素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒

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6巻

6-1



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 素材採取家。
 読んで字のごとく、素材を採取する専門家。
 ただの薬草拾いだろ? ハハッ、なんて思ったやつそこに座りなさい。小一時間ほど説明してやるから。
 あのな? 異世界マデウスでは町から出て散歩、なんて気楽にできないんですよ。町の外に出るということは、凶暴なモンスターが闊歩かっぽするテリトリーに侵入するということ。街道こそ整備されてモンスターは滅多めったに出没しなくなっているが、それでも危険なことに変わりがない。
 そんな危険地帯で様々な素材を採取するんだぞ。
 例えば薬草。多種多様の効能があり、採取の仕方によっては効能が消えてしまうものまで存在する。薬草ひとつでも多くの知識が必要であり、経験を積まなければ採取場所すら見つけることが難しい。
 このマデウスにおいて素材採取家っていうのは、縁の下の力持ちのような職業だと思うんだ。料理を作るにしても材料が必要になる。モンスターの肉や香辛料や調味料。貴族の嗜好品しこうひんや装飾品に至るまで、幅広く採取する。
 そりゃ第一線で活躍している戦士や魔法使いといった花形職業に比べれば地味だが、危険度は同じ。
 素材採取家として少しだけ有名になれたかな程度の俺だけど、この職業を選んでよかったと思っている。
 俺が素材採取家だったからつながった縁。出会えた仲間。新たな故郷。新天地。珍しい素材を見つけたときの喜びといったら、難問パズルを解いたとき以上に嬉しいのだ。


 俺の名前は神城かみしろタケル。
 地味だけど立派な職業、素材採取家。


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 薄暗い部屋。
 小さなランプの明かりがほのかにゆらめく。
 黒檀こくたんの机の上には整然と並べられた羊皮紙の数々。
 その中の一枚を手にし、お世辞せじにも綺麗きれいとは呼べない文字を指でなぞる。

「ねえ、これ読んだ?」

 声が響いた。
 少年のような、青年のような、優しい音。
 その声の主は羊皮紙を持ちひらひらとなびかせると、暗闇の中に浮かぶ影に語りかけた。

「情報が確かなら、ひと月だけでこれだろう? 信じられないというよりも、ありえない数値だ」

 彼は声を嬉しそうに弾ませながら、椅子いすから立ち上がり、優雅なステップで影に近づく。
 すると、ランプの明かりがさえぎられ、影に黒衣こくいまとわせた。

「イヴェルを王都に運ぶ計画はたれたけど、それよりも面白いことになっている。見てごらんよ。大陸の端にある田舎いなかまちで、この需要。どうしてだい?」

 弾む声とは裏腹に、手にした羊皮紙はいつの間にかぐしゃりと握りつぶされていた。
 声は踊る。鼻歌混じりにステップを踏むように。

「気になるなあ。気になるよね? どうしてかなあ。教えてほしいなあ」

 無邪気に笑うその声の主は、握りつぶした羊皮紙を影に投げつけた。

「使えないやつはいらないんだよ」

 シンとした部屋に冷酷な声が響く。
 忌々いまいましげに、吐き捨てるように。

「確かな情報を、その目で拾ってこい」

 ゆがむ顔を隠そうともせず、声の主は静かに命じた。

「おおせのままに」

 影は応えた。



 1 はる彼方かなたの道のりの、その先にある都へと


「……カニ天ぷらが食べたい」

 急に思いついた、さくさく黄金衣のカニ天ぷら。
 大ぶりの足をほふほふ言いながら塩で食いたい。
 俺がそう声に出してしまうと、ルセウヴァッハ領主ベルミナントの目が輝いた。

「タケルよ、それは何という料理なのだ? どこで食べることができるのだ」

 ベルミナントから興味深げに畳みかけるように聞かれ、返答に困る。
 天ぷらはマデウスのどこを探しても見つからないだろう。似たような料理はあるかもしれないが、あの繊細なさくさくの食感はなかなか作れない。考えたらますます食べたくなった。帰りに粉屋にでも寄って、オリジナル粉でもブレンドしてもらうかな。
 と、今夜の夕飯を妄想していたら――
 後頭部に突然の激痛。

「痛い!」
他所事よそごとをのんびりと考えておる場合か! お前はもっと緊張感を持て!」

 激痛と同時に飛んでくる怒鳴り声のせいで、子ドラゴンのビーは慌てて俺のローブの下へ逃げた。子供をおどかしたら駄目じゃない。

「のんびりって、別にのんびりしていたわけじゃないだろう」

 思いついてしまったんだから仕方がないんだ。こう、急に食べたい! となる瞬間がある。それが今だっただけで。
 ゲンコツと共に小言を言ってきたクレイにじっとりとにらまれ、さすがにゲンコツ第二弾は嫌なので更に言い募ることなく自重じちょうする。
 俺たちが今いるのは、グラン・リオ大陸北部に位置する商業都市ベルカイム。ルセウヴァッハ領主の屋敷にあるベルミナント・ルセウヴァッハの執務室だ。
 壁一面に並んだ様々な種類の本に囲まれた部屋の中央に、美しい応接セット。俺たちはそれぞれ豪華な長椅子に腰掛け、話し込んでいた。
 綺麗きれいな机の上には、この場に似つかわしくない木製の魔法瓶。
 クレイは魔法瓶の中に入っているハデ茶を一口飲むと、再度俺を睨んで低い声でうなるように言った。

頓狂とんきょうなことを言うのは、ブロライトだけでじゅうぶんなのだ。お前はもっとこう、気を引き締めろ」

 何気にブロライトを酷く言ったようにも思えるが、反論できません。
 ちなみに、いつも空気を読んでくれない二人組、エルフのブロライトと馬の神様のプニさんは、今は領主の奥方様のところに行っていてここにはいない。優秀な執事であるレイモンドが二人の傍にいるから、妙な真似はしでかさないだろう。そのうち屋敷の中を見物したり、庭ではしゃいだりしだすんじゃないかな。なんせこのお屋敷、すんごいでっかいから。
 それはさておき、俺たちが領主の屋敷を訪れている理由は、トルミ村でと、チームアジトができたこと、それとトルミ村の副産物について報告するためだった。
 ベルカイムのギルド「エウロパ」には報告済みで、受付主任グリッドにチームアジトを作ったから住所登録よろしくね、と言ったら怒られた。「どうしてベルカイムに作らないんですか!」と。ギルドの事務主任ウェイドやギルドマスターの巨人タイタンのおっさんからは怒られるだろうなあと思っていたんだけど、まさか温和なグリッドから言われるとは。
 しかしトルミ村で七色なないろウールが採れるかもしれないと付け加えたら、グリッドは目の色を変えていつ収穫できるのかと聞いてきた。でも、今年の収穫時期は終わっているし、来年の初夏に採れる七色ウールはエルフたちにあげるつもりなんだよな。
 とはいえ、レインボーシープの繁殖に成功したら、再来年の収穫は嬉しい悲鳴が上がるかもしれない。それまで気長に待っていてもらいたい。
 ちなみに、どうして辺境のド田舎の村でレインボーシープの飼育が可能になったのかについては、内緒にしておいた。これは領主にだけ本当のことを話し、あとは極秘にしてもらうのだ。そうじゃないと、我も飼育したいという欲深い連中がトルミ村に押し寄せてしまう。そんなことになったとしても、エルフたちはトルミ村の住人以外の人たちと仲良くはならないだろうし、親切に育成方法を教えるとも思えない。
 ベルミナントが感慨深げに口を開く。

「ベルカイムの税収だけでも前年に比べて大幅に増加したというのに、辺境の小さな村にまで更なる税を見込めるとは」

 彼は、トルミ村の副産物を聞いて大いに喜んでくれた。
 俺はトルミ村の整備について書いた報告書を、ベルミナントに提出していたのだ。
 報告書といっても、やらかしたことを嘘つかないで箇条書きにしただけ。
 おうちを綺麗にしました、温泉見つけました、キノコ栽培はじめました、レインボーシープの飼育はじめました、エルフが数人住んでるよ。まあ、このくらい。
 ベルミナントは、エルフが居住していることについては驚いていたが、実際はそれだけではない。ちなみにエルフ族については、アルツェリオ王国ほどの大国といえども不可侵、という暗黙の了解があり、まあ勝手に好きなように住めば、という扱いになっている。
 ただ住んでもらっているだけじゃなく、互いに技術提供をし合っていると話したら度肝どぎもを抜かすだろう。エルフ族が人間に技術提供をするだなんて、ありえないことらしいから。
 クレイがベルミナントの呟きを聞き取り微笑んだ。

「一定のもの以上を欲しがらないからな、あの村の住人は」
「うむ。この世の中において、なんとも有り難き民がいるものだ。私もそのうち領内を回って、礼を言いたい」

 そう言ってベルミナントは嬉しそうに微笑んだ。こういう性格の領主だからこそ、民は穏やかに生きていけるのだろう。
 ベルカイムのあるルセウヴァッハ領は、他の領と比べて豊かで平穏である。ベルカイムは冒険者がつどう都市だから荒くれ者が多いのだが、治安を守る警備の者たちが日々奮闘しているため平和だ。
 そしてこれは、クレイやブロライトやプニさんが、率先して悪党をらしめているというか、威圧しているからでもある。俺はカツアゲしようと絡んできた相手を、路地裏に連れ込んでデコピンするだけだから優しいほうです。
 ともかく、その土地に住む民は領主であるベルミナントを慕っている。税はきっちりと取るが決して無理をさせず、民の要望には真摯しんしに応え、民と領主が共になって領地を守る。そうやってルセウヴァッハ領は栄えてきたのだ。

「ピュイィ、ピュピュ」
「ん? これが食いたいのか?」
「ピュイイー?」
「ふふふふ。構わぬ、好きなだけ食べるがよい」

 俺のローブの下からのっそりと出てきたビーが、机の上に置いてある焼き菓子をふんふんとぎベルミナントに懇願した。これくれ、と。
 最近は自分が可愛いのだと自覚してきたんだよ、このお子さん。大きな目をぱちぱちとしばたたかせて小首をかしげる姿なんて、可愛い以外なんと言えばいい。あざといんだ、ビーのやつ。
 話を戻してベルミナントについて。クレイいわく、ベルミナントの優しさと心の広さは、ある意味で異常らしい。
 普通の領主というのは、王都に居を成し、領地には代理領主を住まわせる。領の面倒なことは全て代理領主に丸投げし、自分は王都で夜会三昧ざんまい。税だけ過剰に取り立て、領民のことなど知らんぷり。それがだというのだから、怖い話だ。

「トルミの村は次回の報告に回すとして、問題はベルカイムなのだ」

 喜びから一転、ベルミナントは苦く笑いながらそう言うと、収支報告が書かれた羊皮紙を取り出した。
 前世で経理が作成した出納帳すいとうちょうを見たことがあるが、あれよりも単純明快。何によって税を得られたのか、何によって支出があったのか、書いてあるのはそれだけ。家計簿のような書き方だ。
 数字に弱いマデウスの人のなかで、こういう計算ができる者は希少。ベルミナントは計算ができるから専門家に頼まなくて済むが、ここ最近は連日この収支報告書にかかりっきりになり、夜もあまり眠れていないらしい。美しいお顔にクマがくっきりと。
 収支報告書を見たクレイは息をハア、と吐き出した。そして重苦しく、忌々しげに言う。

「王都の監察官というものは些細な数値の違いを見逃さず、これでもかと責め立てる厄介なものでな。追及が厳しすぎて病んでしまう者もおるのだ」

 クレイもベルミナントの苦労を察したらしい。でもこういうのって前世でもよくあったな。

「その数値を誤魔化ごまかすため、まあまあこれでよしなに、なーんて金銭が飛び交っちゃうわけだ。どうせ後から数字書き換えて、難癖つけてくるヤツもいるんだろ? 黙っておいてほしければ、わかりますよね? んふふ、ってやーらしい顔するんだ」
「ははっ、その通りだ。監察官という立場を金で買う者もいるくらいだ。よほど、ふところうるおうのだろう」

 そう言ってベルミナントが俺の言葉に笑うと、クレイの眉間みけんしわが深くなった。
 王都からの監察官。
 それが先日、ベルカイムに来たというのが、ベルミナントの言う問題の発端らしい。
 アルツェリオ王国にある領は、年に二回ほど税の申告をしなければならない。年末調整や確定申告のようなものだろうか。あそこまで細かくないか。
 各領にある村や町からの税がいくらになるのかまとめ、支出もまとめる。例えば道路整備や湾岸工事などの、公にまかなった費用の支出報告だ。
 ベルミナントが尋ねてくる。

「ベルカイムで作られる回復薬ポーションの効果が飛躍的に向上したのは知っているな?」
「ええまあ。俺が採取してくるエプララの葉とか、月夜草つくよぐさとか、の影響ですよね」
「そうだ。お前のおかげでベルカイムで作られる回復薬ポーションは需要が伸びてな。今ではベルカイム産にこだわる竜騎士ドラゴンナイトすら現れたらしい」
「それはすごい……こと? なの?」
「すごいことなのだ。国の辺境にある町で作られる回復薬ポーションなど、本来ならば見向きもされぬ」

 魔法瓶から直接ハデ茶を飲んだベルミナントは、誇らしげに言った。
 腕のいい錬金術師や薬師くすしなどは、より豊かな暮らしができる地方で仕事をする。しかし、なかには風変わりな者も存在するのだ。
 ムンス薬局の薬師、リベルアがその代表格。
 リベルアは王都の薬学院を優秀な成績で卒業したのち、高名な薬師数名に師事し修行に励んだ。その後、自らも質の良い薬草を探しに旅立ち、様々な経験を経てベルカイムにたどり着いた。以来、リベルアは王都でつちかった知識などを惜しみなく提供し、後進を育てるべく奮闘中。
 ベルカイムが質の良い回復薬ポーションを作りだせるのは、リベルアをはじめ、彼女が育てた若い薬師たちのおかげ。
 ベルミナントは笑みを深めて続けた。

回復薬ポーションだけではないのだ。お前たちが消化する難易度の高い依頼クエストからも税の徴収をしている。それがな、他のギルドよりも回転が異常なまでに早い、と」

 それはアレですよ。
 高ランクの依頼クエストって、たいてい獰猛どうもうなモンスターなどの討伐だったりするんですよ。
 ランクが高ければ高いほど大きく、美味うまく、料理のし甲斐があるモンスターを狩って、おまけに報酬までいただけるんですよ。
 エンゲル係数がばかみたいに高い俺たち「蒼黒そうこくだん」にとって、そんな美味おいしいお話がありますか。

「それじゃあ、ベルカイムから王都に上がる税が急激によろしくなったから、監察官が不審に思ってやってきたと?」

 ベルミナントが数日寝ないでまとめた収支報告書を提出したのだが、監察官は興味深げに聞いてきたらしい。急激にベルカイムが潤うようになった、その理由を。
 ベルミナントは俺たちのことを隠したかった。
 優秀な冒険者チームを他の都市に渡したくなかったからだ。
 冒険者チーム蒼黒の団は、ギルドの高ランク依頼クエストを迅速かつ的確に消化する。おまけに地味依頼と呼ばれる、冒険者が倦厭けんえんしている依頼クエストも根こそぎ受注。変わっているだのなんだの言われるけど、これが蒼黒の団だ。
 国の端っこにある辺境の都市に、ランクAの冒険者が二人も所属しているチームが長期間滞在することはないらしい。
 普通はより報酬のいい都心部で拠点を作り、滞在するものだ。
 俺たち蒼黒の団は報酬に多くを望まない。ただ、倒したモンスターの肉はもらう。俺たちは報酬で動くわけではない。肉、いや、食事、いや、互いに信頼し尊敬し合える良き隣人がいるからこそ、この地に留まるのだ。
 ただそれによって今回は、ベルミナントを面倒ごとに巻き込んでしまったのかもしれない。

「……すまないと思っている」

 召喚状を忌々しげに睨むベルミナントは、頭を下げた。
 彼が頭を下げる必要はひとつもない。仕事に忠実で真摯に生きているからこそ、監察官に嘘は言えなかったのだろう。虚偽の申告をしたら、後で重箱の隅つつきが面倒だろうしな。ベルミナントに弱みを作らせるわけにもいかないし。

「ベルミナント、頭を上げろ。お前は何も悪くはない」

 クレイは机の上に投げ捨てられた召喚状を手に取り、俺に渡した。
 緋色ひいろの紙。高級品だな。インクは黒に近い緑。これもきっと高級。封蝋ふうろうは監察官自身のものなのか、監察官が所属する部署のものなのか、立派な印が押されている。
 緋色の紙には透かしがある。アルツェリオ王国の紋章。ということは、この紙は公式に出されていますよというわけで、書いてあることを無視すると重罪になってしまうのだ。

「うん、ベルミナント様が悪いわけじゃない」

 正直者は馬鹿を見るとも言うけど、この正直者な領主様のおかげでルセウヴァッハ領は栄えているんだからな。
 書かれてある内容は、チーム蒼黒の団への王都の召喚命令。
 なんで俺たち? と思ったんだけど、その理由は――

「ふんっ、くだらぬ。どうせ我らの所属を変えろと命ずるのだろう」

 クレイが吐き捨てるように言う。
 クレイはストルファス帝国にいた頃、国の暗部を目の当たりにしている。腐った組織というものが如何いかにして民を苦しめるのか知っているからこそ、己の利益しか考えない上流階級を嫌っているのだ。
 俺は貴族といえばベルミナントしか知らないからなあ。奥方様は穏やかでとても優しい人。お嬢様のティアリスは負けん気が強いけど、母親思いのいい子だし。
 王都に行ってみたいと思っていたが、まさか命令されて行くことになるとは。

「ええー。俺、エウロパ以外に所属するつもりないんだけど。移籍なんかしたくない。するつもりないよな? クレイ」
「当たり前だ! 王都に所属を移すなどしたら、我らは思うように動けなくなるのだぞ!」
「思うように動けなく……えっ? 地味依頼とお肉討伐ができなくなるってこと?」
「ああ、きっとそうだ。王都の高ランク依頼クエストのなかには、貴族の指名依頼もあるのだ。指名依頼の多くは高ランク冒険者を見世物にするだけのもの。貴族連中の見栄だけに利用されるに決まっておる。夜な夜な貴族の夜会やかいに招かれるかもしれぬのだぞ」
「ただの冒険者なのに!?」
「馬鹿者。お前は希少なオールラウンダー認定者ではないか。貴族というのはそういう物珍しいものが好きなのだ」

 クレイがここまで熱弁するということは、過去にそういった経験があるのだろう。しかも、良い思い出ではなさそうだ。
 貴族の夜会ってどんなもんなのかな、と思っていたんだけど。まさか珍獣扱いされるだなんて。
 夜会って、つまりは着飾ってウフフオホホと華やかに交流する場所だろ? くるくる優雅に踊るような。そんなところに、うちのチームのあのひととかあのひとが行ってごらんなさい。行儀も何も知らない絶世の美女が二人、綺麗な料理をわんこそば並みに食い散らかす姿を想像しただけで眩暈めまいがする。
 今更蒼黒の団の外聞なんて気にしないんだけど、あの二人は何をしでかすかわからないからな。

「ピュイ?」

 ビーが尻尾をふりふり、どうするのと聞いてくる。
 ビーの膨らんだお腹を撫でてやると、ビーは喜んで俺の膝で仰向あおむけに寝ころび、もっと撫でろと言った。あざとい。
 そりゃまあ召喚状に書かれていることには逆らえませんよ。もしも面倒だと逃げ出したら、罪に問われるのは俺たちが所属しているギルドやギルドマスター、職員たち。はたまたベルミナントも何らかのおとがめを受ける。
 そんなふうに心配していたら――

「ギルド所属の冒険者に無理強いをすることはないだろう。冒険者の意思を尊重せねばならぬ決まりだ」
「それなら良かった」

 改めてギルドのおきてをベルミナントに教えられ、一安心。
 ギルドは独立した組織。王ですら手出し無用であるから、監察官にギルド移籍の強制力はないとのこと。
 とはいえ、王都には行ってみたいと思っていた。監察官との面談っていうのは面倒くさいけど、ちょうどいい機会だ。王都で流行はやっていると教えてもらった高級石鹸せっけんも気になることだし。

「せっかくだし、王都に行ってみるとしますか」
「良いのか? タケル。王都に行けば、思うままにならぬことも多々あるかもしれぬのだぞ」
「蒼黒の団がブラックリスト入り……目をつけられるよりマシだ。俺たちはこれからものんびりと活動していきたいからな」

 召喚状を綺麗にたたみ、封筒にしまう。
 ベルミナントの不安はよくわかる。あのひととかあのひとには好き勝手に過ごさないように気をつけてもらい、ビーも目立たないようにしないと。着ぐるみでも作ってもらうかな。
 あとクレイは……もう仕方がない。目立つなって言っても無駄。
 俺が気をつければいいのは、便利なかばんくらいかな。背はでっかいが、クレイよりかは小さい。王都は賑やかなところだから、リザードマンも巨人タイタンもいるだろうし、会ったことのない種族もたくさんいるに違いない。だとしたら、そんなに目立たないはずだ。
 グラン・リオ大陸で一番栄えている大都市か。ベルカイムとは比べ物にならないほど美しいと言われている首都。
 どんな場所なのか、行くのが楽しみになってきたぞ。

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