“痛み”売りの少女

ロアケーキ

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この“痛み”売らせてください

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木組の町。
わたしが暮らすこの場所は、たくさんの人々が生活しており、とても賑わっている。

その反面、貧富の差が強く現れ、裕福な建物が立ち並ぶ外れに、薄汚れた“下級層”の家々が立ち並んでいる。

隙間風が吹き抜ける家でわたしは、安いお給料ながら休みなく必死で働く母と、体が弱い弟の3人で暮らしていた。



「リク。ご飯すぐできるから待っててね。」

「はーい。…ごめんね。おねーちゃん。お手伝いできなくて。」

「いいから。寝てな?…身体よくなったらよろしくね?」

「…うん。」

母は仕事で夜遅くになるまで帰らない。
必然的に家にいるわたしは、弟の世話とこの家の家事をこなしていた。

いま作っているのは、母が稼いだお金で買った“なけなしの野菜”が入ったスープだ。

お肉などの贅沢品は買えず、味気ない見た目だが、調味料を使い、味には気を使っている。

……そんな何気ない日常は、突然に奪われるものだ。


「ゲホッ、ゲホッ」

「リク?大丈夫?」

スープの味見をしていると、ベッドで寝ている弟が咳き込み出す。

わたしは火を止め、弟のそばに寄り、背中をさすった。

「ゴホッ…はぁ…はぁ、おねーちゃん。…くるしい。」

「ちょっと、しっかりしてっ!?…いま薬をもってく……あ。」

いつもの薬がある場所を見ると、すでに切らしている状態だった。

普段、こんなことはないのだが、最近、流行病があるらしく、その影響でいつもの薬も値段が上がってしまったのだ。

その時の持ち合わせではお金が足りず、後日、母のお給料が入ってから買うつもりだったのに…。

「はぁ…はぁ。…ゴホッ、ゴホッ。」

そうこうしている間に、弟の容態はどんどん悪化していく。

『……もう、“あそこ”にいくしかないっ!』

頭の中によぎったわずかな希望が、わたしの行動力につながる。

「ちょっと待っててっ!」

そう弟に伝えると、わたしは家を飛び出した。

あたりは雪がチラチラと降り出し、焦る視界を遮っていく。

「はぁっ…はぁっ。」

息を白く染めながら、しばらく走り続けると、“中級”と呼ばれる人々が暮らす場所にたどり着いた。

夜の町は活気に溢れており、雪が降ることなどお構いなしに、ビールを片手に“にぎやかな”笑い声に包まれている。
お酒を飲む店にはあかりが灯り、顔に傷のあるおじさん達がこちらを見つめていた。

『いそがなきゃっ!』

自分の中にある“恐怖心”を振り切って、わたしは足早にその脇を通り抜ける。

そして、少し外れた場所に“十字架”が象徴的な建物を見つける。
そこからの足取りはさらに早く、真っ先に入り口を目指す。

“コンッ!コンッ!コンッ!”

「ロゼッタさんっ!ベルですっ!…お願いします、開けてくださいっ!」

すがるように飛びつくと、扉を素手で叩き、必死にそこが開くのを待った。

“ギィィ”

「……ベル?…こんな時間に珍しいね、何かあったのかい?」

すると、中から不機嫌そうな表情のお姉さんが顔を出し、わたしを見下ろしてきた。
…服装を見る限り、きっと寝ているところを起こしてしまったのだろう。

「ロゼッタさん。こんな夜にごめんなさい。…でも、リク…お、弟の体調が悪くなって…、薬屋さんももう閉まってて、……その、…薬を買うお金も、なくて……。」

いざ自分の置かれた状況を口に出してみると、あまりにもどうしようも無いものだと思い知る。
不意に一筋の涙が頰を伝い、服の袖で必死に拭った。

「…なるほどね。それで、うちに薬を求めに来たと。
……確かに、うちはもしもの時に備えて薬も取り揃えているよ。…ただ、“安く”はない。」

「…はい。……だから、また、“売り”にきたんです。」

「…はぁ。大丈夫なのかい?この前散々“売った”ばかりだろう?…“跡”もまだ消えないだろうに。」

「だ、大丈夫です。…どうか、薬を買えるだけ売らせてくださいっ!!」

わたしは震えながら深く頭を下げる。
たぶん、ロゼッタさんからの返答次第で、弟の運命は変わってしまうのだ。

「……わかった。そこまで言うならついてきな。“いつものように”買ってやるから。」

「あ、ありがとうございます。」

頭を上げると、ロゼッタさんはすでに歩き出していた。

わたしの中に、嬉しい気持ちと“恐怖心”が入り混じる中、おいていかれないよう早足に後を追った。



たくさんの長椅子が立ち並ぶ中を抜けると、地下へ繋がる階段がひっそりと顔を出す。
真っ暗な闇が広がり、先が見えないそこは、わたしを不安にさせていった。

「この前の“跡”…まだ痛むかい?」

階段を降りる中、ろうそくを片手に、ロゼッタさんはわたしの方を振り向き、現在の状態を確認してくる。

「はい…。まだ少し痛いです。」

「…じゃあ、今日はかなり辛いものになるだろうね。」

“ごくりっ”

突きつけられる現実に唾を飲み込み、地下への階段を踏みしめる。

最後の段を降りると、“分厚い扉”がわたしを見下ろしていた。

“ギィィィッ”

扉を開け、少し待つと、中がどんどん明るくなっていく。

恐る恐る中に入ると、そこはいくつものろうそくに火が灯り、殺風景な空間が広がっていた。
そして、石造りの白に反射し、明るい赤で彩られている。

わたしは眩しさから目を擦っていると、「早く閉めなっ。」と声をかけられた。

言われた通り扉を閉めると、辺りを見回す。
一際目を引くのが、“ケイン・鞭・パドル”など、人を痛みつけるための道具が大きなテーブルの上に並んでいることだ。

そして、その奥には身動きを封じるための“拘束台”と、それを写す“大きな姿鏡”が、威圧感を放っている。

“相変わらず”の光景に、わたしの身体は小刻みに震え出す。

「さて、今日はいくらで“痛み”を売るんだい?」

ロゼッタさんは怖い顔をしながら、わたしに問いかけた。



お金のないわたしが売れるものなんて、限られている。

でも、身体を売ればお母さんが悲しむし、ボロボロの服を売れば、着るものが無くなり町を歩けなくなる。

だから、妥協案として、わたしはここで“痛み”を売っている。

痛みであれば、“身体”を売ったことにならないと自分の心に言い聞かせているが、本当のところはどうかわからない。

きっと真実を知れば、罪悪感に襲われてしまうだろう。

そんなことになりたくないし、させたくないから、お母さんには“このこと”を言っていない。

まあ、いつもここから帰った後、お金を持ってくるわたしを見て、薄々気づいているかも知れないが…。



「薬を買える分だけ売りたいです。…薬はいくらですか?」

「そうだねぇ。…いつも聞く弟の症状から察するに、6銀貨の薬なら効くかも知れないね。」

「そ、そんなに…。」

「いったろ?安くないって。…それとも、売るのはやめて帰るかい?」

その言葉に、家で苦しむ弟の顔が頭をよぎった。

早くしないと、間に合わないかもしれない…。

「売りますっ!どうか、売らせてくださいっ!!」

「…じゃあ、道具選びから始めるよ。こっちにきな。」

「はいっ!」

ロゼッタさんの近くに、最初に見た道具が並ぶテーブルが置かれている。

各道具の前には、“10発で1銀貨”などの対価が記載された紙が置かれていた。

「前回はパドルだったね。…あれは“10発で2銅貨”だよ。そのときは50発受けてたけど、それじゃ今回は足りないね。」

「…はい。」

少し前に、このパドルで打たれた時、わたしはあまりの痛さから泣き叫んでしまった。

その跡が今も残るお尻は、トラウマからか、“じんじん”と傷み出すような錯覚を覚える。

「だとすると、更に痛みは上がるけど、こっちの鞭なら、“10発で1銀貨”だよ?」

「うっ…。」

この前よりも“痛い”と告げられ、わたしは自分のお尻を軽くさする。

前回でも相当痛かったのに、それ以上の痛みなんて想像できなかった。

……でも。

「ロゼッタさん。…その鞭でぶってください。」

わたしは目に意思を宿し、ロゼッタさんをまっすぐに見つめる。

「本当に大丈夫かい?…この前とは比べものにならないよ?」

「っ…。だ、大丈夫ですっ!…それに、弟に早く薬を届けたくて、…だから、出来るだけ数が少ないほうが早く終わるのでっ!」

「……わかった。じゃあ、さっそく始めるから、そこの台のとこで“準備”しな?」

「わかりました。」

早足で拘束台まで移動し、スカートのボタンを外す。
そして、“するり”と脱ぎ、穴が空いたパンツもすぐに脱いで畳んだ。

恥ずかしさから前を隠してしまうが、自分から言い出した手前失礼になるため、震える手で気をつけの姿勢に直す。

「じゃあ、その台へ腹ばいになって、手は下に垂らしな。」

「はい。」

言われた通りの姿勢になると、台から伝わる“冷たさ”と“硬さ”がわたしを不安にさせる。

その手足・腰を縄できつく結ばれ、身動きが取れなくなってしまった。

「まずは、いまのお尻の状態を確認しな。」

その言葉で、わたしは顔を上げ、目の前にある大きな姿鏡を見つめる。

そして、ロゼッタさんはもう一つ、大きな姿鏡をわたしのお尻側に運び、みすぼらしい服とわたしの下半身が写し出された。

「……少し青い。」

やはり、この前の“パドル跡”がしつこくお尻に刻み込まれていた。

少し成長したが、相変わらず小ぶりなお尻に、わたしは恥ずかしさから頰を赤く染めてしまう。

「…最終確認だけど、……いいんだね?」

「…はい、よろしくお願いします。」

「じゃあ、いまからこのお尻にたっぷり痛みを与えるよ。…しばらく“元のお尻”は見られなくなるから、今のうちに目に焼き付けておきな。」

「……い、いっぱい買ってください。」

わたしは震えながらうなずき、売った“痛み”を待つ。

鏡越しに“構えられる”動作がはっきりと見え、振り下ろされた瞬間、わたしは強く目を瞑った。

ビッヂィィンッ!!

「ひっ……い、いっだぁぁいっ!?」

一瞬の衝撃の後、思い出すように“ジグジグ”とした痛みが広がる。

涙でぼやける鏡を見ると、お尻の真ん中に細く、青黒い痣が1本浮かんでいた。

「う、…うぇぇーん。」

“ビチャッ、ビチャビチャビチャ”

そのあまりの痛さから、わたしの下半身から黄色い液体が溢れ出してしまう。

恥ずかしさよりも痛みの方が勝り、必死に声を上げていた。

「まだ1発目だぞ?…それとも辞めるかい?」

鏡を見ると、相変わらず厳しい視線を送るロゼッタさんと目が合う。

「つ、つづげてくだざいっ!!」

何かを考えるより早く、わたしの口は動き出した。

「お漏らししちゃってごめんなざいっ!…でも、どうじても薬が欲しいんですっ!」

「漏らすのは別に構わないよ。珍しいことじゃないからね。続けて欲しいっていうなら、このまま買ってあげるよ。」

「お、お願いじまずっ!」

必死の懇願で、なんとか続きをしてもらえることになる。

おしっこの臭いが広がる中、ロゼッタさんは再度わたしのお尻へ構え出した。

ビッヂィィンッ!!

「…ひぐぅぅぅっ!?」

ビッヂィィンッ!!バッヂィィン!!

「あ゛ぁぁぁぁっ!!」

鏡に写し出されるお尻へ、次々に“どす黒い”色の痣が刻まれていく。

本当は暴れたいほどの痛みだが、縛られて動けないため、喉が張り裂けんばかりに叫び声を上げるしかなかった。

バッヂィィン!!

「いっだぁぁいっ!!」

お尻の割れ目へ縦の衝撃が与えられる。

“ビチャビチャボチャッ”

それまで唯一白を保っていた部分が染まり、その痛みから、再度尿が溢れ出してしまう。

小さなお尻に売られる痛みは、しばらく耳を塞ぎたくなるほどの音が鳴り続けた。



「ふぅ…。あと3回だね。…起きてるかいベル?」

「あ゛ぃ…。起きてまずっ…。」

あれから何度か気絶してしまい、ロゼッタさんから“優しく”起こしてもらった。

お尻には痣の形しか見えないほど、びっしりと痛みが打ち込められている。

「最後の3回は“太もも”に与えるよ。…覚悟はいいかい?」

「…お願いじます。」

お尻と違い、白さが残る太ももは汗にまみれ、少し“キラキラ”と光っているようだった。

『太もものほうが痛くないかも。』

わずかな希望を込め、痛みがくるのをじっと待つ。

バッヂィィンッ!!

「っ!……い゛ぎゃぁぁぁっ!!」

…そんなことなどあるはずもなく、お尻よりも鋭い痛みが太ももに与えられる。

どうやら、皮膚の薄い太もものほうが痛みを強く感じるようだった。

ビッヂィィンッ!!

「…あ゛あぁぁっ!?……ゴホッゴホッ」

もはや、咳き込むほどに悲鳴を上げ、喉をさらに痛みつける。

2つ重なった“鞭跡”が、その事実を物語っていた。

「ほら、最後の1発だよ。しっかり売りな?」

「お、お願いじまずっ!」

バッヂィィィンッ!!!

「ああ゛んっ!?……グスッ…うぁぁーんっ!!」

60発を売り終えたところで、ついにこれまで我慢していた感情が溢れ出す。

それまでわたしを縛っていた縄が解かれ、ロゼッタさんはハンカチを渡してくれる。

「ひっく……。うぇぇーん。」

そのハンカチを頰に当てると、すぐに涙が濡らしてしまぅ

すぐに行かなくちゃいけないのはわかっているが、その後数分間、動き出すことができずにいるのだった…。



「じゃあ、これが約束の薬だよ。」

「グスッ…、ありがとうございます。」

ようやく念願の薬を手に入れ、頬が緩んでしまった。

痛みを我慢し、着直したスカートのポケットに入れ、急いで出口に向かおうとする。

「まちな。その様子だと何も食べていないだろう。…これを持っていきな。」

呼び止められ振り向くと、ロゼッタさんから、“紙袋に入ったコッペパンと牛乳”を渡される。

“ぐぅー”

「い、いただきます…。お代はまた後日売らせてください。」

「お金はいらないから、早く家に帰ってあげな?」

「グスッ…。ありがとうございます。」

お腹の虫には敵わず、素直に食べ物をもらう。

もう一度深くお礼をすると、夜の街へ走り出す。

冬の空気が、熱を持ったお尻・太ももに懐いている感じだった。

「リクッ!大丈夫っ!?薬“もらって”きたよっ!!」

帰宅すると、相変わらず弟の体調はすぐれなかった。
急いで薬を飲ませ、ベッドに寝かせる。

その横でお腹をさすりながら様子を見ていると、だんだんと体調が良くなってきたようだった。

「…よかった。これで、もう大丈夫かも。」

“ぐぅー”

安心すると、お腹の虫が思い出した様に騒ぎ出す。

先程貰ったパンをかじり、すっかり冷めてしまったスープを口に入れる。
すると、途中から塩の味が追加され、しょっぱく感じるのだった。

『グスッ…お母さん。…はやく帰ってこないかな。』

スープを温め直しながら、母の帰りを待つ。

ほんのり温かい牛乳を口に含みながら、今日は久しぶりに“甘えよう”と、心に決めるのだった…。


「完」
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