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祝言 四
しおりを挟む小部屋を出ると、どこもかしこも掃き清め磨きあげた廊下じゅうに、馥郁とした香があふれていることに気をひかれた。
それだけではない。数日前よりこの日のために屋敷じゅうの壁紙が張り替えられ、帳が新調されている。
主殿の東側は主に薄紅、薄桃の華やかなものでまとめ、西側は新緑、若葉色の清々しい色合いのものでまとめてある。若夫婦にふさわしい色合いにしたのだろう。まるで屋敷そのものが若返ったようで、輪花もどこかうきうきした気持ちになってきた。
「お婿様って、どんな方かしらね?」
「とても聡明な方らしいわよ。聞いた話では、けっこう美男子なんですって」
桂葉の杏型の目が陽気に笑う。二人は連れだって外へむかった。
「来られたわ」
誰かがそう囁いた。
やや興奮しながら輪花は仲間たちとともにならんで、新郎が馬車から降りてくるのを待った。最初は品の良さそうな初老の夫婦がゆっくりと降りてきた。夫の方の足取りは心もとなげで、少し身体の調子が悪いのかもしれない。つづいて若い男が降りてきた。
「あの方かしら」
またも誰かの囁き声。
ややいかつい顔だちではあるけれど、鼻筋はすっきりしていて、まずは整っている方だろう。肌は色黒で、藍色の晴れ着につつまれた身体はかなり逞しそうで輪花は意外な気がした。有名な秀才らしいと聞いていたので、どことなく緑鵬に似た色白で細面の、やや繊細な青年を心の内に描いていたのだ。
「あれはお兄様の秀風様よ」
誰かの声に、一瞬、拍子抜けした雰囲気になった。だが、じきに女中たちは熱っぽい視線を次に降りてきた若者に向けた。
今度こそ、間違いない。呂家の花婿だ。
(あら……、やっぱり)
輪花の胸が少しはずんだ。
紫苑色の袍衣に身をつつんだ若者は、やはり緑鵬と似ているのだ。あまり外に出ることもないのだろう、男にしては白い肌に、細い顔、鼻筋は兄と似て整っているが、はるかに繊細そうだ。人によっては文弱だと貶すかもしれないが、輪花にとっては、墨や書物の匂いを感じさせる、懐かしい、好もしい雰囲気の異性だった。
(緑鵬が、数年たったらああいうふうになりそう)
そんなことを思って胸が騒いだ。
使用人の列の前にどっしりと立っていた火玉が、うやうやしく出迎えにすすみ、数歩置いて玉蓮がつづく。
距離があるので話の内容は解らないが、火玉、玉蓮親娘と向こうの夫婦が互いに挨拶を交わしている。皆にこやかに笑顔を浮かべているが、それはどちらかと言えば礼儀上の形通りのもののようだ。
兄の秀風の方は、一歩下がってぎこちない笑みを作っている。
その隣でやはりぎこちなげに英風も曖昧な微笑を浮かべている。
精一杯愛想良くしたいが、どう振舞っていいのかわからない。そういう感じだ。世間擦れしていないそんな朴訥な態度も、輪花には好もしく思えた。
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