僕らにラブコメは似合わない

幻田与夢

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かくして八重葎帳は彼女と出会う

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この僕八重葎帳(やえむぐら とばり)は幼少時からアニメや漫画が好きだった。おっと、別にオタクってわけじゃないぞ。それというのも、強くてカッコいいヒーロー、主人公に憧れたからだ。

「お前ら、弱いものいじめはやめろー!」
「なんだよ、お前はー!?」
「うおおおおおお!」
   ・・・・・・。
「い、意外と弱かった。まあ、この辺にしといてやるよ」
「へ、へへ。やっぱり正義は勝つ!」
「いや、普通に負けてるからな」
「あ、ありがとう・・・。君は?」
「俺は八重葎帳!正義の味方だ!」

「八重葎くん、凄いね!」
「帳ー、サッカーやろうぜ!」
「今日渡邊ン家で遊ぼーぜ、帳!」


そんな僕も成長し中学生になった時、人生の転換点と言える日が来る。
僕の中学は、知り合いが一人もいなかった。
・・・あれ?友達って、どうやって作るんだっけ?
とりあえず隣の女子に声をかけてみよう。
「やあ、俺は八重葎帳。◯◯小出身です!君は?」
吃驚して、体が一瞬跳ね上がった後、その女子は返答した。
「・・へ?わ、私?私は山本美穂ですけど・・・」
「そ、そうなんだ!山本さんね・・・・」
「う、うん・・・・・」

「山本さん、消しゴム落ちたよ。ハイこれ」
「え、あ、ありがとう・・・」
一日一善。今日も人のために生きれたぞ!

トイレに行くと、話し声が聞こえた。
山本さんの声?
「マジ最悪だわ、隣の八重ナントカ。勝手に人のもの触らないでほしいのに・・・」
「アイツ、友達いなそーじゃん。きっと美穂と仲良くなりたいんだよ」
「冗談でもやめてよー、そういうの。アイツと仲良くなるなんて勘弁してほしいわー」

・・・・・・・・・・・え?

その日、ヒーローを夢見た少年は死んだ。ささいなことでは僕にとってはまるで隕石が降ってきたかのようなショックだった。


そして・・・・・・・・・


「八重葎くん。一緒にご飯食べよーぜー」
「う、うん」
今に至る。
「そういえば昨日の見たかい?」
「もちろん見たよ。面白かったね」
「作画やばかったねー」
彼は四方(よも)くん。僕のと・・・。趣味仲間かな。
四方くんもアニメ好きだから、昼休みはこうしてる。
 キーンコーンカーンコーン。
「おっと、時間だ。またね八重葎くん」
「う、うん、またね」

この人生が一つの物語だとするならば、僕は小さいころに夢見た主人公(ヒーロー)じゃない
主人公を助けるサブキャラでも、主人公の因縁のライバル、でもないんだろう

・・・うん、これでいいんだ。アニメや漫画は観てて面白いし、四方くんとの会話も楽しい。
八重葎帳の人生は、これでいいんだ。・・・・・これで・・・。


・・・いつの間にか寝てたのか。
「って、今日僕日直だ。もうそろそろ学校にいかんとな」
家族に出発の挨拶を交わし、高校へ向かう。

今日の日直は僕と誰だっけか?
「あ、あのー。八重葎くん、ですよね?今日の日直なんですけど、私と八重葎くんです」
小柄な女子に声をかけられた。
「あ、うん。よろしくです」
確か隣の席の女子だった気がする。名前は、澪標襲音(みおつくし かさね)さん、だっけか?
「じゃあ、職員室にプリント貰いにいきますか」
「は、はい。そうですね」
コツ、コツ、コツ、コツ・・・
朝の校舎に踵を返す音だけが木霊する。
沈黙、沈黙、沈黙、沈黙、だ。

((き、気まずい・・・・・・・・・・!))

「あ、あのー、八重葎くんは、何中出身ですか?」
「ふぇ?◯、○○中です。澪標さんは何中でしたっけ?」
久しぶりに女子と会話?したから変な声出ちゃった。
「私も○○中です。同じなんですね」
「あ、うん。そうだね・・。ははは・・」
・・・・・・・・・。

プリントを持ってきた後、授業が始まるまで待機する。
女子と二人きりで気まずいので、僕はスマホをいじる。
澪標さんもそれを察知したかのように、スマホを取り出した。
スマホを取り出す際、焦って床に落とした。
「あ、スマホ落としましたよ」
・・・・・!あ、しまった。咄嗟に手が出てしまった。
また嫌がられるかも。
「あ、ありがとうございます」
僕が差し出したスマホを素早くしまった。
やっぱりか。ごめんよ、澪標さん。

放課後、日直の仕事を済ませ、帰ろうとした僕はスマホを落としてしまった。
それを同じ日直の澪標さんが拾う。朝とは反対だ。
「あ、スマホ落としましたね。どう・・・・」
?何を言い淀んでいるんだろう。
「・・・八重葎くんて、アニメ好きなんですか?」
「・・・・・・へ?」
落ちたスマホの画面を自分に向けた。
!やば、僕のスマホのホーム画面の壁紙は好きなアニメの押しキャラになっているのを思い出した。
うわー。絶対引かれたよ。・・・まあ、もう嫌われているから別にい・・
「・・・私も観てますよ?」
「な、何が?」
「・・・・お、面白いですよねー・・・」
・・・・・ええ!?澪標さん知ってたのか!?
彼女の意外さに驚きつつ、少し踏み込んでみる。
「・・・・一昨日の放送観ました?」
「もちろんです!作画凄かったですし、カッコよかったですよね!」
「確かに!でも敵もカッコよかった」
「分かります!それ!」
盛り上がる中、クスクスと周りの生徒の笑い声が聞こえると、互いに恥ずかしくなった。
「・・・帰りますか」
「か、帰りましょう」

帰り道、澪標さんとのアニメ談議に花咲かせた。
す、すごい。僕女子とこんなに話したことないや。
「あ、わ、私ここでさよならです」
「え、あ、そうなんだ・・・」
・・・・・・・・・。
「あの・・・」
「また明日・・・です」
・・・・・!
「・・・うん。また、明日」

・・・べ、別に寂しくないしー。
・・・しかし、”また明日”か・・・。

・・・・・・あ。明日土曜だった。


月曜 


いつも通り登校し、いつもの席に着席し、いつも通りスマホをいじる。
きっと彼女はもう忘れてる・・・。
期待なんてするな。
いつだって・・・期待をすれば・・・・

「おはよう・・・ございます・・・です」
「!・・・おはよう、です」
・・・・挨拶された。
「・・・き、今日もしてもいいですか?」
「・・・何をするんですか?」
「・・・ア」
ア?
そう発すると、少しだけ僕に近づき呟いた。
「・・・アニメの話なんですけど・・・」


この人生が一つの物語だとするならば、僕は小さいころに夢見た主人公(ヒーロー)じゃない
主人公を助けるサブキャラでも、主人公の因縁のライバル、でもないんだろう・・・

・・・・・・それでも。


「・・・そう、ですね。話しましょう!」
と、面を食らいつつも嬉々として返す。

・・・・・・それでも。
そんな物語を期待してもいいのかもしれない。
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