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序章
話の顛末
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ネビラは良くも悪くも皇女であった。
『アレカードの愚姫』と揶揄されるほど、バカであるが、顔だけはよかったのだ。
優秀なのはその双子の妹の方であった。
彼女は『アレカードの宝姫』と呼ばれるほど賢かったのである。
そしてその事実はネビラを嫉妬させた。
憎いながらも愛していた。
妹に対する感情はそれだった。
余りの愛しさと嫉妬がついに爆発する時が来る。
それは、妹が召喚獣との契約にいち早く成功し時期皇位継承者候補としての能力を示した時だ。
そしてそれは、自分の命をかけて契約の儀式を断行する十分な動機だったのである。
召喚獣との契約は最悪、命を失うものだ。
それでもそれに見合った魔力と潜在能力を持っていれば無事使役できるだろう。
『アレカードの宝姫』リリア・ネイラ・アレカードのように。
しかし、顔だけしか価値がないと揶揄されていた『アレカードの愚姫』ネビラ・ネイラ・アレカードにとっては契約自体は過酷すぎたのである。
姉が契約を実行すると聞いたとき、リリアは唖然となっていた。
自分がまさかここまで姉を追い込んでいたとは・・・と悔しそうに美しい顔をゆがめる。
使役する召喚獣を控えさせたまま、彼女は召喚の間を開けたとき姉は悲鳴を上げていた。
「ああああああああああああああああああああああああああああ」
姉の額に指を突っ込んでいる『それ』は幼い少女のようであったが、能力はまるで別物だとリリアはすぐに分かった。
「お姉さま!!」
すぐに姉を救うべく攻撃魔法を展開させるが、彼女が使役する召喚獣が止める。
「待て。リリアよ。」
「なぜ止めるのですか!?このままではお姉さまが!」
「すでにアレとお前の姉の魂が繋がっている。下手に攻撃すればお前の姉も無事では済まぬ。」
「しかし!」
「・・・それにこれはお前の姉の意地だ。見届けてやれ。」
「・・・・。」
やがて悲鳴が止んだ。
「・・・・・・・いや、地球名である早川駿の名で言った方が良いかのう?」
(地球?地球ていった!?)
雰囲気ががらりと変わった姉にも驚いたが、『それ』が言った言葉にも衝撃を受けた。
(早川駿・・!ああ・・・!!)
それはリリアにとって懐かしい『兄』の名前だったのだ。
雰囲気が違ってしまった姉はすっきりした顔で言った。
「リリア。」
「はい。」
「今まで八つ当たりして済まなかった。皇位継承権はあなたとは争わない。この国はあなたが治めるべきだ。」
「お姉さま・・・・。」
リリアは意を決して言った。
「お姉さまと2人きりにしてちょうだい。」
護衛の騎士たちはこの言葉に顔を見合わせあった。
この姉妹の今までの諍い(というよりネビラの一方的な攻撃)を考えたら2人きりにするのは適当ではなかった。
「大丈夫ですよ。」ネビラは言った。
「もう無様な真似はしません。」
気が進まないまでも護衛の騎士は部屋から退出。
この部屋には姉妹とそれぞれの召喚獣のみとなる。
「・・・まさか、あなたが日本人だったとは今まで気が付きませんでした。」
「・・・・とするとリリアもお仲間ってことですか・・・・。」
「はい。わたくしたちはこの世界に転生したのですよ。お姉さま。いいえ、駿兄。」
「!!」その言葉にネビラははげしく動揺する。
「・・・まさか・・・・、瑠璃か・・・?」
「はい。懐かしい名前です。前世でも今生でも血のつながった家族ですね。」
「・・・・今は姉妹だが昔は兄妹だったけどな。」
昔を思い出すような素振りを見せるネビラ。
「いつから思い出した?」
「わたくしは生まれた時から持ってました。」
ネビラは合点がいったようにうなづいた。
「なるほど。」
ネビラはリリアが賢かった理由を理解した。
チートなはずだ。
日本での知識や教育を踏襲しているのだ。
中世レベルのこの世界とは比べ物にならない。
ましてや”思い出せなかった”ネビラでは話にもならなかった。
勝ち目などなかったのだ。
考えてみればリリアがこの世界で『発明』したものは見覚えがあるものばかりだったのだ。
「・・・ですから私の知恵はカンニングしたようなものです。皇位にふさわしくありません。」
リリアは苦しそうに心の内を晒す。
「ですからお姉さまに・・・。」
「長子が継ぐ伝統はこの国にはない。それに私たち姉妹がこの国を割るのはまずい。リリアもわかるはず。北方の帝国が触手を伸ばすだろう。」
「・・・しかし。」
「”早川瑠璃”なら出来る。そうだろう?前世でも俺よりはるかに成績上位だっただろう?」
「・・・そうだったね。」
2人は歩みよった。
「・・・私は帝国との国境調査に行く。」
「危険です。」
「帝国も『アレカードの愚姫』など警戒もしないだろうさ。」ネビラは自嘲ぎみに言った。
「そこに付け込む隙が生まれる。リリアは皇太女としてドンと構えていればいい。」
「・・・・わかりました。お預かりいたします。」
「私は追い出されたってことにして出奔することにする。それと。」
ネビラは何人かの重臣の名を挙げた。
「この連中には決して気を許すな。リリアに対して私が嫉妬心を爆発させた遠因を作った連中だ。
ネビラのままだったら気が付かなかったところだが。」
「トロイの木馬ですね?」
「ああ。でも首にするなよ?内偵して帝国との内通の証拠をつかんでもな。」
この場合の首とは文字通りの斬首である。
「了解です。」
そいつらを逆に利用しろと言ってることはリリアも当然理解する。
それに『人は石垣・人は城』と某有名武将が言ってるように、ポンポン処刑したら国が破滅してしまう。
日本の隣にあった某将軍様の国のように。
『アレカードの愚姫』と揶揄されるほど、バカであるが、顔だけはよかったのだ。
優秀なのはその双子の妹の方であった。
彼女は『アレカードの宝姫』と呼ばれるほど賢かったのである。
そしてその事実はネビラを嫉妬させた。
憎いながらも愛していた。
妹に対する感情はそれだった。
余りの愛しさと嫉妬がついに爆発する時が来る。
それは、妹が召喚獣との契約にいち早く成功し時期皇位継承者候補としての能力を示した時だ。
そしてそれは、自分の命をかけて契約の儀式を断行する十分な動機だったのである。
召喚獣との契約は最悪、命を失うものだ。
それでもそれに見合った魔力と潜在能力を持っていれば無事使役できるだろう。
『アレカードの宝姫』リリア・ネイラ・アレカードのように。
しかし、顔だけしか価値がないと揶揄されていた『アレカードの愚姫』ネビラ・ネイラ・アレカードにとっては契約自体は過酷すぎたのである。
姉が契約を実行すると聞いたとき、リリアは唖然となっていた。
自分がまさかここまで姉を追い込んでいたとは・・・と悔しそうに美しい顔をゆがめる。
使役する召喚獣を控えさせたまま、彼女は召喚の間を開けたとき姉は悲鳴を上げていた。
「ああああああああああああああああああああああああああああ」
姉の額に指を突っ込んでいる『それ』は幼い少女のようであったが、能力はまるで別物だとリリアはすぐに分かった。
「お姉さま!!」
すぐに姉を救うべく攻撃魔法を展開させるが、彼女が使役する召喚獣が止める。
「待て。リリアよ。」
「なぜ止めるのですか!?このままではお姉さまが!」
「すでにアレとお前の姉の魂が繋がっている。下手に攻撃すればお前の姉も無事では済まぬ。」
「しかし!」
「・・・それにこれはお前の姉の意地だ。見届けてやれ。」
「・・・・。」
やがて悲鳴が止んだ。
「・・・・・・・いや、地球名である早川駿の名で言った方が良いかのう?」
(地球?地球ていった!?)
雰囲気ががらりと変わった姉にも驚いたが、『それ』が言った言葉にも衝撃を受けた。
(早川駿・・!ああ・・・!!)
それはリリアにとって懐かしい『兄』の名前だったのだ。
雰囲気が違ってしまった姉はすっきりした顔で言った。
「リリア。」
「はい。」
「今まで八つ当たりして済まなかった。皇位継承権はあなたとは争わない。この国はあなたが治めるべきだ。」
「お姉さま・・・・。」
リリアは意を決して言った。
「お姉さまと2人きりにしてちょうだい。」
護衛の騎士たちはこの言葉に顔を見合わせあった。
この姉妹の今までの諍い(というよりネビラの一方的な攻撃)を考えたら2人きりにするのは適当ではなかった。
「大丈夫ですよ。」ネビラは言った。
「もう無様な真似はしません。」
気が進まないまでも護衛の騎士は部屋から退出。
この部屋には姉妹とそれぞれの召喚獣のみとなる。
「・・・まさか、あなたが日本人だったとは今まで気が付きませんでした。」
「・・・・とするとリリアもお仲間ってことですか・・・・。」
「はい。わたくしたちはこの世界に転生したのですよ。お姉さま。いいえ、駿兄。」
「!!」その言葉にネビラははげしく動揺する。
「・・・まさか・・・・、瑠璃か・・・?」
「はい。懐かしい名前です。前世でも今生でも血のつながった家族ですね。」
「・・・・今は姉妹だが昔は兄妹だったけどな。」
昔を思い出すような素振りを見せるネビラ。
「いつから思い出した?」
「わたくしは生まれた時から持ってました。」
ネビラは合点がいったようにうなづいた。
「なるほど。」
ネビラはリリアが賢かった理由を理解した。
チートなはずだ。
日本での知識や教育を踏襲しているのだ。
中世レベルのこの世界とは比べ物にならない。
ましてや”思い出せなかった”ネビラでは話にもならなかった。
勝ち目などなかったのだ。
考えてみればリリアがこの世界で『発明』したものは見覚えがあるものばかりだったのだ。
「・・・ですから私の知恵はカンニングしたようなものです。皇位にふさわしくありません。」
リリアは苦しそうに心の内を晒す。
「ですからお姉さまに・・・。」
「長子が継ぐ伝統はこの国にはない。それに私たち姉妹がこの国を割るのはまずい。リリアもわかるはず。北方の帝国が触手を伸ばすだろう。」
「・・・しかし。」
「”早川瑠璃”なら出来る。そうだろう?前世でも俺よりはるかに成績上位だっただろう?」
「・・・そうだったね。」
2人は歩みよった。
「・・・私は帝国との国境調査に行く。」
「危険です。」
「帝国も『アレカードの愚姫』など警戒もしないだろうさ。」ネビラは自嘲ぎみに言った。
「そこに付け込む隙が生まれる。リリアは皇太女としてドンと構えていればいい。」
「・・・・わかりました。お預かりいたします。」
「私は追い出されたってことにして出奔することにする。それと。」
ネビラは何人かの重臣の名を挙げた。
「この連中には決して気を許すな。リリアに対して私が嫉妬心を爆発させた遠因を作った連中だ。
ネビラのままだったら気が付かなかったところだが。」
「トロイの木馬ですね?」
「ああ。でも首にするなよ?内偵して帝国との内通の証拠をつかんでもな。」
この場合の首とは文字通りの斬首である。
「了解です。」
そいつらを逆に利用しろと言ってることはリリアも当然理解する。
それに『人は石垣・人は城』と某有名武将が言ってるように、ポンポン処刑したら国が破滅してしまう。
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