常な判断ができなかったんだろうけど……ララさんがどうあれ、俺にはどんな人が近付いてきても、モニカさんが思い浮かんでしまうから無用な心配だと思うけどなぁ。
……マティルデさんと会った時も、結構警戒していたらしいけども。
「えーっと……それじゃあとりあえず、調理道具制作は請け負ってもらえるという事で、いいんですよね?」
「もちろんよ。他ならぬリク君の頼みよ、戦うための物でもないのだから断る理由はないわ」
「ありがとうございます。それじゃあ、こちらがアルケニーの足です」
「随分あるのねぇ。アルケニーなんて、暗くてジメジメしたいや~な場所の奥底にしかいないような魔物なのに。それも、一体や二体くらいで……これは、それ以上あるわよね?」
「まぁ、どれだけ必要かわからなかったので……」
持ってきたアルケニーの足は、とりあえず五体分程。
冒険者ギルドなどに納入したのを差し引いて残った分だけど、もし足りないなら買い戻そうとか考えてもいた。
けどララさんの反応を見る限り、数は問題なさそうだね。
「素材の配合量は、増やせば増やすほどいいというわけではないわ。けど、使える量が多ければ多い程、作りやすくもなる。助かるわ。ん~、状態もいいわねぇ、これはやりがいがあるわぁ」
そう言って、複数の袋に入ったアルケニーの足を受け取るララさん。
口を開いたから、袋から飛び出しているアルケニーの足先に頬擦りしそうな勢いでもある。
女性っぽい化粧をしつつ、筋骨隆々の野太い声の人物が、袋から飛び出した蜘蛛の足に頬擦りって絵は子供が泣き出しそうだったので、想像からも追い出した。
「それから、お願いするための報酬ですけど……こちら、ワイバーンの皮です」
「ワイバーンですって!? 希少な素材なはずなのに、それが報酬なの!? しかもこんなに……」
ワイバーンの皮も、複数の袋に入っている。
それを俺とララさんの間にあるテーブル、アルケニーの足の入っている袋の横に置く。
アルネ達が研究と称して、再生するワイバーンの皮を剥いで永久機関のように、ほぼ無限に取れる物になってしまったけど、一般的には希少な素材なのでララさんが驚くのも無理はないだろう。
こちらは何体分かまではよくわからないけど、かなりの量なのは間違いない。
「ちょっと、簡単に入手できる方法が確立されたので。ララさんは欲しいんじゃないかと思って」
これまではワイバーンの素材を使った鞄を作るにしても、皮の端切れとかだったらしいからね。
「これだけあれば、諦めていたあれやこれが作れるわ。報酬としては十分過ぎるくらい、どころか私がもらい過ぎな気もするわ。けど、簡単に入手できる方法って? リク君なら確かにワイバーンくらい簡単に討伐できるでしょうけど……」
「まぁ、倒す以外の方法でちょっとありまして」
さすがに、ララさんに再生能力に優れたワイバーンが、皮を剥ぐと喜ぶんですなんて事は言えないからなぁ。
ワイバーン達が協力してくれている、という事自体はいずれわかるだろうけど。
「あ、もちろんこれ以外にも、制作してもらうためのお金も支払いますよ。頼んでいるのはこちらですからね」
「正直なところ、ワイバーンの皮……一袋分の半分以下でも、多すぎるくらいよ? 素材も持ち込みだし、もらい過ぎになってしまうわ。これだけあれば、ひと財産築けるくらい」
とりあえず誤魔化すように別の報酬の話をする俺に対し、少しだけ困ったように笑うララさん。
ワイバーンの皮も、アルケニーの足も、希少な素材で買い取り価格も高いから、確かにここにあるだけでもひと財産になりそうだね。
ワイバーンの皮は、いずれ希少ではなくなるだろうけど――。
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