龍蘭帝国奇談夜話

平坂 静音

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痴蝶戯画 三

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 とはいっても、都でいう妓楼の妓女たちは、黄風が一昨年まで住んでいた故郷で見た、遊女くずれの妓女たちとはまったく格がちがう。
 金持ちの遊客にともなわれ、つねに七色なないろ美衣宝玉びいほうぎょくにつつまれて、馬車や輿に乗って都を行く妓女たちは、黄風から見たら別世界の人種だ。
 女中頭とともに買い出しに出かけた折に彼女たちを見かけるたび、黄風はまるで雲にかくれる満月を眺めるような想いで、貴族や豪商の側につれそう、霧か霞のような被衣かつぎでおおわれた彼女たちの顔を見上げたものだ。
 口うるさい女中頭がそばにいなければ、いつまでも彼女たちを見つめていたいぐらいだ。それは田舎そだちの黄風から見れば、まさしく帝都の華であり、夢のような存在なのだ。
〈都って、本当に面白いもんなんだなぁ……〉
 田舎にはない不思議で珍しいものがたくさんあるのだ。
 あり過ぎて、怖いぐらいだ。黄風にとって妓女とは、良い意味でも悪い意味でも、都というものの象徴のように思えた。 
 そして話はその妓女がらみのものだった。
「奥様も知っていらっしゃるでしょう? その弟子、もとは妓女としてその店に上がったんですけれどね、ご主人に見初められて……後妻にあがったんですよ」
 後妻、ということは、前妻は亡くなったのだろうか? 離別したのだろうか? 黄風はつい考え込んでしまった。まるで黄風の心の問いに答えるかのように、師匠は訊きたいことを言ってくれた。
「ええ。知ってのとおり、前妻さんは、坊やを生んで、しばらくたって亡くなったらしいですけれど……あのとき、変な噂が」
「あら、それって、もしかして、前妻さんの祟りだとか、呪いだとかいう、あの噂?」
 ここで黄風の頭は少しこんがらがった。
「やっぱり奥様も聞いてらっしゃる?」
「ええ。けっこう噂になりましたもの。つづけて奥さんが二人亡くなったんですものね。うちの隣のお婆さんが、あれは最初の女房の呪いにちがいない、なんて言ってましたわ」
 隣家の大奥さんのことだ。黄風もむろん知っている。張家の庭木の葉が隣家の庭に落ちるたびに文句を言ってくる口うるさい老女である。
「まぁ、あのお婆さんもお喋りね。ほほ」
 事情がすこし理解できた。つまり、師匠のお弟子の娘さんは、その料亭か妓楼の主の、三番目の妻として嫁入りしたのだ。そして、どういう事情があったのかわからないが、前妻二人は亡くなったらしい。
「まぁ、そういう縁起の悪い話がついてまわっておりますでしょう? 私も、その弟子……眉雪びせつがそこへ嫁にいくと聞いたときは、かなり反対しましたのよ。それも相手は十五も年上で、最初の妻とのあいだに子どもだっているっていううえに、前妻二人が二人とも病死したような家に、そりゃ、いくらお金があるとはいっても、いくら、世間に例のない話だと言ってもねぇ……かなり説得しましたよ」
 師匠の言葉には悔しさがにじんでいる。
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