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ミネラルウォーター① ※
五分ほど移動したタクシーは、おしゃれな外観の建物前で停車する。
店からほど近い場所にあるこのデザイナーズマンションが葉山さんの家なのだろうか。
そんな疑問が解決されることはないまま、当たり前のように繋いだ手を引かれ、エレベーターに乗り込んだ。
五階建てマンションの四階。角部屋。次々と入ってくる情報を飲み込めないまま、葉山さんが鍵を開けて扉を開く。
「上がって」と声を掛けられると、魔法にかかったように自然と足が動いた。
「……お邪魔します」
「あはは、そんなに気を張らなくても大丈夫だよ」
急に家に入れてもらうことになったのだから、緊張してしまうのは仕方がないだろう。
早い展開に戸惑いつつも、ここが葉山さんの部屋なのだと思うと、つい中を観察してしまう。
広いキッチンにはたくさんの調味料が並んでいて、さすがプロだなと感心した。生活感はあるのにきちんと片付いたリビングは、センスのいい家具で統一されていておしゃれだ。
すごくいいところに住んでいるんだな。というのが、私の率直な感想である。
(葉山さんって、こういう家に住めるような人なんだ)
不意に、レストランで慎太郎が言っていたことを思い出した。
――ああやって挨拶しに出てくるってことは、ここのオーナーシェフ?
そんなこと聞いていないとさっきは否定したけれど、ここに来て急に、葉山さんと自分の差を感じて不安に襲われる。
「あの、葉山さんって……」
「香月さんはシャワー使う?」
話し出したのは同じタイミングで、私の問いが最後まで言葉になることはなかった。
代わりに「えっ?」と上擦った声を出してしまい、数秒間無言のままで葉山さんと向かい合う。
「あの……」
「うん?」
「シャワーが必要なことの前に、その……キスとか、しないんですか……」
驚いたように目を見開いた葉山さんの前で、だんだんと私の顔が熱くなる。
なんだか子供みたいなことを言ってしまった。
キスをして欲しいと、自分からおねだりしているような形になっている。
いろんな意味で恥ずかしくなり、きゅっとワンピースの裾を握る。
なんで私はこんな場所にいるんだろう。とても場違いな気がして、どうすればいいのか分からなくなる。
「キス……?」
「あの、違っ……。えっと、言ってからすることでもないと思うし、そういう雰囲気になってからでも全然いいので……」
「ああ……その、ごめんね。一度そういうことしちゃうと、途中で止まらなくなりそうだから我慢してた」
「え……」
距離を詰められ、ゆっくりと伸ばされた手が私の頬に触れる。
少しだけ屈んだ葉山さんの顔が、びっくりするほど近くにあった。
「もうしてもいい? 止まらなくて、そのままベッドに連れていっちゃうかもしれないけど」
するりと頬が撫でられ、ヒュッと上擦った息が漏れる。
何をするのか分かってここまで着いてきたのに、びくりと肩が跳ねて過剰な反応をしてしまう。
嫌だと思ったわけではない。葉山さんが無理やり何かをするような人ではないことくらい、私だってちゃんと分かっている。
ただ、葉山さんが急に別人のように雰囲気を変えるから、そのせいで身構えてしまうのだ。
大人の男の人らしい、静かな色気に酔いそうになる。
「怖い?」
「下着……ちゃんとしたの着けてるか不安になって、準備してたわけじゃないから、あの……」
「あー……可愛いな。このまま触りたい」
「えっ? あ、でも……」
「待ってるからシャワー浴びておいで。そのままでも僕は気にしないけど、香月さんが気になるなら下着も脱いできたら? 着れそうな服貸すね」
「……ありがとうごさいます」
小さくお礼を口にすると、一度距離が開く。
大きな厚手のTシャツを手渡され、「バスルームはあっち」と説明を受けた。
目まぐるしく変わっていく状況に、もうずっと心臓がバクバクとうるさい。自分の行動におかしいところがないか心配になってくる。
脱衣所でワンピースを脱ぎ、鏡に映る自分の姿を確認する。
シャワーを借りる前に下着の色を確認し、ほっと胸を撫で下ろした。
(よかった。下着、ちゃんと可愛いやつだ)
この下着なら、着用したままベッドに向かっても構わないだろう。そう思いながら下着も外し、フロストガラスの扉を開ける。
ホテルのようなおしゃれなバスルームだが、葉山さんが普段使っているものだと思うと落ち着かない。
念入りに身体を洗いながら、自分を落ち着かせるようにふーっと息を吐いた。
バスタオルで水分を拭い、もう一度下着を着ける。葉山さんのTシャツは、私の太腿まで丈があった。下着を着けなくてもいいように、丈が長めのものを選んでくれたのかもしれない。
私の服とは違う匂いがする。シャワーを終えたばかりなのに、緊張でじとりと肌に汗が滲む。
「あの、シャワーお借りしました……」
ゆっくりと扉を開き、リビングに戻って葉山さんに声をかける。
静かにこちらを見た葉山さんは、ソファから立ち上がると優しく私の背を押して、部屋を移るように促した。
扉を隔てて、リビングとは別の部屋。
ダブルサイズのベッドが置かれた寝室に通され、分かっていたことなのにまた心臓が騒がしくなる。
「僕もシャワー浴びてくるね。すぐ戻るからここで待ってて」
「……はい」
喉の奥がひりつく。可愛い声が出せない。
私の返事を聞いた葉山さんは、一度頷いてから寝室を出ていった。
ベッドの端に座り、俯きながら葉山さんの帰りを待つ。
一分、二分、と進んでいく時間の流れが、いつもより何倍も遅く感じた。
実際の待ち時間は五分にも満たない。けれど、その短い時間をどう過ごしていたのか思い出せないくらい、私はひどく緊張している。
「ごめんね。待たせた?」
「……そんなことない、です」
話しながら距離を詰められ、葉山さんもベッドに座る。
インナーのように薄いTシャツと、ハーフパンツ。晒されている肌面積が多いせいで、少し近づくと、脚や腕に直接肌が触れてしまう。
「すごく硬くなってるみたいだけど大丈夫? もしかして初めて?」
そう見えるほどに、私はガチガチになっているのだろうか。
過去に恋人がいたことだってあるし、初めての経験はもう何年も前のことだ。
しかし、その時以上に自分が緊張している気がして、その理由がよく分からない。
葉山さんのことを怖いと思ったことなんてないのに、何が違うのだろう。
要らぬ誤解を与えたくなくて、ふるふると首を振る。
「経験、あります。久しぶりだから少し緊張しているだけで……」
「そっか。それじゃあ、もう触っていい?」
「……うん」
私の指先に触れた葉山さんの手が、ゆっくりと肌を辿り肩を掴む。身体の向きを変えられ、そのまま唇が合わさった。
「んっ……」
唇が触れて、一度離れる。すぐに訪れた二度目は、一度目よりも長い時間触れ合い、先ほどよりも深くなった。
私の震える呼吸ごと、葉山さんの大きな口に食べられていく。
「は、葉山さん……」
「うん、こっち来て」
もう逃げられないのだと、直感が告げている。ベッドの真ん中に移動し、葉山さんに押し倒される形でシーツに背をつけた。
深くなる口付けを逃すことができず、差し込まれた舌が丁寧に口内を撫でる。
ここまでされてようやく、自分が過剰なほどに身構えていた理由が分かった。
もう、ずっと葉山さんが笑ってくれていないのだ。
私のほうもずっと緊張した顔をしていると思う。でも葉山さんの表情は、緊張とはまた違う感情が込められているように感じられた。
一度唇が離れ、繋がった唾液がぷつりと切れる。
下から見上げた葉山さんの目はギラギラしていて、どうしても怖くなる。服の上から控えめに胸を揉まれ、またびくりと私の身体が震えた。
「っ、あ……」
「柔らかいね。声も、凄く可愛い」
そう言われた瞬間に、思わず両手で口を覆ってしまう。
身体の反応、声、表情。いやらしい自分を葉山さんに知られていくことに、まだ少しだけ抵抗があった。
片手で口を覆ったまま、空いている方の自分の手を、私の胸に触れている葉山さんの腕へと伸ばす。弱々しく触れるだけでは、抵抗だとも思ってもらえない。
(葉山さんの腕、全然動かせない)
しっかり筋肉のついた身体だということが、服の上からでも分かる。
最初の印象から、可愛い人だと思うことが多かった。それなのに今私の目の前にいるのは、しっかりと男の人だ。
可愛いなんて言えない。ドキドキする。かっこいいと思う。この行為が嫌なわけじゃない。
好きだと思う気持ちは本物なのに、どうしてもぎこちない反応になってしまう。
「隠さないで。顔見たい」
「っあ、まだ恥ずかしいから、もう少しだけ待ってください……」
「そういう反応も可愛いけど、駄目」
こつんと額が合わさり、至近距離で葉山さんと目を合わせることになった。
口元を隠していた左手は、葉山さんに掴まれて顔の横にずらされる。
「たくさんキスしたいな。こっち向いて」
「ん、ふっ……」
「ん……」
吐息交じりの低い声が鼓膜を揺らす。
聴覚から欲を煽られているようで、下腹部がわずかに疼いた。
こんなにいやらしいキス、続けられたらおかしくなる。
「んっ、ん……」
「は……すごく可愛い。キスするの気持ち良いね?」
「あ、葉山さ……」
葉山さんが声を出すとき一ミリだけ離れた唇は、私の返事を食べるように、また直ぐに深いキスに変わる。
口の中を丁寧に愛撫されているみたい。本当に気持ちが良くて、無意識に声が出る。
どろどろに甘やかされて、理性と一緒に溶かされていく。
「名前で呼びたい。いい?」
「うん……」
「真衣も呼んでくれる? 僕の名前、知ってるよね」
「ん。……お、理さん」
褒めるようにまた口付けられ、優しい舌の動きにお腹の奥が熱を持った。
自分の声が驚くほどいやらしいものに聞こえて、情けなくて泣きそうになる。
(今、理さんって名前を呼んだだけなのに、甘えているような響きになった)
なんだかいやらしいことをする合図のようで、こんな呼び方はもう出来ない。
葉山さんには葉山さんでいてほしいのだ。
自分でも何を言っているのか、よく分からなくなってきた。
(この距離で声聞かれるの、恥ずかしくて嫌だ……)
私の胸に触れていた手が一旦退き、Tシャツの裾からゆっくりと差し込まれる。太腿に触れて、腰、脇腹、と滑るように上がっていき、背中に回されると下着のホックが外される。
締め付けがなくなって楽になった胸元に、今度は直接、葉山さんの手が触れた。
「あ、声でちゃ……葉山さ、」
「真衣、呼び方戻ってる。名前で呼んで」
「……っ緊張して、これ以上違うことするとおかしくなって……だから。名前だけ、今までみたいに呼びたいです……」
たったこれだけを訴えるのに、情けなく声が震えた。
葉山さんの寝室に来てから、私はまともに喋れていない気がする。
「葉山さん……あの、続き…….」
「うん。それも可愛いから、真衣の好きに呼んで」
許しが出たことに安心して、一瞬油断してしまった。
また優しく口付けられて舌が絡み、頭の中がふわふわする。
度数の高いお酒みたいだ。この空気に酔いそうになる。
「あ、あっ……」
「暑いね。脱いじゃおうか」
返事をする前に服を捲られ、ブラと一緒に腕から抜かれる。
ショーツ一枚だけが残され、無意識のうちに脚を擦り合わせた。
暑いわけではないのに、身体が火照って肌が汗ばむ。しかし不思議と、触らないで欲しいという気持ちは湧かなかった。
下着の上から割れ目をなぞられ、びくりと身体が反応する。
爪の先で優しく芽を引っ掻かれ、直接的な刺激に耐えようとぎゅっと指先に力を入れた。
どうしよう。指、気持ち良い。
「ンッ……は、ぁ」
観察するように見下ろされ、見られていることにまた羞恥が募る。しかしそれさえも欲を煽る要因にしかならず、声が我慢できない。
葉山さんの指の動かし方も、少しずつ激しいものに変わっていく。
「ひぅ、あ……あっ、ん。んんっ、ふ……あぁ……っん」
下着の隙間から指を入れられ、形を確かめるように窪みを往復する。濡れているそこに指先が埋まり、そのままゆっくりと奥まで沈んでいった。
断続的に甘えるような声を出してしまい、下腹部にどんどん熱が溜まっていく。指を埋めた状態で、葉山さんの親指が器用に私の陰核を潰した。
「ッン……、ぁ、やだ……っひぅ、あっ」
膣内にある葉山さんの指を、きゅうっと締めつけてしまう。
少し擦れるだけで気持ち良くて、もう、ずっと身体がおかしい。
「は、葉山さん……」
「気持ち良いね? 凄いとろとろになってる」
「もっ、なんでこんな、私……っん」
触っていい? 名前で呼んでいい? と、ひとつずつ確認してくれたのは最初だけだった。
葉山さんは私の様子を見て、いけると判断したら構わず次に進んでしまう。
もし聞かれていたとしても、恥ずかしくて返事などできなかったとは思うけれど。
「あっ、や……そこ、今するの……っく、ンン」
びくりと腰が跳ね、強張っていた身体から一気に力が抜ける。
軽くイッてしまったようで、みっともなく呼吸が乱れた。
店からほど近い場所にあるこのデザイナーズマンションが葉山さんの家なのだろうか。
そんな疑問が解決されることはないまま、当たり前のように繋いだ手を引かれ、エレベーターに乗り込んだ。
五階建てマンションの四階。角部屋。次々と入ってくる情報を飲み込めないまま、葉山さんが鍵を開けて扉を開く。
「上がって」と声を掛けられると、魔法にかかったように自然と足が動いた。
「……お邪魔します」
「あはは、そんなに気を張らなくても大丈夫だよ」
急に家に入れてもらうことになったのだから、緊張してしまうのは仕方がないだろう。
早い展開に戸惑いつつも、ここが葉山さんの部屋なのだと思うと、つい中を観察してしまう。
広いキッチンにはたくさんの調味料が並んでいて、さすがプロだなと感心した。生活感はあるのにきちんと片付いたリビングは、センスのいい家具で統一されていておしゃれだ。
すごくいいところに住んでいるんだな。というのが、私の率直な感想である。
(葉山さんって、こういう家に住めるような人なんだ)
不意に、レストランで慎太郎が言っていたことを思い出した。
――ああやって挨拶しに出てくるってことは、ここのオーナーシェフ?
そんなこと聞いていないとさっきは否定したけれど、ここに来て急に、葉山さんと自分の差を感じて不安に襲われる。
「あの、葉山さんって……」
「香月さんはシャワー使う?」
話し出したのは同じタイミングで、私の問いが最後まで言葉になることはなかった。
代わりに「えっ?」と上擦った声を出してしまい、数秒間無言のままで葉山さんと向かい合う。
「あの……」
「うん?」
「シャワーが必要なことの前に、その……キスとか、しないんですか……」
驚いたように目を見開いた葉山さんの前で、だんだんと私の顔が熱くなる。
なんだか子供みたいなことを言ってしまった。
キスをして欲しいと、自分からおねだりしているような形になっている。
いろんな意味で恥ずかしくなり、きゅっとワンピースの裾を握る。
なんで私はこんな場所にいるんだろう。とても場違いな気がして、どうすればいいのか分からなくなる。
「キス……?」
「あの、違っ……。えっと、言ってからすることでもないと思うし、そういう雰囲気になってからでも全然いいので……」
「ああ……その、ごめんね。一度そういうことしちゃうと、途中で止まらなくなりそうだから我慢してた」
「え……」
距離を詰められ、ゆっくりと伸ばされた手が私の頬に触れる。
少しだけ屈んだ葉山さんの顔が、びっくりするほど近くにあった。
「もうしてもいい? 止まらなくて、そのままベッドに連れていっちゃうかもしれないけど」
するりと頬が撫でられ、ヒュッと上擦った息が漏れる。
何をするのか分かってここまで着いてきたのに、びくりと肩が跳ねて過剰な反応をしてしまう。
嫌だと思ったわけではない。葉山さんが無理やり何かをするような人ではないことくらい、私だってちゃんと分かっている。
ただ、葉山さんが急に別人のように雰囲気を変えるから、そのせいで身構えてしまうのだ。
大人の男の人らしい、静かな色気に酔いそうになる。
「怖い?」
「下着……ちゃんとしたの着けてるか不安になって、準備してたわけじゃないから、あの……」
「あー……可愛いな。このまま触りたい」
「えっ? あ、でも……」
「待ってるからシャワー浴びておいで。そのままでも僕は気にしないけど、香月さんが気になるなら下着も脱いできたら? 着れそうな服貸すね」
「……ありがとうごさいます」
小さくお礼を口にすると、一度距離が開く。
大きな厚手のTシャツを手渡され、「バスルームはあっち」と説明を受けた。
目まぐるしく変わっていく状況に、もうずっと心臓がバクバクとうるさい。自分の行動におかしいところがないか心配になってくる。
脱衣所でワンピースを脱ぎ、鏡に映る自分の姿を確認する。
シャワーを借りる前に下着の色を確認し、ほっと胸を撫で下ろした。
(よかった。下着、ちゃんと可愛いやつだ)
この下着なら、着用したままベッドに向かっても構わないだろう。そう思いながら下着も外し、フロストガラスの扉を開ける。
ホテルのようなおしゃれなバスルームだが、葉山さんが普段使っているものだと思うと落ち着かない。
念入りに身体を洗いながら、自分を落ち着かせるようにふーっと息を吐いた。
バスタオルで水分を拭い、もう一度下着を着ける。葉山さんのTシャツは、私の太腿まで丈があった。下着を着けなくてもいいように、丈が長めのものを選んでくれたのかもしれない。
私の服とは違う匂いがする。シャワーを終えたばかりなのに、緊張でじとりと肌に汗が滲む。
「あの、シャワーお借りしました……」
ゆっくりと扉を開き、リビングに戻って葉山さんに声をかける。
静かにこちらを見た葉山さんは、ソファから立ち上がると優しく私の背を押して、部屋を移るように促した。
扉を隔てて、リビングとは別の部屋。
ダブルサイズのベッドが置かれた寝室に通され、分かっていたことなのにまた心臓が騒がしくなる。
「僕もシャワー浴びてくるね。すぐ戻るからここで待ってて」
「……はい」
喉の奥がひりつく。可愛い声が出せない。
私の返事を聞いた葉山さんは、一度頷いてから寝室を出ていった。
ベッドの端に座り、俯きながら葉山さんの帰りを待つ。
一分、二分、と進んでいく時間の流れが、いつもより何倍も遅く感じた。
実際の待ち時間は五分にも満たない。けれど、その短い時間をどう過ごしていたのか思い出せないくらい、私はひどく緊張している。
「ごめんね。待たせた?」
「……そんなことない、です」
話しながら距離を詰められ、葉山さんもベッドに座る。
インナーのように薄いTシャツと、ハーフパンツ。晒されている肌面積が多いせいで、少し近づくと、脚や腕に直接肌が触れてしまう。
「すごく硬くなってるみたいだけど大丈夫? もしかして初めて?」
そう見えるほどに、私はガチガチになっているのだろうか。
過去に恋人がいたことだってあるし、初めての経験はもう何年も前のことだ。
しかし、その時以上に自分が緊張している気がして、その理由がよく分からない。
葉山さんのことを怖いと思ったことなんてないのに、何が違うのだろう。
要らぬ誤解を与えたくなくて、ふるふると首を振る。
「経験、あります。久しぶりだから少し緊張しているだけで……」
「そっか。それじゃあ、もう触っていい?」
「……うん」
私の指先に触れた葉山さんの手が、ゆっくりと肌を辿り肩を掴む。身体の向きを変えられ、そのまま唇が合わさった。
「んっ……」
唇が触れて、一度離れる。すぐに訪れた二度目は、一度目よりも長い時間触れ合い、先ほどよりも深くなった。
私の震える呼吸ごと、葉山さんの大きな口に食べられていく。
「は、葉山さん……」
「うん、こっち来て」
もう逃げられないのだと、直感が告げている。ベッドの真ん中に移動し、葉山さんに押し倒される形でシーツに背をつけた。
深くなる口付けを逃すことができず、差し込まれた舌が丁寧に口内を撫でる。
ここまでされてようやく、自分が過剰なほどに身構えていた理由が分かった。
もう、ずっと葉山さんが笑ってくれていないのだ。
私のほうもずっと緊張した顔をしていると思う。でも葉山さんの表情は、緊張とはまた違う感情が込められているように感じられた。
一度唇が離れ、繋がった唾液がぷつりと切れる。
下から見上げた葉山さんの目はギラギラしていて、どうしても怖くなる。服の上から控えめに胸を揉まれ、またびくりと私の身体が震えた。
「っ、あ……」
「柔らかいね。声も、凄く可愛い」
そう言われた瞬間に、思わず両手で口を覆ってしまう。
身体の反応、声、表情。いやらしい自分を葉山さんに知られていくことに、まだ少しだけ抵抗があった。
片手で口を覆ったまま、空いている方の自分の手を、私の胸に触れている葉山さんの腕へと伸ばす。弱々しく触れるだけでは、抵抗だとも思ってもらえない。
(葉山さんの腕、全然動かせない)
しっかり筋肉のついた身体だということが、服の上からでも分かる。
最初の印象から、可愛い人だと思うことが多かった。それなのに今私の目の前にいるのは、しっかりと男の人だ。
可愛いなんて言えない。ドキドキする。かっこいいと思う。この行為が嫌なわけじゃない。
好きだと思う気持ちは本物なのに、どうしてもぎこちない反応になってしまう。
「隠さないで。顔見たい」
「っあ、まだ恥ずかしいから、もう少しだけ待ってください……」
「そういう反応も可愛いけど、駄目」
こつんと額が合わさり、至近距離で葉山さんと目を合わせることになった。
口元を隠していた左手は、葉山さんに掴まれて顔の横にずらされる。
「たくさんキスしたいな。こっち向いて」
「ん、ふっ……」
「ん……」
吐息交じりの低い声が鼓膜を揺らす。
聴覚から欲を煽られているようで、下腹部がわずかに疼いた。
こんなにいやらしいキス、続けられたらおかしくなる。
「んっ、ん……」
「は……すごく可愛い。キスするの気持ち良いね?」
「あ、葉山さ……」
葉山さんが声を出すとき一ミリだけ離れた唇は、私の返事を食べるように、また直ぐに深いキスに変わる。
口の中を丁寧に愛撫されているみたい。本当に気持ちが良くて、無意識に声が出る。
どろどろに甘やかされて、理性と一緒に溶かされていく。
「名前で呼びたい。いい?」
「うん……」
「真衣も呼んでくれる? 僕の名前、知ってるよね」
「ん。……お、理さん」
褒めるようにまた口付けられ、優しい舌の動きにお腹の奥が熱を持った。
自分の声が驚くほどいやらしいものに聞こえて、情けなくて泣きそうになる。
(今、理さんって名前を呼んだだけなのに、甘えているような響きになった)
なんだかいやらしいことをする合図のようで、こんな呼び方はもう出来ない。
葉山さんには葉山さんでいてほしいのだ。
自分でも何を言っているのか、よく分からなくなってきた。
(この距離で声聞かれるの、恥ずかしくて嫌だ……)
私の胸に触れていた手が一旦退き、Tシャツの裾からゆっくりと差し込まれる。太腿に触れて、腰、脇腹、と滑るように上がっていき、背中に回されると下着のホックが外される。
締め付けがなくなって楽になった胸元に、今度は直接、葉山さんの手が触れた。
「あ、声でちゃ……葉山さ、」
「真衣、呼び方戻ってる。名前で呼んで」
「……っ緊張して、これ以上違うことするとおかしくなって……だから。名前だけ、今までみたいに呼びたいです……」
たったこれだけを訴えるのに、情けなく声が震えた。
葉山さんの寝室に来てから、私はまともに喋れていない気がする。
「葉山さん……あの、続き…….」
「うん。それも可愛いから、真衣の好きに呼んで」
許しが出たことに安心して、一瞬油断してしまった。
また優しく口付けられて舌が絡み、頭の中がふわふわする。
度数の高いお酒みたいだ。この空気に酔いそうになる。
「あ、あっ……」
「暑いね。脱いじゃおうか」
返事をする前に服を捲られ、ブラと一緒に腕から抜かれる。
ショーツ一枚だけが残され、無意識のうちに脚を擦り合わせた。
暑いわけではないのに、身体が火照って肌が汗ばむ。しかし不思議と、触らないで欲しいという気持ちは湧かなかった。
下着の上から割れ目をなぞられ、びくりと身体が反応する。
爪の先で優しく芽を引っ掻かれ、直接的な刺激に耐えようとぎゅっと指先に力を入れた。
どうしよう。指、気持ち良い。
「ンッ……は、ぁ」
観察するように見下ろされ、見られていることにまた羞恥が募る。しかしそれさえも欲を煽る要因にしかならず、声が我慢できない。
葉山さんの指の動かし方も、少しずつ激しいものに変わっていく。
「ひぅ、あ……あっ、ん。んんっ、ふ……あぁ……っん」
下着の隙間から指を入れられ、形を確かめるように窪みを往復する。濡れているそこに指先が埋まり、そのままゆっくりと奥まで沈んでいった。
断続的に甘えるような声を出してしまい、下腹部にどんどん熱が溜まっていく。指を埋めた状態で、葉山さんの親指が器用に私の陰核を潰した。
「ッン……、ぁ、やだ……っひぅ、あっ」
膣内にある葉山さんの指を、きゅうっと締めつけてしまう。
少し擦れるだけで気持ち良くて、もう、ずっと身体がおかしい。
「は、葉山さん……」
「気持ち良いね? 凄いとろとろになってる」
「もっ、なんでこんな、私……っん」
触っていい? 名前で呼んでいい? と、ひとつずつ確認してくれたのは最初だけだった。
葉山さんは私の様子を見て、いけると判断したら構わず次に進んでしまう。
もし聞かれていたとしても、恥ずかしくて返事などできなかったとは思うけれど。
「あっ、や……そこ、今するの……っく、ンン」
びくりと腰が跳ね、強張っていた身体から一気に力が抜ける。
軽くイッてしまったようで、みっともなく呼吸が乱れた。
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