文字の大きさ
大
中
小
19 / 299
2巻
2-2
ブロライトとビーがモンスターの相手をしてくれるから、俺は素材採取に集中することができた。随分と力強い用心棒が仲間になったものだ。そのおかげでさっきは思いがけず月夜草の群生を見つけることができた。これはドワーフの国で売りさばき、ブロライトにも報酬を分けることとする。
温室育ちっぽいわりには戦闘能力が高い。一般常識はわかるようだが、騙されやすく純粋すぎる面がある。その一方で地理や歴史には詳しく、ナントカっていう神様を崇めている。
ブロライトの育ちは正直どうだっていいが、何だろう。
この、子供が二人に増えた気分は。
「タケル! ハンマーアリクイのうんこじゃ!」
「それはただの石」
「ならばこっちか?」
「ピュ?」
「それも石」
「これか!」
「それは猛毒のエダシキノコだ」
「ピュ!」
「毒か! 恐ろしいな!」
「ピュイ~」
テンションがいちいち高いエルフに対し、俺は至って冷静。いや、雄大な自然を目の当たりにして内心では興奮している。エベレストとかヒマラヤもこんな感じなのかなと想像したりしているのだが、騒ぎはしゃぐほどのことはない。
ブロライトは精神年齢的にビーと合っているらしく、珍妙なコンビで仲良さそうだ。
俺の素材採取能力を手放しで褒めてくれるのは照れくさい。ブロライトは単純に俺の知識が長けているのだと思い込んでいるが、まさか魔力を利用して採取しているとは思うまい。
「キュリチの冷たい水は、リュハイから流れ出る清水なのじゃ」
「雪解け水みたいなもんか」
「左様。清浄な水でしか育たぬ魚も数多生息しておる」
「イワナとかヤマメとかハリヨみたいなもんか」
「名はわからぬが美味いと聞く」
「へえー」
新鮮な魚はしばらく食べていない。どこかで刺身を売っている……とは思えないが、元日本人としては美味しい魚の刺身が食べたい。生魚を食べる習慣はあるだろうか。ついでに醤油はないかな。さすがにないかな。
長い長い橋をひたすら歩き続け、日が暮れる前に対岸に渡ることができた。橋を下りると宿場町が広がっており、たくさんの店が連なっている。随分な賑わいのようだ。
「らっしゃいらっしゃーい! 美味しい美味しいエペルの実だよ! 一籠50レイブ!」
「東方からやってきた絹織物はどうだい! 見ておくれこの美しい光沢を!」
「お泊りはこちら! 湯殿がありますよ!」
「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ゴルラナの油はこちらだよ!」
どの店もドワーフ族が呼子をしている。
この地がドワーフ族の領地だからだろうか、道行く人の中にもドワーフ族の比率が高い。ちょっと汗臭いのと見た目にもっさいのは致し方ない。ずんぐりむっくりとした腹の出たヒゲもじゃのおっさんだらけ。しかし子供のドワーフもいる。子供は可愛いな。あんなに可愛いのに成長したらアレか。なんか切なくなる。
「ドワーフ族の女性はヒゲもじゃだと聞いたんだが」
「ははっ、そんなわけなかろう。ほれ、あそこに」
ブロライトが示す先を見れば、スラリとした出るとこ出た綺麗な小柄の女性。褐色の肌に茶色の髪。目鼻立ちがはっきりしており、どちらかというとアジア系美人。
あのずんぐりおっさんの嫁さんらしく、仲良さそうに赤ん坊の子守をしている。なんだろう、平和で幸せそうな光景なのに、胸のうちがもやもやするのは。
「男としての敗北感的な……理想の嫁……」
「何をぶつくさ言っておるのじゃ。それより飯屋は何処じゃ? ドワーフ名物の肉巻きジュペを馳走しよう!」
「なにそれ」
「肉巻きジュペじゃ!」
だからなにそれ。
賑やかな露店通りを抜けると、宿屋が通りを占める。ひとまず今晩の寝床を確保して、それから飯屋に行こう。
俺としては湯屋がある宿屋を希望させてもらうぞ。ブロライト曰く湯屋つきの宿屋は割高だから、冒険者はまず利用しないらしい。だが、風呂と飯に関しては財布の紐がゆるゆるな俺としては、値段を気にせず風呂がある宿屋に泊まることとした。
ブロライトは別の安宿に行くと言ったが、そのまま奴隷商人にでも付いていきそうで不安。どうせなら同じ宿がいい。
「湯に浸かるなどと贅沢な」
「差額分は払ってやるんだからいいだろう」
「そういう問題ではない。貴殿に返す恩が増える一方ではないか」
いや、採取中にモンスター撃退してくれるだけで十分なんだけど。
義理堅いところや遠慮しいなところは、人格としては好ましい。遠慮ナシな図々しいヤツよりよっぽどいい。
「それじゃあ、イルドラ石を採取する手伝いをしてくれ」
「ぬ?」
「リュハイの鉱山はモンスターがいるんだろう? 俺にも一応頼もしい相棒がいるんだが、ドワーフの国に行くこと自体はじめてだ。だからアンタは俺とビーの……そう、用心棒として臨時で雇う、ということで」
「わ、わたしが貴殿の用心棒!」
「嫌なら別にかまわ……」
「用心棒というのはアレじゃな! 悪漢から主を護衛する凄腕の剣士!」
あっかん……いやいや、俺別に悪者に狙われていないけど!?
「いやちょっと落ち着けブロライト、ただモンスターが襲ってきたら対処してくれるだけで」
「任せろ! わたしにできうることであるならば、全力を尽くそう! この命に懸けても!」
「命懸けんな、重いわ」
「良い響きじゃ! 用心棒!!」
やばい、妙なスイッチ入った。
興奮するブロライトを無理やり引っ張って宿屋に入る。
宿場町の中では一番綺麗で広いという宿だったが、ベルカイムの常宿に比べると小さい。種族別の部屋はなかったので、一般的な部屋を二つ。これで一晩2000レイブというのは若干ぼったくり感が否めないが、不便な立地であることを考慮すれば割高なのも仕方ない。富士山で売っているペットボトルの水が高いのと同じ理由だろう。
臨時の用心棒を雇ってしまったわけだが、女性との二人旅ドキッ、とかそういうものは一切ない。残念だが一切ない。ほんとまったくない。
そもそもブロライトから女性的なものは何も感じられない。今のところ「たぶん女」というあやふやな感覚で相手をしている。だから絶壁だとか、そういう失礼なことは言っちゃダメ。
基本的に人に優しく親切にするのは俺のモットー。失礼なヤツにはそれなりの対応をさせてもらうけどな。ブロライトは迷惑というほどじゃない。何よりビーが懐いているというのもありがたいことなのだ。
スキップしながら宿を出たブロライトに連れられ、飯屋が連なる場所に移動。
あちこちの屋台からいい匂いがたちこめ、思わず歩みが遅くなってしまう。祭りの屋台のような雰囲気に心なしか気分が高まる。帰りがけに道中のおやつをいくつか買っていくとする。
「いらっしゃいませー! お二人様ですか? こちらの席にどうぞー!」
ドワーフの女性が元気良く出迎えてくれた店は、宿場でも評判らしい大きな飯屋だった。アウトレットモールのフードコートにたとえればいいだろうか。いろんな種族がそれぞれに夕飯を楽しんでいる。騒がしすぎて互いの声が聞こえないほどだ。ベルカイムのギルド・エウロパにある酒場もそこそこ賑わっていたが、規模が違う。おまけにいい匂い。
「凄いな」
「やかましかろう。じゃが、このシルヴィン宿場で一番美味い飯を出すのが、この店なのじゃ」
「ブロライトはこの店に何度か来ているのか?」
「評判だという噂……なぎゅるるるるるるる~~~~……なのじゃ!」
うん。
飯を食べよう。
ブロライトが評判だと聞いていたドワーフの肉巻きジュペというのが、この店のお薦めらしい。
その名の通り、ジュペという謎の野菜のような果物のような何かを肉で巻いた料理。肉はこの世界で一般的に流通している牛肉に似た味のもの。したたる肉汁に黒胡椒と塩が相俟って、香ばしい匂いを漂わせている。匂いを嗅いだだけで、この料理は美味いことが確定。
「美味い!」
「美味い!」
「ピュイ!!」
肉に巻かれた何かはアスパラのような味がした。中に旨みが閉じ込められていて、噛んだ瞬間に口の中に広がる、肉汁と香辛料のマリアージュ……
……等と、グルメレポーターのような感想をいちいち言わずとも、美味いものは美味い。ビーもこの料理には大喜びで、いつもよりたくさん食べているようだ。
春巻きの倍の大きさがある肉巻きジュペを一人十個は軽く食べ、土産用に追加で三十個頼んだ。他にも冷製スープやサラダ、シチューも食べた。ドワーフ族は料理が得意なのだろうか。それにしてもこの世界の食事情には改めて感謝したい。
食事処は主に冒険者や旅の商人を相手にしているからか、大盛りで味の濃い、スタミナのありそうなガッツリ系の食事がメイン。ベルカイムの貴族街には、なんちゃらかんちゃらのフルコースとかあったが、俺はそんなお上品な料理は好きじゃない。こっちのほうが好みだ。
「友が言うていた通りじゃ。なんとも美味い」
「そうだな。ブロライトの友達に俺も感謝しよう。友達はエルフ族なのか?」
「リザードマンじゃ。屈強な戦士でな、腕の立つ素晴らしき御仁なのじゃ」
「へえ、俺にもリザードマンの知り合いがいるぞ。元……リザードマン? というかなんというか」
ベルカイムでのゴブリン討伐をともにしたクレイストンはドラゴニュートだから、リザードマンとは言わない。しかしドラゴニュートってレア種族らしいから、わかる人にしかわからない。元リザードマンだと言えばいいのだろうか。それともなんちゃってリザードマン?
「タケルの友も素材採取を生業としておるのか?」
「いや、戦士のはず。長くてデカい槍を武器にしているから竜騎士……になるのか?」
「ほほう! わたしの友も竜騎士じゃぞ! ストルファス帝国で聖竜騎士の称号を頂いた『栄誉の竜王』じゃ!」
ん?
なんか今、聞いたことのある単語が出てきたような。
「モーリオン峠で悪漢に襲われそうになったわたしを助けてくれた恩人じゃ」
「えいよ……? えいよの竜王……? なんかどっかで以前聞いた気が……」
「あのときはベルカイムを目指すと言うておったから、もしかしたら貴殿と逢うているかもしれんな!」
「逢うているどころではないぞ、ブロライト」
ん?
またどこかで聞いたことのある低い声。
特徴的な声色の、これ誰だっけ。
「おっ、お主! まさかこのような場所で再び巡り逢えるとは! 奇遇じゃな、今までどこにおったのじゃ!」
そう言ってブロライトは慌てて口の周りを腕で拭った。いや、目の前にある布巾を使いなさいよ。
ビーがまるで警戒をしていない。尻尾を振りながら食事を続けている。
そりゃそうだ。警戒をする相手ではないのだから。
「それよりも……俺に何も言わず黙って町を出るとはな」
「ヒイ!」
俺の肩に置かれたごっつい手。ぬるりとした鱗と鋭い爪。背中に感じる冷気。
「俺の内なる力が不安定であるから、様子を見ると言うたのはお前だろう」
あーやめて。その圧力やめて。うなじがぴりぴりする。
「我が友ブロライトと席をともにする訳も聞かせてもらおうか。タケル」
そんなふうに威圧してきたのは、元リザードマンで現ドラゴニュートだけど、それを隠しているなんちゃってリザードマンの、クレイストンだった。残念すぎるヘンテコエルフのブロライトとクレイは友達同士でした。
夜盗に襲われたブロライトを助けたのがクレイストンらしいが、その後、夜盗を返り討ちにして報奨金を得たというのだから、なんともらしい。
なんだろうこの、壮大なる嫌な予感。
なんだぁ、すごい偶然だなぁ、なんていくら人の好い俺でもそこまで単純じゃないぞ。運命なんて言葉で片付けてたまるものか。
これはきっと、あの『青年』の陰謀だ。そう思ったほうが自然。
「我が友と我が友が、友であったとはな! もぐもぐもぐ、こりぇもにゃにくわのえんんてぃよもうしゅるかもぐもぐもぐもぐぶぼばりゅぐんぐんぐ」
「黙って食ってろ。あのな? クレイ、俺は一応ギルドには報告していたんだからな。ちょろっと遠出しますよ、って」
するとクレイは俺の隣に座り、とんでもない量の食事をガツガツと食いはじめた。
真新しい甲冑とローブに身を包んだ姿。机に立てかけている巨大な槍だけが傷だらけで、彼の背負ってきた戦いの歴史を感じられる。
「曖昧な説明をしおってからに。具体的な場所を言っておけ。俺が個人的にウェイドに聞かねばわからぬままだったわ」
「半月くらいで戻る予定だったんだよ。それがどういうことか、ブロライトを拾ってさ」
旅の支度も十分にしていなかった汚エルフを森の中で拾い、飯を食わす代わりに護衛のようなものを引き受けてもらった、という説明をざっくりとする。
クレイストンは寡黙に俺の話を聞き、黙々と食事を続けた。もともとが怖い恐竜顔だから、怒っているのかそれが通常なのかわからん。想像してほしい。隣に巨大なヴェロキラプトルが座っていると。
怖いだろ。
「武器鍛冶職人のグルサス親方とその相方……弟子(?)のリブさんに依頼されたんだよ。リュハイの鉱山でイルドラ石を採取してくれって」
「鉱石採取はお前のランクでは受注できぬだろう。何をしておる」
「だからギルドは通していない。他に頼めるやつがいないって猫耳女子に泣きつかれてみろよ。猫耳だぞ?」
下心がまったくないと言えば嘘だと断言しよう。女子に頼られるなんざ男子の憧れ、目指すべき姿。たとえ困難な依頼だったとしても叶えてやりたいと思うじゃないか。それが男だろ? 猫耳だからというのも理由ではある。そこはワタクシ、嘘つかない。
それに、違う打算もあるんだ。
この依頼を成功させれば、腕のいいグルサス親方に遠慮なくいろいろと注文ができる。もしくは、専門の職人を紹介してもらうこともできる。デカい貸しを作るわけだからな。
だから、使いやすい鍋とか作ってもらえるかもしれないのだ。玉子焼き器とか。
「せっかく向こうから来た縁だ。利用しない手はない」
「お前は人が良いのか悪いのか、考えナシなのかわからぬわ」
失敬な。
クレイストンは巨大ジョッキに入ったエールを一気に飲み干すと、ぶはあと酒臭い息を吐き出してぎろりと睨んできた。
だから怖いってその顔。
「それで? 危険な地に赴くのだ。相当の対価を要求するのだろう?」
「対価? 金ってことか? 現金はいらない。報酬は俺だけの特別な採取用ハサミを作ってもらうこと」
「特別なハサミとな」
「恐ろしく切れやすく、それでいて頑丈で、さびにくく、手入れしなくても切れ味を保てるような、俺のデカい手でも扱いやすい特別なハサミ。有能な武器鍛冶職人にハサミを作ってもらうんだ。かなりの贅沢だろ」
ドヤァと胸を張って言うと、クレイは再び酒臭い息を吐く。
「お前の贅沢の基準がわからぬ。ハサミ……? ハサミが報酬だと?」
うーん。
この世界の人にとっては報酬=金銭になるのだろうか。一番わかりやすいし納得できるものかもしれないが、しつこいけど金なら余っていないけど潤沢にあるわけ。俺はギャンブルやってもっと増やそうって考えよりも、限られた中でどうやりくりするか考えるほうだし、足りなければ働けばいいじゃないかと思う。
とはいえ、金で何でも買えるという考えはあながち間違っていない。金の切れ目は縁の切れ目。信用問題にも繋がる。一部の愛だって買うことができるだろう。金は大事だ。それはわかる。
もしかしたら、クレイは俺が貧乏人だと思っているのかもしれないな。なんせ最低ランクの冒険者だからなあ。
「採取家にとってハサミは剣より大切なんだぞ? さて、そろそろ宿に帰るとするか」
もう食わなくていいだろうというくらい食っただろうブロライトに声をかけると、口の周りをべっちゃりと汚したエルフが振り向く。このやろう。このやろう、このやろう。だからエルフの素敵なイメージを壊さないでくれ……
クレイは別の宿を確保しているらしく、その場で別れた。
ところでクレイは、ドワーフの国に何の用なのだろうか。クレイの冒険者ランクは確かA。聞いたときは驚かなかったし、だったらSとかSSってどんだけ、と思ったものだ。ゴブリン討伐時の荒くれ魔王っぷりを間近で見ている者としては、あのひともうランクSSでいいんじゃなかろうかと。
ランクAの依頼は主にモンスター討伐だったはず。ドワーフの国まで出張するような依頼、あったかな。
翌朝。
リュハイ山脈に続く一本道の真ん中に。
青い鱗の弁慶さん。
槍を片手に仁王立ち。
低血圧なのかな、と思うくらい不機嫌そうな顔しているクレイがそこにいた。
「来たか」
「オハヨウゴザイマス? 何してんだよクレイ」
「俺もお前とともに行こう」
えっ。
「えっ? ……は? 今、何て言いました?」
「リュハイの鉱山に行くのだろう。ちょうどいい、俺はヴォズラオで槍の修復を頼む」
「おお! 貴殿もともに行くのならば、なおさら心強いな! そうじゃろう? ビー」
「ピュイ!」
いやいやちょっと、君たち勝手に喜ばないでくれるかな。
別にクレイが同行するのは何の問題もない。ランクAの用心棒ゲットー、てなくらいに考えている。
だがしかし、いかんせんクレイは、年の功なのか性格なのか種族の特徴なのか、説教が多いのだ。それも、正論で責めるから反論もできない。学校の先生や会社の上司に懇々と説教されているような気分になるんだよ。怒ると怖いし。
「ええと、あのですね……」
「俺はヴォズラオに行ったことがある。案内もできる」
「それはありがたいんだけんどもですがね」
「道中の身の安全は保障するぞ」
「わあい頼もしい。いやいやそれもありがたいんですけんども」
「今更遠慮などするな。俺はお前に大きな借りがある。報酬などせびらん」
鼻の穴広げて迫るクレイに若干怯えながらも、さてどうやって回避するかと思案。
すると、空気とか読んだことのないエルフさんが目を輝かせて叫んだ。
「クレイもタケルの用心棒になるのじゃな!」
あちゃー。
駄目だこれー。
すっかり乗り気のブロライトさーん。
「なぬ? 用心棒……とな」
「わたしもタケルの用心棒として、ともにヴォズラオを目指しているのじゃ!」
「ほう……用心棒、用心棒か! 良き響きであるな」
「タケルとビーの身を、命を懸けて守るのじゃ!」
「おおお!」
「ピュピュ~」
ほんとまじやめて、盛り上がらないで。
テッテレー
ドラゴニュートのクレイストンと、エルフのブロライトが用心棒になっ
嬉しくないっ!
説教うるさいサムライ親父と残念エルフ。
実力は折り紙付きではあるが、なんだろう……この、戦国武将と問題児を引き連れた保護者のような感覚。このなかで俺が一番常識知らずで世間知らずのはずなのに、とんでもなく不安なのはなぜだろう。
以前、白樹の森からトルミ村に帰るまでの道のり、ポルンさん家族と馬車で移動したのは楽しかった。あのときのような旅路になれば良いのだけど、そうは問屋が卸さないと俺の勘が囁く。
だが、悪いほうに考えるのはやめよう。うん。この出逢いに感謝するべきだ。いいじゃないか、旅の仲間が増えて賑やかで楽しいじゃないか。
頼もしい用心棒がふたりー。わー贅沢ー。
「道中、よろしく頼む」
「わたしも改めて言おう。世話になる!」
「ハイ、ヨロシクネー……」
「ピュイッピュー!」
楽しくナリソウダナー(棒読み)。
3 美談と英雄、涙の理由
【鋼鉄都市ヴォズラオリーフ】
グラン・リオ・ドワーフ王国首都。
[国王]レジアス・ゾロワディーン・リエス・ジョデル三世。
[執政]ルカテス・セラフィン侯爵。
リュハイ山脈の麓にある広大な鉄鋼山を開拓して造られた地下都市。人口六万人ほど。
豊富な鉄鉱石を産出し、都市の大半が魔道具で機能。主な産業は、鉄・銀・イルドラな
どの各種鉱石。武器・防具・魔道具・各種魔石を作る職人を育てる王立職人学校がある。
夏には、巨大な山車が町中を練り歩く祭りが催される。
「祇園祭りか」
「ピュイィ」
キュリチ大河を越え、緑の平野を抜け、肌寒さを感じた頃。巨大なリュハイ山脈のお膝元に、ようやくドワーフ王国が見えてきた。
ベルカイムの門の倍以上ある鋼鉄の大門は、無骨ながらも細かな模様が刻まれている。ドワーフは手先が器用で凝り性でもあると聞いていたが、なるほどこの門だけでも観光名所になりそうなくらい立派だ。
こっそり調査をすると、材質として鉄鉱石と少量の銀鉱石とイルドラ石が使われているのがわかった。一部純金の装飾もされている。豪華だ。きっと名のある職人たちが技を競って作ったのだろうなあと、知らぬドワーフの歴史に思いを馳せる。
温室育ちっぽいわりには戦闘能力が高い。一般常識はわかるようだが、騙されやすく純粋すぎる面がある。その一方で地理や歴史には詳しく、ナントカっていう神様を崇めている。
ブロライトの育ちは正直どうだっていいが、何だろう。
この、子供が二人に増えた気分は。
「タケル! ハンマーアリクイのうんこじゃ!」
「それはただの石」
「ならばこっちか?」
「ピュ?」
「それも石」
「これか!」
「それは猛毒のエダシキノコだ」
「ピュ!」
「毒か! 恐ろしいな!」
「ピュイ~」
テンションがいちいち高いエルフに対し、俺は至って冷静。いや、雄大な自然を目の当たりにして内心では興奮している。エベレストとかヒマラヤもこんな感じなのかなと想像したりしているのだが、騒ぎはしゃぐほどのことはない。
ブロライトは精神年齢的にビーと合っているらしく、珍妙なコンビで仲良さそうだ。
俺の素材採取能力を手放しで褒めてくれるのは照れくさい。ブロライトは単純に俺の知識が長けているのだと思い込んでいるが、まさか魔力を利用して採取しているとは思うまい。
「キュリチの冷たい水は、リュハイから流れ出る清水なのじゃ」
「雪解け水みたいなもんか」
「左様。清浄な水でしか育たぬ魚も数多生息しておる」
「イワナとかヤマメとかハリヨみたいなもんか」
「名はわからぬが美味いと聞く」
「へえー」
新鮮な魚はしばらく食べていない。どこかで刺身を売っている……とは思えないが、元日本人としては美味しい魚の刺身が食べたい。生魚を食べる習慣はあるだろうか。ついでに醤油はないかな。さすがにないかな。
長い長い橋をひたすら歩き続け、日が暮れる前に対岸に渡ることができた。橋を下りると宿場町が広がっており、たくさんの店が連なっている。随分な賑わいのようだ。
「らっしゃいらっしゃーい! 美味しい美味しいエペルの実だよ! 一籠50レイブ!」
「東方からやってきた絹織物はどうだい! 見ておくれこの美しい光沢を!」
「お泊りはこちら! 湯殿がありますよ!」
「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ゴルラナの油はこちらだよ!」
どの店もドワーフ族が呼子をしている。
この地がドワーフ族の領地だからだろうか、道行く人の中にもドワーフ族の比率が高い。ちょっと汗臭いのと見た目にもっさいのは致し方ない。ずんぐりむっくりとした腹の出たヒゲもじゃのおっさんだらけ。しかし子供のドワーフもいる。子供は可愛いな。あんなに可愛いのに成長したらアレか。なんか切なくなる。
「ドワーフ族の女性はヒゲもじゃだと聞いたんだが」
「ははっ、そんなわけなかろう。ほれ、あそこに」
ブロライトが示す先を見れば、スラリとした出るとこ出た綺麗な小柄の女性。褐色の肌に茶色の髪。目鼻立ちがはっきりしており、どちらかというとアジア系美人。
あのずんぐりおっさんの嫁さんらしく、仲良さそうに赤ん坊の子守をしている。なんだろう、平和で幸せそうな光景なのに、胸のうちがもやもやするのは。
「男としての敗北感的な……理想の嫁……」
「何をぶつくさ言っておるのじゃ。それより飯屋は何処じゃ? ドワーフ名物の肉巻きジュペを馳走しよう!」
「なにそれ」
「肉巻きジュペじゃ!」
だからなにそれ。
賑やかな露店通りを抜けると、宿屋が通りを占める。ひとまず今晩の寝床を確保して、それから飯屋に行こう。
俺としては湯屋がある宿屋を希望させてもらうぞ。ブロライト曰く湯屋つきの宿屋は割高だから、冒険者はまず利用しないらしい。だが、風呂と飯に関しては財布の紐がゆるゆるな俺としては、値段を気にせず風呂がある宿屋に泊まることとした。
ブロライトは別の安宿に行くと言ったが、そのまま奴隷商人にでも付いていきそうで不安。どうせなら同じ宿がいい。
「湯に浸かるなどと贅沢な」
「差額分は払ってやるんだからいいだろう」
「そういう問題ではない。貴殿に返す恩が増える一方ではないか」
いや、採取中にモンスター撃退してくれるだけで十分なんだけど。
義理堅いところや遠慮しいなところは、人格としては好ましい。遠慮ナシな図々しいヤツよりよっぽどいい。
「それじゃあ、イルドラ石を採取する手伝いをしてくれ」
「ぬ?」
「リュハイの鉱山はモンスターがいるんだろう? 俺にも一応頼もしい相棒がいるんだが、ドワーフの国に行くこと自体はじめてだ。だからアンタは俺とビーの……そう、用心棒として臨時で雇う、ということで」
「わ、わたしが貴殿の用心棒!」
「嫌なら別にかまわ……」
「用心棒というのはアレじゃな! 悪漢から主を護衛する凄腕の剣士!」
あっかん……いやいや、俺別に悪者に狙われていないけど!?
「いやちょっと落ち着けブロライト、ただモンスターが襲ってきたら対処してくれるだけで」
「任せろ! わたしにできうることであるならば、全力を尽くそう! この命に懸けても!」
「命懸けんな、重いわ」
「良い響きじゃ! 用心棒!!」
やばい、妙なスイッチ入った。
興奮するブロライトを無理やり引っ張って宿屋に入る。
宿場町の中では一番綺麗で広いという宿だったが、ベルカイムの常宿に比べると小さい。種族別の部屋はなかったので、一般的な部屋を二つ。これで一晩2000レイブというのは若干ぼったくり感が否めないが、不便な立地であることを考慮すれば割高なのも仕方ない。富士山で売っているペットボトルの水が高いのと同じ理由だろう。
臨時の用心棒を雇ってしまったわけだが、女性との二人旅ドキッ、とかそういうものは一切ない。残念だが一切ない。ほんとまったくない。
そもそもブロライトから女性的なものは何も感じられない。今のところ「たぶん女」というあやふやな感覚で相手をしている。だから絶壁だとか、そういう失礼なことは言っちゃダメ。
基本的に人に優しく親切にするのは俺のモットー。失礼なヤツにはそれなりの対応をさせてもらうけどな。ブロライトは迷惑というほどじゃない。何よりビーが懐いているというのもありがたいことなのだ。
スキップしながら宿を出たブロライトに連れられ、飯屋が連なる場所に移動。
あちこちの屋台からいい匂いがたちこめ、思わず歩みが遅くなってしまう。祭りの屋台のような雰囲気に心なしか気分が高まる。帰りがけに道中のおやつをいくつか買っていくとする。
「いらっしゃいませー! お二人様ですか? こちらの席にどうぞー!」
ドワーフの女性が元気良く出迎えてくれた店は、宿場でも評判らしい大きな飯屋だった。アウトレットモールのフードコートにたとえればいいだろうか。いろんな種族がそれぞれに夕飯を楽しんでいる。騒がしすぎて互いの声が聞こえないほどだ。ベルカイムのギルド・エウロパにある酒場もそこそこ賑わっていたが、規模が違う。おまけにいい匂い。
「凄いな」
「やかましかろう。じゃが、このシルヴィン宿場で一番美味い飯を出すのが、この店なのじゃ」
「ブロライトはこの店に何度か来ているのか?」
「評判だという噂……なぎゅるるるるるるる~~~~……なのじゃ!」
うん。
飯を食べよう。
ブロライトが評判だと聞いていたドワーフの肉巻きジュペというのが、この店のお薦めらしい。
その名の通り、ジュペという謎の野菜のような果物のような何かを肉で巻いた料理。肉はこの世界で一般的に流通している牛肉に似た味のもの。したたる肉汁に黒胡椒と塩が相俟って、香ばしい匂いを漂わせている。匂いを嗅いだだけで、この料理は美味いことが確定。
「美味い!」
「美味い!」
「ピュイ!!」
肉に巻かれた何かはアスパラのような味がした。中に旨みが閉じ込められていて、噛んだ瞬間に口の中に広がる、肉汁と香辛料のマリアージュ……
……等と、グルメレポーターのような感想をいちいち言わずとも、美味いものは美味い。ビーもこの料理には大喜びで、いつもよりたくさん食べているようだ。
春巻きの倍の大きさがある肉巻きジュペを一人十個は軽く食べ、土産用に追加で三十個頼んだ。他にも冷製スープやサラダ、シチューも食べた。ドワーフ族は料理が得意なのだろうか。それにしてもこの世界の食事情には改めて感謝したい。
食事処は主に冒険者や旅の商人を相手にしているからか、大盛りで味の濃い、スタミナのありそうなガッツリ系の食事がメイン。ベルカイムの貴族街には、なんちゃらかんちゃらのフルコースとかあったが、俺はそんなお上品な料理は好きじゃない。こっちのほうが好みだ。
「友が言うていた通りじゃ。なんとも美味い」
「そうだな。ブロライトの友達に俺も感謝しよう。友達はエルフ族なのか?」
「リザードマンじゃ。屈強な戦士でな、腕の立つ素晴らしき御仁なのじゃ」
「へえ、俺にもリザードマンの知り合いがいるぞ。元……リザードマン? というかなんというか」
ベルカイムでのゴブリン討伐をともにしたクレイストンはドラゴニュートだから、リザードマンとは言わない。しかしドラゴニュートってレア種族らしいから、わかる人にしかわからない。元リザードマンだと言えばいいのだろうか。それともなんちゃってリザードマン?
「タケルの友も素材採取を生業としておるのか?」
「いや、戦士のはず。長くてデカい槍を武器にしているから竜騎士……になるのか?」
「ほほう! わたしの友も竜騎士じゃぞ! ストルファス帝国で聖竜騎士の称号を頂いた『栄誉の竜王』じゃ!」
ん?
なんか今、聞いたことのある単語が出てきたような。
「モーリオン峠で悪漢に襲われそうになったわたしを助けてくれた恩人じゃ」
「えいよ……? えいよの竜王……? なんかどっかで以前聞いた気が……」
「あのときはベルカイムを目指すと言うておったから、もしかしたら貴殿と逢うているかもしれんな!」
「逢うているどころではないぞ、ブロライト」
ん?
またどこかで聞いたことのある低い声。
特徴的な声色の、これ誰だっけ。
「おっ、お主! まさかこのような場所で再び巡り逢えるとは! 奇遇じゃな、今までどこにおったのじゃ!」
そう言ってブロライトは慌てて口の周りを腕で拭った。いや、目の前にある布巾を使いなさいよ。
ビーがまるで警戒をしていない。尻尾を振りながら食事を続けている。
そりゃそうだ。警戒をする相手ではないのだから。
「それよりも……俺に何も言わず黙って町を出るとはな」
「ヒイ!」
俺の肩に置かれたごっつい手。ぬるりとした鱗と鋭い爪。背中に感じる冷気。
「俺の内なる力が不安定であるから、様子を見ると言うたのはお前だろう」
あーやめて。その圧力やめて。うなじがぴりぴりする。
「我が友ブロライトと席をともにする訳も聞かせてもらおうか。タケル」
そんなふうに威圧してきたのは、元リザードマンで現ドラゴニュートだけど、それを隠しているなんちゃってリザードマンの、クレイストンだった。残念すぎるヘンテコエルフのブロライトとクレイは友達同士でした。
夜盗に襲われたブロライトを助けたのがクレイストンらしいが、その後、夜盗を返り討ちにして報奨金を得たというのだから、なんともらしい。
なんだろうこの、壮大なる嫌な予感。
なんだぁ、すごい偶然だなぁ、なんていくら人の好い俺でもそこまで単純じゃないぞ。運命なんて言葉で片付けてたまるものか。
これはきっと、あの『青年』の陰謀だ。そう思ったほうが自然。
「我が友と我が友が、友であったとはな! もぐもぐもぐ、こりぇもにゃにくわのえんんてぃよもうしゅるかもぐもぐもぐもぐぶぼばりゅぐんぐんぐ」
「黙って食ってろ。あのな? クレイ、俺は一応ギルドには報告していたんだからな。ちょろっと遠出しますよ、って」
するとクレイは俺の隣に座り、とんでもない量の食事をガツガツと食いはじめた。
真新しい甲冑とローブに身を包んだ姿。机に立てかけている巨大な槍だけが傷だらけで、彼の背負ってきた戦いの歴史を感じられる。
「曖昧な説明をしおってからに。具体的な場所を言っておけ。俺が個人的にウェイドに聞かねばわからぬままだったわ」
「半月くらいで戻る予定だったんだよ。それがどういうことか、ブロライトを拾ってさ」
旅の支度も十分にしていなかった汚エルフを森の中で拾い、飯を食わす代わりに護衛のようなものを引き受けてもらった、という説明をざっくりとする。
クレイストンは寡黙に俺の話を聞き、黙々と食事を続けた。もともとが怖い恐竜顔だから、怒っているのかそれが通常なのかわからん。想像してほしい。隣に巨大なヴェロキラプトルが座っていると。
怖いだろ。
「武器鍛冶職人のグルサス親方とその相方……弟子(?)のリブさんに依頼されたんだよ。リュハイの鉱山でイルドラ石を採取してくれって」
「鉱石採取はお前のランクでは受注できぬだろう。何をしておる」
「だからギルドは通していない。他に頼めるやつがいないって猫耳女子に泣きつかれてみろよ。猫耳だぞ?」
下心がまったくないと言えば嘘だと断言しよう。女子に頼られるなんざ男子の憧れ、目指すべき姿。たとえ困難な依頼だったとしても叶えてやりたいと思うじゃないか。それが男だろ? 猫耳だからというのも理由ではある。そこはワタクシ、嘘つかない。
それに、違う打算もあるんだ。
この依頼を成功させれば、腕のいいグルサス親方に遠慮なくいろいろと注文ができる。もしくは、専門の職人を紹介してもらうこともできる。デカい貸しを作るわけだからな。
だから、使いやすい鍋とか作ってもらえるかもしれないのだ。玉子焼き器とか。
「せっかく向こうから来た縁だ。利用しない手はない」
「お前は人が良いのか悪いのか、考えナシなのかわからぬわ」
失敬な。
クレイストンは巨大ジョッキに入ったエールを一気に飲み干すと、ぶはあと酒臭い息を吐き出してぎろりと睨んできた。
だから怖いってその顔。
「それで? 危険な地に赴くのだ。相当の対価を要求するのだろう?」
「対価? 金ってことか? 現金はいらない。報酬は俺だけの特別な採取用ハサミを作ってもらうこと」
「特別なハサミとな」
「恐ろしく切れやすく、それでいて頑丈で、さびにくく、手入れしなくても切れ味を保てるような、俺のデカい手でも扱いやすい特別なハサミ。有能な武器鍛冶職人にハサミを作ってもらうんだ。かなりの贅沢だろ」
ドヤァと胸を張って言うと、クレイは再び酒臭い息を吐く。
「お前の贅沢の基準がわからぬ。ハサミ……? ハサミが報酬だと?」
うーん。
この世界の人にとっては報酬=金銭になるのだろうか。一番わかりやすいし納得できるものかもしれないが、しつこいけど金なら余っていないけど潤沢にあるわけ。俺はギャンブルやってもっと増やそうって考えよりも、限られた中でどうやりくりするか考えるほうだし、足りなければ働けばいいじゃないかと思う。
とはいえ、金で何でも買えるという考えはあながち間違っていない。金の切れ目は縁の切れ目。信用問題にも繋がる。一部の愛だって買うことができるだろう。金は大事だ。それはわかる。
もしかしたら、クレイは俺が貧乏人だと思っているのかもしれないな。なんせ最低ランクの冒険者だからなあ。
「採取家にとってハサミは剣より大切なんだぞ? さて、そろそろ宿に帰るとするか」
もう食わなくていいだろうというくらい食っただろうブロライトに声をかけると、口の周りをべっちゃりと汚したエルフが振り向く。このやろう。このやろう、このやろう。だからエルフの素敵なイメージを壊さないでくれ……
クレイは別の宿を確保しているらしく、その場で別れた。
ところでクレイは、ドワーフの国に何の用なのだろうか。クレイの冒険者ランクは確かA。聞いたときは驚かなかったし、だったらSとかSSってどんだけ、と思ったものだ。ゴブリン討伐時の荒くれ魔王っぷりを間近で見ている者としては、あのひともうランクSSでいいんじゃなかろうかと。
ランクAの依頼は主にモンスター討伐だったはず。ドワーフの国まで出張するような依頼、あったかな。
翌朝。
リュハイ山脈に続く一本道の真ん中に。
青い鱗の弁慶さん。
槍を片手に仁王立ち。
低血圧なのかな、と思うくらい不機嫌そうな顔しているクレイがそこにいた。
「来たか」
「オハヨウゴザイマス? 何してんだよクレイ」
「俺もお前とともに行こう」
えっ。
「えっ? ……は? 今、何て言いました?」
「リュハイの鉱山に行くのだろう。ちょうどいい、俺はヴォズラオで槍の修復を頼む」
「おお! 貴殿もともに行くのならば、なおさら心強いな! そうじゃろう? ビー」
「ピュイ!」
いやいやちょっと、君たち勝手に喜ばないでくれるかな。
別にクレイが同行するのは何の問題もない。ランクAの用心棒ゲットー、てなくらいに考えている。
だがしかし、いかんせんクレイは、年の功なのか性格なのか種族の特徴なのか、説教が多いのだ。それも、正論で責めるから反論もできない。学校の先生や会社の上司に懇々と説教されているような気分になるんだよ。怒ると怖いし。
「ええと、あのですね……」
「俺はヴォズラオに行ったことがある。案内もできる」
「それはありがたいんだけんどもですがね」
「道中の身の安全は保障するぞ」
「わあい頼もしい。いやいやそれもありがたいんですけんども」
「今更遠慮などするな。俺はお前に大きな借りがある。報酬などせびらん」
鼻の穴広げて迫るクレイに若干怯えながらも、さてどうやって回避するかと思案。
すると、空気とか読んだことのないエルフさんが目を輝かせて叫んだ。
「クレイもタケルの用心棒になるのじゃな!」
あちゃー。
駄目だこれー。
すっかり乗り気のブロライトさーん。
「なぬ? 用心棒……とな」
「わたしもタケルの用心棒として、ともにヴォズラオを目指しているのじゃ!」
「ほう……用心棒、用心棒か! 良き響きであるな」
「タケルとビーの身を、命を懸けて守るのじゃ!」
「おおお!」
「ピュピュ~」
ほんとまじやめて、盛り上がらないで。
テッテレー
ドラゴニュートのクレイストンと、エルフのブロライトが用心棒になっ
嬉しくないっ!
説教うるさいサムライ親父と残念エルフ。
実力は折り紙付きではあるが、なんだろう……この、戦国武将と問題児を引き連れた保護者のような感覚。このなかで俺が一番常識知らずで世間知らずのはずなのに、とんでもなく不安なのはなぜだろう。
以前、白樹の森からトルミ村に帰るまでの道のり、ポルンさん家族と馬車で移動したのは楽しかった。あのときのような旅路になれば良いのだけど、そうは問屋が卸さないと俺の勘が囁く。
だが、悪いほうに考えるのはやめよう。うん。この出逢いに感謝するべきだ。いいじゃないか、旅の仲間が増えて賑やかで楽しいじゃないか。
頼もしい用心棒がふたりー。わー贅沢ー。
「道中、よろしく頼む」
「わたしも改めて言おう。世話になる!」
「ハイ、ヨロシクネー……」
「ピュイッピュー!」
楽しくナリソウダナー(棒読み)。
3 美談と英雄、涙の理由
【鋼鉄都市ヴォズラオリーフ】
グラン・リオ・ドワーフ王国首都。
[国王]レジアス・ゾロワディーン・リエス・ジョデル三世。
[執政]ルカテス・セラフィン侯爵。
リュハイ山脈の麓にある広大な鉄鋼山を開拓して造られた地下都市。人口六万人ほど。
豊富な鉄鉱石を産出し、都市の大半が魔道具で機能。主な産業は、鉄・銀・イルドラな
どの各種鉱石。武器・防具・魔道具・各種魔石を作る職人を育てる王立職人学校がある。
夏には、巨大な山車が町中を練り歩く祭りが催される。
「祇園祭りか」
「ピュイィ」
キュリチ大河を越え、緑の平野を抜け、肌寒さを感じた頃。巨大なリュハイ山脈のお膝元に、ようやくドワーフ王国が見えてきた。
ベルカイムの門の倍以上ある鋼鉄の大門は、無骨ながらも細かな模様が刻まれている。ドワーフは手先が器用で凝り性でもあると聞いていたが、なるほどこの門だけでも観光名所になりそうなくらい立派だ。
こっそり調査をすると、材質として鉄鉱石と少量の銀鉱石とイルドラ石が使われているのがわかった。一部純金の装飾もされている。豪華だ。きっと名のある職人たちが技を競って作ったのだろうなあと、知らぬドワーフの歴史に思いを馳せる。
感想
あなたにおすすめの小説
【完結済】ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する
satomi醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。
もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
妹ばかり愛した家族へ。私が王太子妃になった日、皆さんは謝りました。けれど、もう遅いのです
由香【全一話完結】
幼い頃から妹の引き立て役として生き、婚約者まで奪われて家を追放された侯爵令嬢エレナ。
傷ついた彼女が助けた青年は、身分を隠した王太子だった。
一年後、王太子妃となったエレナの前に現れたのは、今さら「家族だから」と擦り寄ってくる両親と妹。
けれど彼女は、もう二度と振り返らない。
婚約者を妹に譲ったので、温泉へ行く
七月なのか貴族の令嬢リリアーナは、幼い頃から「役立たず」と呼ばれて育った。
社交が苦手で、刺繍と料理ばかりしていた彼女を、家族も婚約者も疎ましく思っていた。
そしてある日、婚約者は妹と恋に落ち、婚約破棄。
両親からも見放されたリリアーナは、亡き祖父が遺した火山地帯の小領地を押し付けられ、王都から追い出されてしまう。
「好きに生きなさい」
それが最後の言葉だった。
画像作成:AI
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
私に姉など居ませんが?
山葵「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人(あゆと)侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
