双珠楼秘話

平坂 静音

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婿入り前 二

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「相手の女性、名は、なんというのだったかな?」
金媛きんえんだ。たしか十六になると聞いた」
「十六か。お前が二十歳だから、似合いだな」
 もっと歳のはなれた結婚など珍しくもない。実際、他に持ちこまれた縁談では、嫁に行き遅れた三十過ぎの年増との話もいくつかあった。
 だいたい、貧乏官吏の家の次男や三男を婿に欲しがる家の娘というのは、たいていは婚期をのがした年増か醜女しこめ、まともな結婚がしづらい、何かしらいわくある女性なのだ。
「なぁ、妙なことを訊くが、相手の女性は……問題はないのか?」
 学問所でも、他の学友たちから揶揄からかい半分で訊かれたことがある。だが西破の顔は本当に心配そうに曇っている。
「うーん……兄上が調べたかぎりでは特にないらしい……。噂ではなかなかの美少女だというし、琴や書の腕もまぁまぁだという。悪い噂は聞かないが。ただ……」
「ただ?」
「とにかくほとんど外に出ないので、噂になりようもないのだ。深窓の令嬢として屋敷の奥深くで過ごしているという。今時、いくら旧家の跡取り娘でも珍しいぐらい内気なようだ」
「ふうむ。まぁ、特に問題はなさそうなのだな」
 西破はやや安心したように太い眉を丸めた。
「まぁ、馬で行けば半日で着けるぐらいだし……。何かあったらすぐ連絡をくれ」 
「何もあるわけないだろう。だが、遊びには来てくれ。私もときどきは里帰りもするし」
 英風はのんきに笑った。

 崔英風さいえいふう呂金媛ろきんえんの婚礼は、おごそかに、だが慎ましやかに行われることになった。
「大奥様が、派手なことがお嫌いでして」
 迎えにきた呂家の侍従は、そう申しわけなさそうに言って頭を下げた。
 病を押してこの日をむかえた父は、その侍従に手を取られて、黒絹の晴れ着に身をつつんだ痩せた身体で、迎えの馬車に乗りこんだ。
 父の健康を心配して呂家が特別に用意してくれた馬車は、向かい合う座椅子が見事な繻子張しゅすばりの、なかなか立派なもので、母は嬉しそうに目元の小じわをゆがめた。兄も満足そうで晴れやかな顔をしている。
「まぁ……、なんて豪華なんだろうね。まるで天子様の馬車みたい」
「おおげさだよ、母さん」
 英風は苦笑したものの、目にも鮮やかな緑色の羽や朱色の紐で飾りたてた翠蓋朱纓すいがいしゅえいのその馬車は、非常に贅沢なものだった。英風は勿論、家族もこういう貴人用の馬車に乗ったのは生まれて初めてだ。
 隣近所の人々も出てきて珍しそうに馬車を見ている。両親が近所の見物人たちに律儀に一礼するのを待って、御者は鞭をふった。
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