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18巻
1:波乱は向こうからやってくる
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【ロードゲーニク・ヴォウヴォットリア・サテル・サテリアル】
ストルファス帝国第一位皇位継承者。二十一歳。現在失踪中。
オルジェダーワ・ハウィラテル・ラテリアル現皇帝の第二子。
ケルラッシュ・ダヴィダリオア・ユリタ・ユリアリルの双子の弟。
ギルディアス・クレイストンに多大なる恩を感じているクレイストン崇拝者。クレイストンを崇拝する『聖龍団』の隠れ団員。
『隠蛇の帳』の惣領であるヒディ率いる一派に拉致され、帝都西の孤島ビオに囚われていた。
長い間必要最低限の食料と水分だけ与えられていたため、極度に衰弱している。
栄養失調・免疫機能低下・骨粗鬆症・脱水症・貧血・不整脈・気鬱・意識喪失・あと十日で死ぬかも。
完全回復薬は雫一滴を重湯に混ぜて服用させることを推奨。
サスケの腕でぐったりと力なく横たわる金髪の青年。
見た目は元の面影がわからぬほどに痩せこけている。それでもクレイはこの青年を殿下だと言った。数年会っていないというのに、しかも痩せて元の姿とはかけ離れているはずなのに。何だろう。主従にわかる特別な何かがあるのだろうか。
さてはて、これは今まで見た腹ペコ連中とは状況が違う。
手足は骨の形がわかるほど。顔色は限界まで悪く、土色というか人間の顔色には思えない。きっと太陽の光で輝くだろう美しい金の髪も、長い間放置されていたのかぱさぱさ。洗ってもいないのだろう。失礼だが、少し臭う。極限の飢餓状態。
えーっと、えーっと、とりあえず栄養失調ってことだよな。きっとアシュス村の人たちやアルナブ族たちよりも腹が減っている。弱っている。腹が減っているどころか合併症――栄養失調に伴う内臓異常まである。不整脈って心臓とかそういう系のアレだよな。
俺は医術の心得は全くないが、目の前の青年が危篤状態だというのは理解できる。あと十日で死ぬとか簡単に教えてくれるな。いや、お陰様でとにかくすぐさま治療しなければならないとわかった。
魔力の調整をせず無我夢中でお伺いをたてた調査先生の回答は、ちょっとだいぶかなりの予想を上回る情報を教えてくれた。情報が、多すぎる。クレイのファンクラブらしき隠れ団員なのは内緒にしておこう。そうしよう。
これは色々とクレイのゲンコツ案件かもしれないが、今はそこを追及している場合ではない。
目の前のガリガリに痩せた金髪の青年、サテル皇太子殿下を安静にさせなければ。
俺は馬車の中を指さし、愕然としている面々に声を上げた。
「皆、馬車の中に! サスケさんもそのまま馬車に入ってください!ビー、お客様用の寝台を支度!」
「ピュッ⁈ ピュ、ピュイ!」
「プニさんは馬車を移動してください。目立たない、できれば森の奥の開けた場所に移動してもらえますか? 馬車には強い結界魔法がありますので、Bランク程度のモンスターなら寄り付きません」
――造作もないこと
「ありがとうございます」
後でじゃがバタ醤油五個献上しよう。
「殿下! 殿下ぁ! なにゆえこのようなお姿に……っ! タケル、タケル、なんとかしてくれ! 頼む!」
普段なら誰よりも冷静に状況を把握するはずのクレイが、サテル殿下の状態を見て我を忘れている。頭をこれでもかと下げると、クレイの頭上を浮遊しているハムズたちが慌ててクレイの甲冑の中に入ってしまった。
取り乱したままのクレイがサテル殿下を抱えたら、力加減がわからずサテル殿下の痩せ細った身体に傷をつけてしまうかもしれない。
慌てながらもそのことは理解しているのか、クレイは通常の三倍くらいの怖い顔で俺を睨んだ。睨むな。怖い。
「クレイストン、落ち着くのじゃ! そのように衰弱しきったものを揺さぶるでない! このような痩せこけたもの、わたしは今まで見たことがない……どどどど、どうどう、どうすれば良いのじゃタケル!」
「おいらもここまで細っこい人は見たことないっす! 郷で飢えていた時もここまでは……ああああ、兄貴兄貴兄貴! おいらなんでもするっす! 何すればいいんす?」
サスケにサテル殿下を抱えてもらいながら馬車内部に移動すると、やっと今の状況を飲み込めたブロライトとスッスが慌て始めた。
周りが慌てれば慌てるほど、俺は逆に冷静になれる。
突如予想もしない事態に陥ると、何故か皆揃って俺を頼るんだよな。信頼されている証なのだろうが、俺だって何でもかんでも応えられるわけではないのに。
だが、そんなこと言っていられない。
大きく息を吸い込み、一度に吐き出す。
冷静になれば考えることができる。
俺に、俺たちにできる精一杯のことをやれば良い。
比べるのは失礼だが、ルセウヴァッハ領の伯爵であるベルミナントの奥方様がイーヴェルの毒に侵されていた時よりマシだ。サテル殿下は幸か不幸か毒は盛られていないようだ。
不整脈はあっても栄養不足が原因だから、ともかくゆっくりと栄養――飯を食わせよう。
「これだけ痩せているのじゃから、肉を食せば良いのではなかろうか!」
「いや、無理。ただ腹が減って力が出ない状態じゃない。この場合、えーっと、スッス、粥を作ったことがあるだろう? コタロがべっちょりぬるぬるって言っていた料理」
「べっちょりぬるぬる……? ああ、はいはい、わかったっす! とろとろのコメっすね!」
「そう。そのとろとろのコメを先ず作ってくれないか。ほんの少しだけ塩を入れてくれ」
「はいっす!」
スッスは俺が頼み終わる前に食糧倉庫に直行。
「ピュイ!」
ビーは客室から飛んで来ると、用意ができたと教えてくれた。
「ビー、ありがとう。サスケさん、あそこの部屋の寝台にサテル殿下を。ゆっくりと寝かせてください」
「諾」
蒼黒の団の馬車『リベルアリナ号』には団員それぞれに個室があり、それとは別に客室が用意されている。
どの種族にも対応できるよう、家具は大小二個づつ用意してある。大柄なクレイがゆったりくつろげる広さがあり、馬車の中とは思えない閉塞感のない部屋だ。
リベルアリナ号はエルフとユグルとドワーフの趣味が天元突破して出来上がった馬車故、内装がとんでもない。
必要ないと言ったのに、トルミ村に帰るたびに馬車の調整が入るのだが、その都度馬車は魔改造を施されている。やたらと豪華な調度品があちこちに飾られているんだよ。俺の部屋に飾ってある飾り棚、細工が美しいなと思ったらばエルフ作成の一級品。競売にかければ最低価格三千万レイブと聞いて悲鳴をあげた。なんてもん設置しやがった。
後々俺たちがサテル殿下を保護したことが明るみに出たとしても、この客室で対応したと言えば無礼にはならないだろう。アルツェリオ王国の大公閣下であらせられるグランツ卿すら、この馬車の客室は見事だと太鼓判を押してくれたのだから。
「ブロライトはサスケさんの手伝いを」
「了解じゃ!」
「クレイは花蜜入りの水、あれをできるだけ殿下に飲ませて」
「お、俺がか?」
「何か手伝わないと落ち着かないだろう? いいか? 相手は体調を壊したユムナだと思うように。ちっちゃい、ふわふわな柔らかい子供。手加減、力加減を間違えるなよ。ポッキリぐっきりいっちゃうからな。そうっと、やさしーく、やさしーく」
「お、応」
クレイは戸惑いながらも自ら腰に下げている巾着袋の中から、花蜜水が入っているだろう革袋を取り出した。
「革袋のまま飲ませないこと。匙で少しずつ、飲みたいと思うだけ飲ませてくれ」
「応!」
クレイの言葉に力が入った。よし、冷静さを取り戻せたな。クレイの頭上でふわふわと浮遊する頭虫であるハムズも、心なしかご機嫌そうに見える。
歴戦の勇士であるクレイだ。様々な現場で怪我人や重病人などは見慣れているだろう。騎士は基本的な怪我の手当てもできると聞いた。いつものクレイならサテル殿下の看病ができるはずだ。
サテル殿下を抱えたサスケは客室に移動。サスケについて行くブロライト。クレイは台所で匙を調達してから客室へと向かった。
スッスは米を洗い、竈で土鍋を支度中。竈と言っても火は使わない、火の魔石を応用した魔道具だ。IH焜炉に似ている。
馬車がぬるりと動き出した。揺れることは殆どない快適無敵の馬車だが、上下左右、前進後進の動きは些細な振動でわかるのだ。
今はゆっくりと上昇中……だいぶ飛んでいるな。どこまで飛ぶの? ああ、空飛ぶ馬車なんて目立つから、人の目を避けて移動してくれるんだな。プニさんの心遣いが有難い。
「ピュィ、ピュゥ……」
「大丈夫。大丈夫だ、きっと。今は酷い状態だが、きっとなんとかなる。なんとかする」
不安そうに嘆くビーを宥めつつ、俺もぶっちゃけ不安ではある。
だって、どれだけ弱っていようが相手は大帝国の次期皇帝様だ。
俺は一応アルツェリオ王国の国民なので、お隣大陸のお隣帝国はライバルというか、互いに意識し合う間柄なので、もしもこの尊い御方の御身に何か大事があろうものなら……
いやもう死にそうなんだけどね。
大事になりまくっているんだけどね。
ここから更に悪化させないよう、細心の注意を払って看病をしなければならない。
しばらく馬車の中で容体を安定させなければ。数日身動きができなくなるが、下手に動いて目を付けられるよりマシだ。ここはあくまでもお隣国なのだから。
それからグランツ卿とベルミナントに相談して、判断を仰ごう。療養するならトルミ村かな。隣国の皇太子を無断で連れて行っても良いものだろうかとは思うが。
いやだがしかし、劣悪な環境で監禁されていたというのなら、連れて行っても文句は言われるまい。監禁した連中の首は飛ぶかもしれないが、それは俺の知ったところではないのだ。
そういえば調査先生によるとサテル殿下には……
「タケル!」
客室からクレイの声が響く。
俺は急いで客室へと飛び込む。そこで見たのは。
【ロードゲーニク・ヴォウヴォットリア・サテル・サテリアル】
ストルファス帝国第一位皇位継承者。二十一歳。現在失踪中。
オルジェダーワ・ハウィラテル・ラテリアル現皇帝の第二子。
ケルラッシュ・ダヴィダリオア・ユリタ・ユリアリルの双子の弟。
ギルディアス・クレイストンに多大なる恩を感じているクレイストン崇拝者。クレイストンを崇拝する『聖龍団』の隠れ団員。
『隠蛇の帳』の惣領であるヒディ率いる一派に拉致され、帝都西の孤島ビオに囚われていた。
長い間必要最低限の食料と水分だけ与えられていたため、極度に衰弱している。
栄養失調・免疫機能低下・骨粗鬆症・脱水症・貧血・不整脈・気鬱・意識喪失・あと十日で死ぬかも。
完全回復薬は雫一滴を重湯に混ぜて服用させることを推奨。
サスケの腕でぐったりと力なく横たわる金髪の青年。
見た目は元の面影がわからぬほどに痩せこけている。それでもクレイはこの青年を殿下だと言った。数年会っていないというのに、しかも痩せて元の姿とはかけ離れているはずなのに。何だろう。主従にわかる特別な何かがあるのだろうか。
さてはて、これは今まで見た腹ペコ連中とは状況が違う。
手足は骨の形がわかるほど。顔色は限界まで悪く、土色というか人間の顔色には思えない。きっと太陽の光で輝くだろう美しい金の髪も、長い間放置されていたのかぱさぱさ。洗ってもいないのだろう。失礼だが、少し臭う。極限の飢餓状態。
えーっと、えーっと、とりあえず栄養失調ってことだよな。きっとアシュス村の人たちやアルナブ族たちよりも腹が減っている。弱っている。腹が減っているどころか合併症――栄養失調に伴う内臓異常まである。不整脈って心臓とかそういう系のアレだよな。
俺は医術の心得は全くないが、目の前の青年が危篤状態だというのは理解できる。あと十日で死ぬとか簡単に教えてくれるな。いや、お陰様でとにかくすぐさま治療しなければならないとわかった。
魔力の調整をせず無我夢中でお伺いをたてた調査先生の回答は、ちょっとだいぶかなりの予想を上回る情報を教えてくれた。情報が、多すぎる。クレイのファンクラブらしき隠れ団員なのは内緒にしておこう。そうしよう。
これは色々とクレイのゲンコツ案件かもしれないが、今はそこを追及している場合ではない。
目の前のガリガリに痩せた金髪の青年、サテル皇太子殿下を安静にさせなければ。
俺は馬車の中を指さし、愕然としている面々に声を上げた。
「皆、馬車の中に! サスケさんもそのまま馬車に入ってください!ビー、お客様用の寝台を支度!」
「ピュッ⁈ ピュ、ピュイ!」
「プニさんは馬車を移動してください。目立たない、できれば森の奥の開けた場所に移動してもらえますか? 馬車には強い結界魔法がありますので、Bランク程度のモンスターなら寄り付きません」
――造作もないこと
「ありがとうございます」
後でじゃがバタ醤油五個献上しよう。
「殿下! 殿下ぁ! なにゆえこのようなお姿に……っ! タケル、タケル、なんとかしてくれ! 頼む!」
普段なら誰よりも冷静に状況を把握するはずのクレイが、サテル殿下の状態を見て我を忘れている。頭をこれでもかと下げると、クレイの頭上を浮遊しているハムズたちが慌ててクレイの甲冑の中に入ってしまった。
取り乱したままのクレイがサテル殿下を抱えたら、力加減がわからずサテル殿下の痩せ細った身体に傷をつけてしまうかもしれない。
慌てながらもそのことは理解しているのか、クレイは通常の三倍くらいの怖い顔で俺を睨んだ。睨むな。怖い。
「クレイストン、落ち着くのじゃ! そのように衰弱しきったものを揺さぶるでない! このような痩せこけたもの、わたしは今まで見たことがない……どどどど、どうどう、どうすれば良いのじゃタケル!」
「おいらもここまで細っこい人は見たことないっす! 郷で飢えていた時もここまでは……ああああ、兄貴兄貴兄貴! おいらなんでもするっす! 何すればいいんす?」
サスケにサテル殿下を抱えてもらいながら馬車内部に移動すると、やっと今の状況を飲み込めたブロライトとスッスが慌て始めた。
周りが慌てれば慌てるほど、俺は逆に冷静になれる。
突如予想もしない事態に陥ると、何故か皆揃って俺を頼るんだよな。信頼されている証なのだろうが、俺だって何でもかんでも応えられるわけではないのに。
だが、そんなこと言っていられない。
大きく息を吸い込み、一度に吐き出す。
冷静になれば考えることができる。
俺に、俺たちにできる精一杯のことをやれば良い。
比べるのは失礼だが、ルセウヴァッハ領の伯爵であるベルミナントの奥方様がイーヴェルの毒に侵されていた時よりマシだ。サテル殿下は幸か不幸か毒は盛られていないようだ。
不整脈はあっても栄養不足が原因だから、ともかくゆっくりと栄養――飯を食わせよう。
「これだけ痩せているのじゃから、肉を食せば良いのではなかろうか!」
「いや、無理。ただ腹が減って力が出ない状態じゃない。この場合、えーっと、スッス、粥を作ったことがあるだろう? コタロがべっちょりぬるぬるって言っていた料理」
「べっちょりぬるぬる……? ああ、はいはい、わかったっす! とろとろのコメっすね!」
「そう。そのとろとろのコメを先ず作ってくれないか。ほんの少しだけ塩を入れてくれ」
「はいっす!」
スッスは俺が頼み終わる前に食糧倉庫に直行。
「ピュイ!」
ビーは客室から飛んで来ると、用意ができたと教えてくれた。
「ビー、ありがとう。サスケさん、あそこの部屋の寝台にサテル殿下を。ゆっくりと寝かせてください」
「諾」
蒼黒の団の馬車『リベルアリナ号』には団員それぞれに個室があり、それとは別に客室が用意されている。
どの種族にも対応できるよう、家具は大小二個づつ用意してある。大柄なクレイがゆったりくつろげる広さがあり、馬車の中とは思えない閉塞感のない部屋だ。
リベルアリナ号はエルフとユグルとドワーフの趣味が天元突破して出来上がった馬車故、内装がとんでもない。
必要ないと言ったのに、トルミ村に帰るたびに馬車の調整が入るのだが、その都度馬車は魔改造を施されている。やたらと豪華な調度品があちこちに飾られているんだよ。俺の部屋に飾ってある飾り棚、細工が美しいなと思ったらばエルフ作成の一級品。競売にかければ最低価格三千万レイブと聞いて悲鳴をあげた。なんてもん設置しやがった。
後々俺たちがサテル殿下を保護したことが明るみに出たとしても、この客室で対応したと言えば無礼にはならないだろう。アルツェリオ王国の大公閣下であらせられるグランツ卿すら、この馬車の客室は見事だと太鼓判を押してくれたのだから。
「ブロライトはサスケさんの手伝いを」
「了解じゃ!」
「クレイは花蜜入りの水、あれをできるだけ殿下に飲ませて」
「お、俺がか?」
「何か手伝わないと落ち着かないだろう? いいか? 相手は体調を壊したユムナだと思うように。ちっちゃい、ふわふわな柔らかい子供。手加減、力加減を間違えるなよ。ポッキリぐっきりいっちゃうからな。そうっと、やさしーく、やさしーく」
「お、応」
クレイは戸惑いながらも自ら腰に下げている巾着袋の中から、花蜜水が入っているだろう革袋を取り出した。
「革袋のまま飲ませないこと。匙で少しずつ、飲みたいと思うだけ飲ませてくれ」
「応!」
クレイの言葉に力が入った。よし、冷静さを取り戻せたな。クレイの頭上でふわふわと浮遊する頭虫であるハムズも、心なしかご機嫌そうに見える。
歴戦の勇士であるクレイだ。様々な現場で怪我人や重病人などは見慣れているだろう。騎士は基本的な怪我の手当てもできると聞いた。いつものクレイならサテル殿下の看病ができるはずだ。
サテル殿下を抱えたサスケは客室に移動。サスケについて行くブロライト。クレイは台所で匙を調達してから客室へと向かった。
スッスは米を洗い、竈で土鍋を支度中。竈と言っても火は使わない、火の魔石を応用した魔道具だ。IH焜炉に似ている。
馬車がぬるりと動き出した。揺れることは殆どない快適無敵の馬車だが、上下左右、前進後進の動きは些細な振動でわかるのだ。
今はゆっくりと上昇中……だいぶ飛んでいるな。どこまで飛ぶの? ああ、空飛ぶ馬車なんて目立つから、人の目を避けて移動してくれるんだな。プニさんの心遣いが有難い。
「ピュィ、ピュゥ……」
「大丈夫。大丈夫だ、きっと。今は酷い状態だが、きっとなんとかなる。なんとかする」
不安そうに嘆くビーを宥めつつ、俺もぶっちゃけ不安ではある。
だって、どれだけ弱っていようが相手は大帝国の次期皇帝様だ。
俺は一応アルツェリオ王国の国民なので、お隣大陸のお隣帝国はライバルというか、互いに意識し合う間柄なので、もしもこの尊い御方の御身に何か大事があろうものなら……
いやもう死にそうなんだけどね。
大事になりまくっているんだけどね。
ここから更に悪化させないよう、細心の注意を払って看病をしなければならない。
しばらく馬車の中で容体を安定させなければ。数日身動きができなくなるが、下手に動いて目を付けられるよりマシだ。ここはあくまでもお隣国なのだから。
それからグランツ卿とベルミナントに相談して、判断を仰ごう。療養するならトルミ村かな。隣国の皇太子を無断で連れて行っても良いものだろうかとは思うが。
いやだがしかし、劣悪な環境で監禁されていたというのなら、連れて行っても文句は言われるまい。監禁した連中の首は飛ぶかもしれないが、それは俺の知ったところではないのだ。
そういえば調査先生によるとサテル殿下には……
「タケル!」
客室からクレイの声が響く。
俺は急いで客室へと飛び込む。そこで見たのは。
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