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痴蝶戯画 四
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「それでも当人が、この先妓女としてやっていく自信もないっていうし。まぁ、そういうなら若いうちにさっさと嫁入りした方がいいかもしれませんね」
「それほど、その眉雪さんという人は、旦那に惚れていたのかしら?」
奥様が、ぜったいに娘や使用人のまえでは言わないような言葉を吐いた。ふだんなら、惚れる、などという言葉は、奥様はつかわない。
「まぁ……惚れていたことは惚れていたでしょうが……あの娘の家も、複雑で」
そこで師匠の声音は、またちがう湿り気を帯びた。
「生みのお母さんはもういないのよね?」
「ええ。まぁ。その家も後妻がいて、その継母とはしっくりいってないようで……。だから早く家を出たかったんでしょうね。しかも実家の商売はうまくいってないようで」
「まぁ……、じゃ、そういう事情で、その、お金のために……?」
奥様の声には同情が感じられる。
「多少は、そういう事情もあったんでしょうね。なんといっても、そこのお店《銀蝶閣》さんはお金だけは、たんとあるようですしね」
「《銀蝶閣》とは、また恐れ入った店名ね」
「昔は――妓楼だったころには、まぁ、今だって妓楼みたいなもんですけれどね、十年ぐらいまえは《夜蝶楼》という名前だったんですけれど、建物を新築したときに名前を変えたんですよ。で、今は一応、料亭ということになっていますけれど……。ま、料理のあとには、女を呼んだりもしているらしいですよ。やっていることは何も変わってないんですよ。ただ、体裁ぶりたいだけなんですよ」
黄風は、さすがにただ突っ立って立ち聞きしているわけにもいかないので、一応、手ぬぐいで床掃除をする振りだけをしながら、話のつづきを待った。
「それで、その前妻のお子さんは元気なの?」
「それがね、奥様、」
師匠の声は熱を帯びた。これから、まさしく話の本番、というふうに。
「女の子なんだそうですが、かなり身体が弱いらしくて、離れで寝たり起きたりだそうですよ。ご隠居さん、つまり店主のご生母さんがつきっきりだそうですよ。そりゃ、心配にもなりますわよね。だって……」
「五人ですものねぇ……」
奥様の、しみじみとした声に、黄風はまた必死に聞き耳をたてずにいられなかった。
「怖いですよね。最初の奥さんの最初の子は、生後六か月で亡くなって、二番目のお子さんは、まぁ、病弱ながらなんとかその子が生きているとはいえ、三番目のお子さんは死産」
そこで一瞬、沈黙がおりた。
「それが原因で最初の奥さんも亡くなって」
「次の奥さんとの間には?」
「えーっと、二番目の奥さんとの間にできた最初の子は、たしか二歳で亡くなって、二人目のお子さんは生まれて三月で亡くなって」
師匠は指を折って、思い出しながら数えているようで、それを想像して、黄風は、ふと黒光りする廊下の天井や壁からつめたい空気がすっと吹いてくるような錯覚を覚えた。
「それほど、その眉雪さんという人は、旦那に惚れていたのかしら?」
奥様が、ぜったいに娘や使用人のまえでは言わないような言葉を吐いた。ふだんなら、惚れる、などという言葉は、奥様はつかわない。
「まぁ……惚れていたことは惚れていたでしょうが……あの娘の家も、複雑で」
そこで師匠の声音は、またちがう湿り気を帯びた。
「生みのお母さんはもういないのよね?」
「ええ。まぁ。その家も後妻がいて、その継母とはしっくりいってないようで……。だから早く家を出たかったんでしょうね。しかも実家の商売はうまくいってないようで」
「まぁ……、じゃ、そういう事情で、その、お金のために……?」
奥様の声には同情が感じられる。
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「《銀蝶閣》とは、また恐れ入った店名ね」
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黄風は、さすがにただ突っ立って立ち聞きしているわけにもいかないので、一応、手ぬぐいで床掃除をする振りだけをしながら、話のつづきを待った。
「それで、その前妻のお子さんは元気なの?」
「それがね、奥様、」
師匠の声は熱を帯びた。これから、まさしく話の本番、というふうに。
「女の子なんだそうですが、かなり身体が弱いらしくて、離れで寝たり起きたりだそうですよ。ご隠居さん、つまり店主のご生母さんがつきっきりだそうですよ。そりゃ、心配にもなりますわよね。だって……」
「五人ですものねぇ……」
奥様の、しみじみとした声に、黄風はまた必死に聞き耳をたてずにいられなかった。
「怖いですよね。最初の奥さんの最初の子は、生後六か月で亡くなって、二番目のお子さんは、まぁ、病弱ながらなんとかその子が生きているとはいえ、三番目のお子さんは死産」
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「次の奥さんとの間には?」
「えーっと、二番目の奥さんとの間にできた最初の子は、たしか二歳で亡くなって、二人目のお子さんは生まれて三月で亡くなって」
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