双珠楼秘話

平坂 静音

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貴人 二

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 思えば呂家は、皇族にもつながる名家なのだ。時流からはずれて田舎で遁世とんせいいしているとはいえ、その貴族の血は、まちがいなく目の前の娘に伝わっている。そういうふうに育てられたのだ。火玉や玉蓮は、彼女を自分たち以上に貴族らしく、姫君として大事に養育してきたのだろう。
 勿論その顔だちも母に似て整ってはいるけれど、容姿よりもなによりも、彼女のかもし出す雰囲気の方が印象的で、見るものを圧倒するのだ。
 まるでほうけたように令嬢を見つめている緑鵬を横目で睨みながら、輪花はほろ苦くそんなことを考えた。 
(本当に、全然ちがう世界の人なんだわ)
 口入れ屋の男が話していたことを輪花は思い出した。
『呂家のお嬢様という方は、そりゃ、大変な別嬪さんだそうで。以前、視察にきた都のお偉い方が、たまたま呂家に立ちよった際、お嬢様を目に止められて……、当時はまだ十三歳だったそうですが、その美しさにびっくりしたほどで。その方が、後宮に側室として出仕させないかと熱心に勧められたそうですが、跡継ぎだということで大奥様が断ったそうですよ』
 話半分に聞いていたが、なるほど、確かにこれは都の偉い人が後宮への出仕を勧めるのも無理はないとうなずける。
「ごきげんよう、緑鵬様」
「あっ、は、はい!」
 声をかけられた緑鵬はしどろもどろになっている。
「お、お会い出来て光栄です!」
 いきなり立ち上がったため、卓上の椀の茶がすこし跳ね上がってこぼれた。
 内心、やや面白くないと思った輪花も、
「よろしくね、輪花」
 そう声をかけられ微笑まれると、慌ててしまった。
「は、はい。よろしくお願いします」
「まぁ、金媛、とにかく腰掛けなさいな」
 そう言うと、夫人はまるで皇女に仕える女官のように、椅子をずらし、彼女のために場をつくる。その取りなしぶりは、本当に娘を自分の親以上に崇めているようで、輪花は少し違和感すら覚えた。
「緑鵬様は、都へ出られるそうですね?」
「え、ええ。半月後には立つつもりです」
 そう聞くと、今更ながら輪花は切なくなる。
 都へ出て勉学にはげみ出世することは、緑鵬にとっては喜ばしいことだ。緑鵬の父は緑鵬にかなり期待しており、この時代の少しでも頭の良い息子を持った父親なら誰しもが願うように、なろうことなら都で官職に進み、立身出世して欲しいと望んでいる。
 そうなれば、勿論林家にとっても、緑鵬自身にとっても素晴らしいことだが、緑鵬にはもう会えなくなってしまうかもしれない。
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