双珠楼秘話

平坂 静音

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貴人 一

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 二人は東にある玉蓮の私室に招かれた。庭に面した観音扉かんのんとびらは、季節の風を入れるために開かれており、室全体が清々しく感じられる。純白の壁紙には宝剣ほうけん団扇うちわの模様が一面に描かれてあり、入りこんでくる陽光がその壁や飴色あめいろの床をまぶしいほどに照らしている。
茉莉花茶まつりかちゃはお好きかしら?」
「はい、好きです」
 黒檀こくたんの卓に置かれた茉莉花茶を輪花はありがたくいただいた。
 正直言うと、茉莉花茶はすこし癖があるように感じられて好きではなかったのだが、出された茶はほんのり甘味があって輪花の舌に合っていた。
「ここで少し我が家のことを説明しておきますね。あらためて自己紹介させていただきます。わたくしは呂玉蓮ろぎょくれん。母は呂火玉ろかぎょく。わたくしは母にとっては一人娘でして……。婿を取ったのですが、夫となった人は勉学のために都へ出て、それっきりで……」
 玉蓮はそこで目を伏せた。長い睫はほんの少し湿って見える。
「さいわい夫とのあいだには娘が一人おりましたので、その娘が婿を取って家を継いでくれることになっていますの。娘の名は金媛きんえんと申します。呼びしましょう」
 背後に控えている侍女に目配せすると、侍女は音もなく滑るように室を出た。
 しばらくすると、観音開きの扉の所に、うやうやしく侍女に手をひかれて、一人の乙女があらわれた。
「お母様、お呼びでしょうか?」
 母親とよく似た涼やかな声が響いて、ゆったりとした動きで桜桃おうとう色の裾をゆらしながら金媛と呼ばれた娘が入ってくる。
(うわぁ……綺麗な人)
 輪花は思わず目を見開いた。隣の緑鵬はぽかんと口を開いている。
    あたりに彼女のつけている香なのだろう、ほのかに伽羅が室にただよう。  
 しずしずと黒檀の円卓に近づいてきた令嬢は、母のそばまで来ると、しとやかそうに頭を下げる。結い上げている髪にされた小鳥の形の簪から垂れる銀鎖ぎんさがゆれる。 
呂金媛ろきんえん。わたくしの娘ですの」 
 玉蓮のその言葉には誇りがにじんでいた。 
「金媛、こちらは林家の若君、林緑鵬りんりょくほう殿。お隣は、今度新しく我が家に仕えることになった封輪花ふうりんかさん。輪花さんは、あなたの婿君に仕えることになっているわ」
「……こんにちは」
 かすかに顔を上げる仕草も、発する声も、ひどくゆったりとして、いかにも深窓の御令嬢というようだ。今までに見た村のそこそこの金持ちの娘たちとはまるで違う。裕福な官吏や商人の娘たちなどとは格が、雰囲気がまるでちがうのだ。
 輪花はしみじみ思った。
(この人は、貴人きじんなのだわ)
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