牢獄の夢

平坂 静音

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 王子のイネスへの行き過ぎた愛は、あなたのマリア・デ・パディリャへの寵愛や、ひいては先王のレオノールへの偏愛を思い出させます。人が人を愛するという、本来なら尊い行為は、ときに人を誤った方向へと導くことがあるようでございます。

 神の前で愛を誓った正妻への貞節を裏切り、人の道にそむく行為にふける者は、いつの時代もどこの国にもいました。

 それが名もなき庶民の世界ならその人だけのことですむのですが、国をべる王族となると、これはときにとんでもない大事になってしまい、幾百幾千、いいえ、ときには幾万もの人々の人生を左右し、歴史を変えてしまうほどの一大事になってしまうこともありえます。

 そういう一大事を引き起こす運命の星のもとに、わたくしもあなたも生まれてしまったのかもしれません。

 そして……言いたくない愚痴をあえて言わせていただくのなら、わたくしだとて、あなたの御母上マリア様だとて、ポルトガルに嫁いだコンスタンサだとて、なにひとつ罪があるわけではございません。

 由緒ある貴い家に生まれ、ただしい教育を受け、国や親のためにと使命を背負いつつも結婚に夢を持って異国におもむいたはずなのに、そこで夫君から思いもよらぬ仕打ちと侮辱を受けることになったのでございます。

 本来なら得るべき愛も、女としての栄華も、物語にかたりつがれる主人公の役目もすべて神の教えに背いたはずの女たちに奪われ、邪魔者あつかいされ、忍従の日々を送らなければならなくなったのです。このような不正義がまかりとおってよいものでしょうか。
 
 あなたは、わたくしを守ろうと武器を手に集まった群衆のまえに平然と、「自分は王妃を大事に思っている」と嘘をつかれた。そしてわたくしのことを案じ、あなたに「正しい結婚の道へ戻るように」と説く教皇様のお手紙にも虚偽にみちた欺瞞ぎまんくさい返事をおくり、世間体をつくろわれた。
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