文字の大きさ
大
中
小
34 / 299
3巻
3-1
+ + + + +
こんにちは! 俺の名前は神城タケル。
不思議な異世界「マデウス」に転生して、元気にやっている素材採取家だよ! 素材採取家っていうのは、薬草や野草、鉱石にモンスターのうんこなど、様々な材料や原料を探す職業なんだ。
この世界に転生してきたとき、神様っぽいやつに膨大な魔力とそれを操る力をもらったんだけど、これがとっても便利で、ちょっとずるいんじゃないかってくらい活用しまくって生活しているわけだ! きゃっほーい!
……いや、まてまて。誰だこれ。俺はこんな明るい爽やかキャラじゃない。
本当の俺は、明日から本気を出すと誓って、朝起きたら眠くて昼過ぎまでごろごろして、やっぱり明日から本気を出すと思いなおすようなものぐさなんだ。はあ。
いやいや、落ち込んでいる場合じゃない。そんなことより、ちょっと今、大変なことになっているんですよ。
俺が滞在しているベルカイムを統治するルセウヴァッハ伯爵に頼まれ、奥方様の謎の病気を治すことになったんだけど、その過程でルセウヴァッハ領の隣にあるフィジアン領ヴァノーネ地方アシュス村に行ったんだ。うん、舌を噛みそうな名前だよな。俺も何回か舌を噛んだ。
それでまあ、仲間であるドラゴニュートのクレイストンと相棒である可愛いドラゴンのビーの活躍もあり、なんやかんやあれやそれやとあって、奥方様の病気は快方へ向かうことに。
それは良かったんだけども、さっき言った大変なことっていうのは――どうしてか俺たちに新しい仲間が増えたのです。
とんでもなく美しい女性の姿に変身する、馬の神様が。
1 急転・邂逅相遇
「こ、こ……これは……!」
「内緒ですよ、ここだけの話にしてくださいね?」
「いやしかし、てめぇ……こりゃ……」
「わぁかってますって、ヤバイ代物だってことは。ですから、極秘裏に、ね?」
「へへっ……こんだけの代物を俺に任すたぁ……」
「信頼している証ですよ……」
「へへへっ……」
「ふひひ……」
ここは、ベルカイム商業区にあるペンドラスス工房。
工房の入り口には、燦然と輝く黄金色の獅子のエンブレム。店先には、噂を聞きつけた大勢の冒険者が詰めかけ、工房の職人たちはその対応に追われている。
そんな猫の手も借りたい状況の中、俺とグルサス親方は応接室の隅で極秘談合。
なぜこのようなことになっているのかというと。
この工房の親方、ドワーフの武器鍛冶職人グルサス・ペンドラススは、この度アルツェリオ王国の王都で開催された全国武器鍛冶武具品評会なるものに出場。俺がリュハイ鉱山で採取した最高の状態のイルドラ石とイルドライトを惜しみなく使って美しいロングソードを造り上げ、武器・剣部門の最優秀賞作品に選ばれた。
美しく輝く青と白銀の剣は王や専門家を大いに魅了し、「覇者の業雷」と名付けて国宝とするとかなんとか、大事になってしまったらしい。わあ格好いいお名前、と吹き出さなかった自分を褒めてやりたい。いや確かに雷っぽいイナズマ模様が入っていたけどさ。誰だ名付けたヤツ。
そんなこんなで、ペンドラスス工房はアルツェリオ王家のお墨付きである黄金獅子のエンブレムをいただき、名実ともに国内最高の武器鍛冶工房として認められたというわけである。
しかしグルサス親方は相変わらずのようで、気が乗らなければ武器を造らない。妥協をしない。貴族から次々舞い込む見せかけだけの豪奢な剣造りは、決して受けないというスタンス。
そんな親方に、俺は採取用のハサミを造らせようとしているわけで、ちょっと申し訳なく思っていた。これでも遠慮しいなんですよ。
だが、ベルカイムに帰還しても工房を訪れない俺に業を煮やした親方は、ギルドで美味しいほうじ茶の淹れ方講座を開いていた俺の腕を掴んで、工房まで拉致した。
開口一番「なにチンタラしてやがる!」と怒声を浴びせられたのは、目が覚める思いでした。
「親方だからバラすけどさ、このミスリル魔鉱石も魔素水も古代竜にもらったんだ」
「こうして実際に手にするまで……こんな恐ろしいモンがこの世にあるだなんて信じられなかった。なんでおめぇ、古代竜なんかと知り合った。ありゃ、世界を守る神様だぞ?」
それは成り行きってやつです。
「まさか、そのチビっこいドラゴン……」
「ピュー?」
「まあまあまあまあ、そういう細かいことはどうだっていいじゃないか。で、このミスリル魔鉱石と、魔素水と、トランゴクラブの甲羅と、イルドライトを使って、ハサミは造れそうか?」
鞄から取り出した輝く鉱石の数々。そしてアダマンタイト並みに硬い、青い蟹の甲羅。
親方は難しそうな顔をしていたが、大きな鼻がひくついているのがわかる。未知の鉱石を渡されたら試したくなるのが、職人の本能。組んでいた腕を外して、怪しく輝くミスリル魔鉱石を手に取る。そしてニヤける顔。
「こんなとんでもねぇもん……試さねぇだなんて俺の名前が廃らぁ。もしかしたら鍛冶職人の憧れでもある……神器が造れるかもしれねぇじゃねぇか」
「あ、そういうトンデモ作品はいらないです」
持っていることで命を狙われるハサミとか、勘弁してくれ。
「任せろタケル! 俺が一世一代の、これ以上のモンは他に絶対にねぇってハサミを造り上げてみせるからな!!」
一流の職人が一流の材料で造る一流のハサミ。楽しみ以外の何物でもないが、少し不安が残る。
アルツェリオ王国一腕の良い武器鍛冶職人に、妥協という言葉は通じないだろうから。
「腕が鳴るぜぇぇぇーーーー!!」
親方の気合いの入ったデカい声は、狭い応接室を震わせた。
それから俺は手の型を取ってもらい、その日の極秘談合は無事に終了。親方はハサミを造るすべての工程を一人でやりきると言っていたので、一月以上はハサミに掛かりきりになるに違いない。
国が認める最高の職人を採取用のハサミに専念させるなんて、親方の腕を必要としている人は、ふざけんじゃないと怒るだろう。でも、俺は急いでいないし、出来上がりはいつでもいいって一応遠慮したからな。でもちょっと申し訳ないので、折を見てじゃがバタ醤油でも持っていってあげよう。
茹でたじゃがいもを思い浮かべていると、声がかかった。
「終わりましたか?」
「ああ、出来上がりが楽しみだ」
「それはようございますね」
工房の裏口から出た俺を待っていたのは、白銀の髪に紫紺色の瞳の美女。
優しくふんわりと微笑むその姿は、道行く誰をも振り返らせる。背が高くてすらりとしていて、肌は白くて滑らか。元気満点のブロライトとはまた違った、清楚な女性……
「急ぐように鞭を打ってやりますか? ひひん」
……黙っていれば。
ガレウス湖を守っていた聖なる獣であるホーヴヴァルプニル。略してプニさん。
魔素停滞の影響で力を失い、大地を守護することができなくなった神様。湖を守るために自分を犠牲にして石にまでなったのに、それでも守りきれず湖は汚されてしまった。
俺が湖に落っこちたことでなんでだか魔素停滞が解消され、毒素がなくなった湖には力が戻り、プニさんも元気になった。
元気になったのは宜しいのだが、世界を旅したいと俺に付いてきたわけで。
「鞭は打ちません。好きなように造ってくれればそれでいい」
「そうですか。お前がそう言うのならば、楽しみに待ちましょう」
穏やかな笑顔は本当に綺麗なんだけど、コレの正体は馬だからな。しかも、でっかいクレイを易々と運べるくらいでっかい天馬。大きさは自在に変えられるけど、基本的に普通の馬より一回りも二回りも大きいサイズ。
神様ってもっと神々しくて畏れ多くて近寄るのすら滅相もない、っていうイメージだったんだけどなあ。
「ささ、それでは屋台で、じゃがばたそうゆーを食べましょう」
「さっきも食ったろ?」
「人の子はよく言うではないですか。それは、それ。これは、これ。と」
コレ、本当にありがたい神様なのかな……
「ピュピュイ! ピューイッ!」
「あらあらまあまあ、ヴォルディアスの仔はお腹がいっぱいなのかしらね?」
「ピュッ!? ピュイィ! ピューイ!」
「わたくしは食べますよ? さっき食べたのは気のせいです。ぶるる」
美女とちびっこドラゴンのガチ喧嘩なんて、しょうもなくて見たくない。
神様であるプニさんと神様候補のビーは、なんでだか犬猿の仲。ビーのほうがまともに見えるのは、プニさんがものすごくズレているからだろう。賑やかなベルカイムに来て、相当ウカレていたからな。アレ見せろコレを買えと、三日くらいはうるさかった。なかでも、じゃがバタ醤油が気に入ったらしい。
俺も小腹が空いたところだし、ギルドでクレイを拾って屋台散策でもいいかな。
そんなことを考えながら、美女に急かされ職人街を出たらば――
「お前か! 最低ランクの素材採取家ってのは!!」
誰かがなんか叫んでいた。
最低ランクの素材採取家って俺以外にもいるのかー。そうかー。頑張ってー。
「おいっ! 聞いているのか!」
呼んでいますよ誰かさん。え? 俺? いやいや俺のわけないですよー。やだなー。
「ふざけるなっ!」
強引に腕を取られたが、無理やり振り向かすことなどできるわけがない。俺、でかいから。
「くっそ! なんでこんな、でかいんだ!!」
俺の腕を掴んでわめくのは、俺の胸より下にある茶色い頭人間の青年だった。
人の顔を覚えるのは得意。少しでも交流があれば、以前どんな会話をしたか多少なりとも記憶しているのだが、彼に関する記憶は一切なかった。つまり、見ず知らずの他人。
俺より先にプニさんが口を開く。
「どなたですか? この、小煩い猿は」
「えっ、猿? 獣人だったの? 俺、てっきり人間だと」
「ピューイー」
人間そっくりの猿獣人もいるのか、なんて感心していたら青年の顔が真っ赤になった。
「うるさいうるさいっ! おい、お前っ! 俺の縄張りで勝手なことしやがって!」
「獣人ってマーキングするの!? それは知らなかった」
「まーきんぐとは何ですか?」
「自分の縄張りを主張するために、アチコチにおしっ……」
「いい加減にしろーーーっ!」
青年が怒鳴った。
賑やかな中央通りだから、たくさんの視線を独り占め。
なんでこんなに怒るんだ? そもそもなんで俺が怒られる? 彼の縄張りなんて知らないし、彼自身を知らない。
「ええと猿さん、落ち着いて」
「俺は猿じゃねえっ! リンド・ワイムスだ! エウロパに所属しているんなら、俺の名前くらい知ってんだろう!」
知っていないといけないくらい有名な人なのか? いやでも全く知らない。これっぽっちも知らない。そもそも他の冒険者に一切興味がない。失礼な真似をしてくるヤツらの顔は覚えているが、猿……彼の名前にも聞き覚えがない。どうしよう。
「冒険者ランクB! の素材採取専門家ってのは、俺のことだ!」
あーあーあーあーあーはいはいはいはい、わかったわかった!!
冒険者ランクBの素材採取専門家がエウロパに所属しているとは聞いていたが、この青年なのか。俺よりは年上だろうけど、きゃんきゃん吼える様を見ていると度量の大きい男とは到底思えない。
お猿獣人ではなく、れっきとした人間の冒険者であるリンド・ワイムス氏。
推定年齢二十代半ば。身長……わからん。ちっさい。きゃんきゃんよく吼えるので猿というより仔犬に近い。ここで余計なことを口にすると、また面倒なことになるだろうから黙っておこう。
「新参者が我が物顔で俺の縄張りを荒らしているって聞いて来てみれば、ランクFだと? 最低ランクのヒヨっ子が生意気に!」
なんだかぷりぷりしている理由を、彼が説明する前に俺が推理してみましょう。
ベルカイムで唯一のランクB素材採取家であった彼。依頼をほぼ独占受注していたのだろう。そんな井の中の蛙状態だったところに、俺という超新星――ちょっと言いすぎか――が現れた、と。
縄張りを荒らしているつもりは全くなかった。そもそもエウロパの受付主任であるグリットにも確認したんだ。これと言って決まった採取場所はあるのかと。
チームで管理しているようなところに、勝手に入って勝手に採取したら問題になる、っていうかクソ面倒なことになる。そういう場所があるなら前もって知っておきたいからだ。
しかしグリットは笑って言った。そんなことしているヤツはいない。私有地ならともかく、ルセウヴァッハ領はすべて領主の所有物だ。独占しているヤツがいたら、逆に報告してほしいとまで言っていた。
そんなわけで、俺は安心して採取をした。と、いっても街道近くや地図に細かく記載されているような人気箇所は避け、モンスターが出てくる奥地へ赴いて採取していたのだが――
「どんなあくどい手を使ったのか知らないが、俺より評判がいいってのが許せねえ」
初対面の人間相手にきゃんきゃん吼える様が、不人気の原因じゃないかしら。
「お前、クレイストンさんの手を借りて採取してんだろ」
「はあ」
「そりゃ、栄誉の竜王が付いていやがんだもんな! どんな危険地帯にだって行けるだろうよ!」
「まあ」
「しかし解せねぇのが、俺を指名していたヤツらが、根こそぎお前のところに行っちまったってことだ!」
そんなん知らんがな。
俺は頼まれた仕事には真摯に向き合い、顧客を満足させるために最高の品を届けるよう努力しているだけだ。
そもそもクレイとチームを組む前から採取はしていた。ビーの力もあるが、俺自身だってまあまあ頑張っていた。それを知らないのかね。知らないんだろうな。
「へんっ! どうせ、どっかから盗んだ品を横流ししていやがるんだろうよ!」
あらあ。
とんだ言いがかり。
やだどうしましょう。
同じ素材採取家だというから同業者としてよしなに、なんて考えていたのが馬鹿みたいだ。嫌だなあ。採取家が皆こんな単細胞だと思われたら。
「タケル、お前の不愉快だと思う気持ちは重々承知しています」
「わかってくれるか、プニさん」
「少し、殺しましょう」
やめなさい。
爽やかな笑顔で拳を握り締めるプニさんを落ち着かせ、さてどうするかと思案。
ランクBにしては性格がヒン曲がっているのが気になるな。冒険者のランクは上がるごとに経験を積み、精神が研ぎ澄まされ、ちょっとやそっとでは喧嘩なんてしなくなるものなのに。人によるが。
弱いヤツほどよく吼えるとは言ったもの。これはアレか。彼、強い誰かに付いて便乗ランクアップしただけで実力は伴っていないっていう。
「えーと、誰さんだっけ」
「ランクB冒険者の、リンド・ワイムスだ!!」
「そうそう、ワイムス君。そのワイムス君は何がしたいわけ?」
「えっ!? えっと、そ、それは」
「この広大なルセウヴァッハ領はルセウヴァッハ伯爵の所有物であって、君の私有地でも縄張りでもなんでもない。暗黙の了解も知ったことじゃない。それなのに、君は縄張りがどうのと主張する。しかも俺の仕事に嫉妬して、盗品だのと言いがかり。それじゃあ聞くけど、盗品だった場合、俺はどこからどうやって品物を盗んでるのか教えてくれないかな」
なるべく穏やかに微笑んで、ゆっくりと話をした。
周りで知らん顔をしながらも聞き耳を立てているヤツらも無言で頷いている。言っておくけど、この群集の中には俺の顔見知りがちらほらいるんだからな。俺のことを一人前の冒険者だと認識している人たちが。彼らの目の前で俺が諾々と従ったり、同じレベルでやり合ったりしてみろ。俺の信用はダダ下がりだ。
「依頼者が俺を選ぶのは、俺が決して仕事に妥協をしないからだ。頼まれたものはランクFの野草でもより良い状態のものを厳選する。枯れたり折れたりした半端なものは決して納品しない。顧客は俺を信用してくれる。だから俺はその信用に精一杯応えるために奔走する。仕方がないと諦めて開き直るなんてとんでもない。君が依頼主だったら、どちらの採取家に仕事を頼むんだ? それはできないと断る冒険者か? 違うだろう? 期待に応えてくれる冒険者だろう?」
彼の腕前は知らないが、こんな言いがかりをつけてくるようでは高が知れている。顧客に向き合い真摯に対応していれば、客は離れていかないものだ。いくら隣の芝生が青くても、情が芽生えれば気にならなくなる。営業担当が気に入ってもらえれば、新商品の宣伝にも耳を傾けてくれるのだから。
神城クン、営業っていうのはね、会社じゃないの。看板じゃないのよ?
人なの。
人が、人にものを売って、人が、人を気に入って買ってくれるのよ。
人を舐めたり軽んじたりしたらそこでお終い。人は人を見ているんだから。
ついつい前世の先輩を思い出してしまった。厳しくとも温かみのある先輩だった。むちっとしたタイトスカートから伸びるすらりとした脚が素晴らしくて、お近づきになれたらなとか何とか思ったこともあったり……
「ああもう、やっぱり揉めている!」
先輩のおみ脚を思い出している場合ではなかった。
騒ぎを聞きつけてやってきたのは、エウロパ受付主任、キツネ獣人のグリット。銀フレームの丸眼鏡を煩わしそうに直している。あれは機嫌が悪そうだ。
「ワイムスさん、私言いましたよね? 冒険者同士での揉め事はご法度ですよと!」
「でもよ! 俺のシマを荒らしやがった新参者に礼儀ってモンを!」
「誰よりも礼儀正しいタケルさんに何を言っているんですか! ほら、ここは目立ちますからギルドに行きますよ!」
「イッテェ!! なにしやがんだ!」
ワイムスの耳をぐいっと摘み、説教をする光景はマンガみたい。耳を摘まれて引っ張られる人、初めて見た。
「ご面倒をかけますが、タケルさんも一緒に来ていただけますか?」
グリットは不機嫌ながらも苦笑いし、申し訳なさそうに言う。
ほんと面倒なんだけど、恨まれたままっていうのも気分が悪い。では、懇意にしているグリットの顔を立てるとしますか。
ところで、ベルカイムに来てそろそろ四ヶ月。
新参者っていつまで言われるのだろうか。
+ + + + +
ギルドにやってきた俺は、酒場で若い冒険者たちに囲まれて萎縮しているクレイに手を振り、奥の面談室へ向かった。またあの暇そうな巨人のおっさんこと、ギルドマスターがいるのかと思いきや、おっさんは所用で他の町に出向いているのだとか。働いていたんだ、あのおっさん。
面倒そうな話の場に面倒そうな人を連れていくのも面倒だったので、プニさんはクレイに任せた。
室内には、グリット、ワイムス、俺の三人。皆席についたところで、グリットが口を開く。
「さて、及ばずながら私が仲立ちさせていただきます。宜しいですね?」
お茶を持ってきてくれたアリアンナのウサ耳の動きに癒されながら、話は強引にはじまった。
グリットによると、数ヶ月前からワイムス氏より一方的な苦情が出ていたらしい。ベルカイムで唯一のランクB冒険者の素材採取専門家である自分の仕事が減ってしまった、指名依頼が半分以下になってしまった、どういうことだと。
問われたところでグリット氏は、他の冒険者の情報は決して流さない。口の堅さで言えば、事務主任のウェイドよりも堅いと評判なのだ。なので、ワイムス氏がいくらグリットに聞いても埒が明かなかった。
そこで彼は、指名依頼を解消してしまった顧客に直接聞くことにした。というよりたぶん脅したんじゃないかな。そして聞き出したのが、新参者のランクF冒険者である素材採取専門家。
底辺ランクの分際で自分の顧客を根こそぎ取っていくだと? とまあ憤慨したわけだ。
グリットが珍しく恐ろしげな声で言った。
「ではワイムスさん、タケルさんに謝罪をしてください」
「なんでだ!」
「騒ぎを聞いていた者に聞きました。貴方が一方的にタケルさんに言いがかりをつけていたんですってね」
「チッ! 告げ口かよ」
「なんですか、その口の利き方は!」
グリットさんまじ怖い。
だが、叱ってくれる人がいるのはありがたいことなのだ。叱る側は過ちを正してほしいと願っているからこそ言う。興味のない人間なら放置しておけばいい。勝手に自滅してくれるのだから。
「貴方、言われたくないんでしょう? 便乗ランクアップだと」
「そんなこと言ったヤツ、俺がぶちのめしてやる!」
「戦闘能力皆無な貴方が、何を世迷言を」
二十代半ばほどでランクBというのは、運だけではたどり着けない。多少なりとも実力はあるはずだ。しかし、この性格では疑われても無理もない。俺ですら疑ったんだ。高ランク冒険者に便乗してランクアップしたに違いないと。
ともかく、ベルカイムにはもう少し滞在する予定だし、居心地の好い町のままでいてもらいたい。なので、このまま勝手にライバル視されるのは困るな。
では、俺のターンということで。
「はいグリットさん」
「はい、なんでしょう」
「一言、言ってもいいですか」
「もちろんです。タケルさんの言い分もあるでしょうから」
それでは反論いきますか。
感想
あなたにおすすめの小説
【完結済】ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家華麗に亡命する
satomi醜く自らに魔法をかけてケルリール王国王太子と婚約をしていた侯爵家令嬢のアメリア=キートウェル。フェルナン=ケルリール王太子から醜いという理由で婚約破棄を言い渡されました。
もう王太子は能無しですし、ケルリール王国から一家で亡命してしまう事にしちゃいます!
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
妹ばかり愛した家族へ。私が王太子妃になった日、皆さんは謝りました。けれど、もう遅いのです
由香【全一話完結】
幼い頃から妹の引き立て役として生き、婚約者まで奪われて家を追放された侯爵令嬢エレナ。
傷ついた彼女が助けた青年は、身分を隠した王太子だった。
一年後、王太子妃となったエレナの前に現れたのは、今さら「家族だから」と擦り寄ってくる両親と妹。
けれど彼女は、もう二度と振り返らない。
婚約者を妹に譲ったので、温泉へ行く
七月なのか貴族の令嬢リリアーナは、幼い頃から「役立たず」と呼ばれて育った。
社交が苦手で、刺繍と料理ばかりしていた彼女を、家族も婚約者も疎ましく思っていた。
そしてある日、婚約者は妹と恋に落ち、婚約破棄。
両親からも見放されたリリアーナは、亡き祖父が遺した火山地帯の小領地を押し付けられ、王都から追い出されてしまう。
「好きに生きなさい」
それが最後の言葉だった。
画像作成:AI
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
私に姉など居ませんが?
山葵「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人(あゆと)侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
