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危険な爆発物

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「とりあえず、意識があるのかどうかわからないけど……」

 虚ろなゾンビみたいな人物は、目を開いて声を出しているし立ってもいるから、意識がありそうに思えるけど……。
 俺やアマリーラさんが前に立っても声をかけても、何も反応を示さないのは意識がないようにも思える。
 どちらにせよ、このまま放っておくわけにはいかないので、肩に手を置いて意識がはっきりするか試そうと手を伸ばす。

「待つのだわリク。触れるのは危険なのだわ」
「……エルサ?」

 だけど、エルサの鋭い声によって伸ばした手を止めた。
 さっきまで、お菓子を食べ終えて満足そうだったのに……。

「歪な魔力をしているのだわ。全身に魔力を纏っているどころか、垂れ流しているリクが触れるのは危険かもしれないのだわ」
「やりたくて垂れ流しているわけじゃないけど……歪な魔力?」
「人だろうと魔物だろうと、魔力が体内を循環しているのはリクも知っているのだわ?」
「まぁそれはね。探査魔法で何度も調べたし、そう聞いてもいるから」

 自分の魔力を意識した時もそうだったけど、魔力は体内をぐるぐると循環している。
 常に動いているわけだけど、それがあるからこそソナーのように薄く広げた探知魔法による魔力に反応し、それで場所などがわかるって仕組みだね。
 もちろん、人や魔物だけでなく植物とかあらゆる物にも多かれ少なかれ魔力があり、魔力は循環しているし、空気中の自然の魔力もそうだ。
 だからこそ、探知魔法が広がり過ぎると情報が多すぎて、慣れないうちはよくわからない事があったりもした。

「その魔力の循環が、ほとんど止まっているのだわ。体内で魔力がせめぎ合っているような、無理矢理植え付けられた何かを排除しようとしているような、そんな感じなのだわ」
「魔力が? って事は、エルサが探知魔法を使っていたのか」
「リクは今使えないから、私が代わりにやっただけなのだわ。精度はリクよりも高いのを保証するのだわ」
「そりゃまぁ、元々エルサに教えられたものだし、使い慣れてもいるだろうからね」

 結界が使えるようになるかどうか、という程度でまだまだ探知魔法が使えない俺に代わって、エルサが使って調べてくれたんだろう……さすが相棒。
 とはいえ、使える状態だったとしても、目の前にいる人物の状態で探知魔法をと俺は考えなかったかもしれない。
 俺に足りない部分を補ってくれる、頼もしい相棒だ……モフモフだし。

「……とにかく、詳しい事はわからないけど……魔力がせめぎ合っている状態だから、俺が触っちゃだめって事でいいんだね?」
「そうなのだわ。外からの魔力の刺激は危険で、何が起こるかわからないのだわ。もっと色々と調べれば、何か分かるかもしれないけどだわ。例えるならそうだわ……リクの記憶にある風船? の中にパンパンに水を入れて、破裂寸前なところに外からさらに水を入れようとしているような物なのだわ」
「風船……?」
「……確かに、それは危険な状態だね」

 風船という言葉に引っかかって首を傾げるアマリーラさんはともかく、エルサのおかげでなんとなくは状況がわかった。
 下手に触れたら破裂するから、魔力が漏れているような俺が触れるのは危険で、もしかしたら破裂してしまう可能性が高いって事だろう。
 ちなみに、風船はこの世界で今まで見た事がないので多分ないのだろう、エルサは俺の記憶と言っていたから、契約で流れ込んだ記憶を参考に例を出してくれたんだと思う。

「触れるならリク以外……できれば、魔力の少ない人間がいいのだわ。それでも、気を付けないと危険かもしれないのだわ」
「まるで危険な爆発物を扱うみたいだ……って、もしかして!?」

 エルサの言葉に思わず出た自分の言葉にハッとなる。
 触れたら破裂、爆発。
 そこから導き出される可能性は……。

「確証はないけど、もしかするのだわ。通常、魔力は所持者固有であり、他者の魔力は受け付けないのだわ。それを刺激するだけで、補給や混ぜるまではいかないのがリクの治癒魔法ってやつだけどだわ」
「あれはまぁ、魔力を送り込んで自然治癒力を活性化させる、みたいな感じだけどね。まぁ純粋な魔力じゃなくて、魔法として送り込んでいるから」
「だから、反発がなくて異常な治癒力を発揮するのだわ。失敗した時は酷い事になったけどだわ」

 まぁユノの髪やエルサの爪の一部が異常に伸びたりしたからね。
 でもおかげで、魔法として治癒魔法を使う事で部位欠損すら治せるようになったんだけど。
 ……当然ながら、これも今は使えないのが残念だ。

「詳しくは探知魔法でもわからないけどだわ、体内で魔力がせめぎ合っているのは他の魔力が入り込んでいるのではないかと思うのだわ。リクはともかくとして、人間にはあり得ない魔力を持っているのだわ」
「ともかくとされたけど……外から魔力を入れられているから、あり得ない魔力量になっているってわけか。エルサでも、そこまでくらいしかわからないんだね」
「私は別に、魔力を研究したりはしていないのだわ。探知魔法でわかる範囲で、調べただけなのだわ」
「だったら、研究をしているアルネやカイツさん達に調べてもらったら、わかるかな?」

 魔力の細かいあれこれは、俺は当然わからないけどエルサの知識でも不足しているらしい。
 まぁ特殊な例というか、これまでなかったはずの事だし、俺の記憶はともかくエルサの知識は基本的にこの世界で自由に生きて来たからというのがほとんどだからね。
 興味を持って研究するタイプでもないし、わからないのも仕方ないか。

「さっきも言ったけどだわ、魔力の少ない人間が注意して触れないといけないくらいなのだわ。任せるにしてもエルフだと危険が大きいかもだわ」
「……触れないようになんとか調べてもらうしかない、かな」

 興味を引かれてしまったら、アルネやカイツさんが思わず触れてしまうなんて事はあるかもしれないけど……そこは強く注意するようにしておこう。
 おそらくこれは、建物を破壊する程の威力を持つ爆弾のような物だから。
 この人の命だけでなく、近くにいる人や建物が危険に晒される事になるし。
 フィリーナに監視してもらうのと、さすがに王城は危険すぎるから別の場所で調べてもらうようにするのがいいかな。

「それじゃ、アメリさん、リネルトさん……」
「わかったわ!」
「了解しましたぁ!」

 とにかくこのまま放置するのは絶対にないと決めて、アマリーラさんと見張りに残り、アメリさん達には人を呼んでもらうようお願いした。
 誰でもとかではなく、王都の兵士さんだね。
 人間ならという事だから、獣人のアマリーラさん達は俺と同じく除外するとして、アメリさんでもいいんだけど……さすがに危険だ。
 それに、人を運ぶのにアメリさん一人では難しいだろうから。

「そういえばエルサ、人間と指定してたけど獣人も駄目なの?」
「獣人は、人間より魔力を持っている事が多いのだわ。エルフと人間のように大きな差はないけどだわ」
「成る程、そうなんだ……」

 最近は、魔力イコール強さみたいな感覚にもなって来たから、アマリーラさん達を見ていると魔力が多いと言われてもなんら不思議はないしね。
 魔法を使っているようには見えないけど――。


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