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夜霧奇談 二
しおりを挟む「参ったな、日が暮れてしまう」
空はすっかり茜色に染まり、もうじき漆色に変わるでしょう。それなのにわたしたちはまだ山道を抜け出ていないのです。
わたしはくたびれて、午後にもらった口紅の色にも似た空を見上げて不吉な想像をしました。まるで……流血のよう……。
もしかしたら、こうして夜が近づくと空が赤くなるのは、その日、流れた血が空に昇って天に向かって行くからではないでしょうか。
国じゅう、いえ、世界じゅうで今日一日の間に流された血が、すべて空に流れて行ったのではないでしょうか。そのなかには人間の血もあれば、獣や虫の血も混ざっているかもしれません。ちょっとした怪我で流れた血もあれば、命にかかわるほどの傷で流れた血もあったり。
いえ、いえ、実際に流れた血だけではなく、目には見えない心が流した血もあるかもしれません。そうやっておびただしい量の血が空に昇って、今日も世界を茜色に変えるのかもしれません。だからこそ人は皆夕焼け空を眺めると、哀切な気持ちになるかもしれません。そこには、無数の命あるものたちの苦痛や悲哀がこもっているから……。
ああ、やめましょう。どんどん暗い気持ちになっていきます。
わたしには、時々やくたいもない事を考え込んでしまう悪い癖があります。それはきっと、幼いころ村の寺院の尼僧様から詩歌を学んだせいかもしれません。百姓の子がそんなものを習ってどうするのか、と母には叱られながらも、わたしはこっそり寺院に寄っては尼僧様のご親切に甘えて詩歌を学び、拙いながらも自分で作詩するようになったのです。
「たいしたものだ、この子には詩の神が下りて来ているのかしれないね」
初老の尼僧様はわたしの書いたものを読んで、そんなことをおっしゃられたことがありました。詩の神というのはときに奇妙な悪戯をなさるものです。
「旅のお方、もしや、お宿をお探しで?」
わたしが兄の焦燥をよそに、夕暮れ空を背にぼんやりと物思いに耽っていると、突然、かわいた声が響いてきました。
「え? ああ、はい。山を抜けれぬまま、日が暮れてきてしまって……。困っております」
声をかけてきたのは、枝木の束を背負った老人でした。藍色の衣は粗末ですが、物腰にどことなく品がり、皺にはさまれた目には知性が宿っております。
「わしは、そこのお邸にお仕えしておる。ご主人様はお優しいお方で困っている人をほうっておけぬご気性だから、きっとあんた達を泊めてくれるだろう。来るといい」
「それは……助かります」
兄は老人と連れ立って歩きながら、馬上のわたしを彼に紹介しました。
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