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僕の私の共通項
しおりを挟む澪標さんと話すようになってから、彼女について分かったことがある。
それを三点に分けて、紹介しようと思う。
「八重葎君!昨日の放送観ましたか?」
「う、うん。面白かったよねー、ははは」
「私はですねー、あのキャラが好きなんですよ」
まず一点。
彼女は本来お喋りが好きなようだ。特に好きなものの話になると、人が変わったように饒舌になる。前のめりになってまで、積極的に話をする澪標さん。見ていて微笑ましい限りだ。
「あ、じゃあ澪標さんは、あのアニメ見ましたか?」
「あ、その・・・、すみません。見てません」
「・・・なんかすいません」
二点。
彼女はアニメや漫画は好きだが、詳しいというわけではない。自分とは好きなジャンルも異なっており、彼女は主に恋愛ものが好きとのことだった。自分はあまりそういった方面の作品には疎いので話が噛み合うということはあまりなかった。
自分としては少し寂しいような気もするが・・・。
「ねえ、八重葎くん」
背後から声をかけられ、振り向くと四方くんがいた。
「昼飯買いにいかないかい?」
「・・・うん、いいよ」
ちらりと澪標さんの様子を窺う。
澪標さんは僕に見向きもせず、スマホとにらめっこしていた。
「じゃあ、行こうか」
僕は四方くんと一緒に教室を出て、購買へと向かった。
三点。
彼女は極度の人見知りである。それも男子とは目も合わせられないほど。だから、僕が四方くんといる時は決まって知らぬふりをする。長い前髪でその表情までは読み取ることはできなかったが、先刻までの澪標さんは影を潜めていたことは見て取れた。
以上の三点が、彼女についての僕の所感である。
◯
八重葎くんと話すようになってから、私と彼はどこか似ているのだと思いました。
その類似点を三点に分けて、紹介したいと思います。
「・・・今日は一人なんですか?いつも食べてる男子は・・・」
昼食を食べている彼に、隣の席から言葉をかける。
「四方くん、今日公欠だからね・・・」
彼は行き場のない思いと共に、購買のパンを口いっぱいにほおばった。我ながら無神経な発言をして、彼をすこし苛立たせてしまったのではないかと思った。
「あ、すみません・・・」
「別に気にしてないすよ、いつもこんな感じですし」
八重葎くんは淡白な感じで、気にかけてくれた。
類似点その1。
私と八重葎君は友達が少ないらしい。彼曰く友達と呼べるような人は四方くんだけとのこと。かくいう私は、そういう人すらいないんですけど・・・。
「あの、なら一緒に食べないですか?」
私は食事の相席を提案しました。すると、八重葎くんは素っ頓狂な声を上げました。
「へ?一緒にって・・・やめた方がいいっすよ。僕みたいな奴と同類と見られますよ」
「いや・・・その、そんなつもりじゃないですけど。むしろ私とかの方がやめた方がいいですよ!」
「自分で誘ったのに!?」
私は勢いよく突っ込まれてしまいました。
類似点その2。
私も八重葎くんも基本的にネガティヴなのです。互いに人見知りで口下手で、俗にいうコミュ力というものも持ち合わせておりません。ですが、八重葎くんの場合は私ほどひどくありません。知らない人には極力話したくないだけで、話さないといけないのなら普通に話せるそうです。羨ましい限りです。
「まあ、澪標さんが気にしないなら、僕は構わないっすよ」
「じゃ、じゃあ、机合わせますね・・・。んしょ、っと」
お互いの机を横に並べただけですが、なんだか八重葎くんとの距離も近くなった気がします。・・・と思ったのですが、八重葎くんは私が近寄ると椅子を離しました。
「・・・あ、じゃあ、その、どうしますか?」
「えと・・・、とりあえずご飯食べたらいいんじゃないすか?」
「た、確かに・・・。で、では、いただきます・・・」
・・・・・・・・・・・・。そこで会話は途切れてしまい、沈黙の時間が訪れてしまいました。距離も距離なので、お互いの食べる音すら聞こえてきそうです。この居心地の悪さは何とかしないといけません。私が何か話題を振らないと・・・。
「あ、あの、八重葎くんは何のアニメが好きなんですか?」
「基本何でも好きですよ。でも、やっぱり王道の少年漫画系がいいですね。観ていて単純に面白いですから。特に・・・」
八重葎くんの口から少年漫画における専門用語でしょうか?それが堰を切った様に溢れ出ていきます。正直何を言っているのかサッパリで、私では手に負えません。
「澪標さんは何のアニメが好きなんですか?」
「ふぇい!?わ、私はどちらかと言うと少女漫画とかの方が好きですけど・・・」
「あっ・・・。すみません。長々と話しちゃいました・・・」
「い、いや、面白かったですよ・・・」
すみません、八重葎くん。私は嘘を付きました。
類似点その3。
アニメ好き。でも、好きなジャンルは別々です。たまに、好きな作品が被ることはありますが。アニメの話をしてる八重葎くんはとても楽しそうで、正直私達における唯一の共通の話題です。八重葎くんも本当はおしゃべりなのかもしれません。
以上の三点が、彼と私の類似点です。
◯
澪標さんと話すようになって一週間が経った。正直に言えば、彼女との会話は僕にとっても楽しくて有意義なものだった。そんな僕達にも学生は避けて通れないイベントがやってくる。学期末テスト、だ。僕はどちらかと言えば文系科目を得手としているが、その反面理系科目が苦手だ。だからこそ放課後の時間教室に残り、数学のテキストを机上に広げているのだ。
(数学、分かんねーんだよなぁ。論理的思考だけが全てじゃないんだよ。柔軟な思考だって必要とされているんだ・・・)
と、頭の中でぼやいているばかりで、ペンを持つその手は一向に進むことはなかった。訳の分からない言語と向き合うのも些か飽きてきたところで、背伸びをすると同時に窓の方を見やると、澪標さんも残って勉強していることに気付いた。どうやら彼女も勉強をしているようで、英語のテキストを開き、むむむ、と渋い表情を浮かべていた。
「英語、苦手なんすか?」
「・・・はい、リスニングはまだ大丈夫なんですが、単語がなかなか覚えられなくて。八重葎くんは何の勉強ですか?」
「数学っす。理系科目が苦手なんで。参考書読んでも、全然分かんないんですよ」
「数学、か・・・あの、よかったら私教えますよ?」
彼女は少しだけ悩んだ末、遠慮気味に言った。僕は久しぶりに家族以外の人に優しくされたので固まってしまった。
「す、すみません・・・嫌、でしたか?」
彼女はしくじった、と言わんばかりに顔を俯かせ、恐る恐る言っているように感じた。
「い、いや、ありがたいですけど・・・いいんすか?こっちとしては澪標さんの時間をもらうのも忍びないというか・・・」
「いえ、私も行き詰まっていたので、丁度いいですよ」
「・・・なら、お願いするとしますか」
彼女は椅子を僕の席に寄せると、磁石のS極とN極のように僕は自分の椅子を遠ざけた。澪標さんは意外とパーソナルスペースが広い。だからこそ、この僕にここまで近づくことが出来るのだろう。そんな彼女に対して、僕は狭い方だ。流石の僕もこの至近距離では少しどぎまぎしてしまう。
「えと、どの辺が分からないんですか?」
「なぜ数学を学ぶのか」
「あ、そういう哲学的なことじゃなくてですね」
「すみません・・・んー、ここかな?」
そう言うと、僕は計算途中の数式を指差した。すると、澪標さんは顎に手を当て、問題文に顔を近づけた。
「あ、これなら簡単ですよ!これはです・・・ね・・・」
彼女がこちらを振り向くと、僕らの顔は目と鼻の先くらい近くなっていた。それはもう彼女の前髪で隠れた瞳が見えるほどに。ちらりと見えた彼女の眼はとても綺麗だった。
「す、すみません!」
「・・・うす」
お互いにそっぽを向いて、一定の距離を保った。
「・・・あ、じゃあ解き方教えますね・・・」
「・・・お願いします」
何とも言えない気まずさの中、僕は澪標さんから訓育を受けた。彼女の解説は僕にとっても分かりやすいもので、理解はそう難しくなかった。
彼女のおかげで勉強に集中することができ、気付けば日も暮れ外は暗くなっていた。
「・・・もうこんな時間か。ありがとう、澪標さん。君の説明、分かりやすくて良かったよ」
「いえいえ、感謝されるほどのことじゃないですよ」
「けど、澪標さんは自分の勉強は進められなかったよね、ごめん」
「あ、気にしなくて大丈夫です。それに・・・、八重葎くんと、友達と勉強したの初めてで嬉しかったですし・・・」
・・・友達、か。彼女は僕のことを友達と思ってくれているのか。それは本心なのか、それとも・・・・・・考えたってしょうがないな。彼女は僕に勉強を教えてくれた。それは紛れもない事実じゃないか。今はそれだけで十分だ。しかし、貸しを作ってしまうのも個人的にはモヤモヤするな。それなら・・・
「澪標さん」
「はい?」
「これ貸すよ・・・ほいっ」
彼女に向けてカバンの物をいくつか投げると、彼女は少しあたふたしながら全部キャッチした。僕が彼女に投げたもの、それは英語の単語カードだ。
「これって・・・」
「見ての通り単語カードさ。今度のテスト範囲の分全部カバーしてる」
「で、でも、これ八重葎くんも必要なんじゃ・・・」
「いや、その単語は全部暗記したしから大丈夫。それに・・・今回のお礼ってことで使って欲しい」
彼女は単語カードをじいっと見つめ、
「ありがとうございます!早速家で使いますね」
と、僕の目を見て感謝の辞を述べた。そんな時、僕らの下校を促すかのようにチャイムが校内に鳴り響いていた。
「あっ、私帰らなきゃです。それではまたっ」
彼女は机の上の物を急いでカバンに入れ教室を出ようとしていた。
・・・僕は彼女との関係をこれで終わらせたくない。一緒に昼食を食べたい。一緒に勉強をしたい。そう思った僕は咄嗟に彼女を教室を出ていくところで呼び止めた。
「あ、あのっ!」
彼女は僕の方を振り向いた。
「ま・・・・・また、明日」
「は、はいっ、また明日、です」
彼女は最後に笑ってそう言うと、タタタっと廊下を駆けていった。
教室に一人取り残された僕は一人考え込んでいた。
・・・違う。もっと言いたいことが、伝えたいことがあったのに。圧倒的に言葉足らずだ。なんでこういう時に限って言いたいことを言えないんだ。本当はもっと・・・。
・・・・・・まあ、いいか。言いたかったことはいつか話すとするか。
例えば”明日”とかな。
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