双珠楼秘話

平坂 静音

文字の大きさ
24 / 140

余興 一

しおりを挟む

 宴はたけなわとなった。
 この日のために都から呼びよせた楽士たちが、銅鑼どらかね、琴、鈴を鳴り響かせ、さらに宴を盛りあげる。
 輪花はせわしく黒檀の卓をまわって、綺羅きらをまとった客たちに酒を注いでいった。
 広間の壁は華やかな紅地に、八宝はっぽうといわれる法輪ほうりん法螺貝ほらがい宝傘ほうさん白蓋はくがい蓮華れんげ宝瓶ほうびん、金魚、盤長ばんちょうの模様を青色で描いたにぎやかな柄の壁紙が張りめぐらされ、床は田舎ではめずらしい滑石なめいしが敷きつめられ光沢を放ち、まぶしいほどに贅沢だ。
 正面中央のひときわ高く作られた壇には、新郎新婦がお人形のように上品にならんでいる。
 輪花は、慣れない手つきで客人たちの月光杯げっこうはいに酒を満たしながら、それでも娘心にあおられて壇上の花嫁花婿に熱い視線をおくった。
(金媛お嬢様……お綺麗)
 真紅の花嫁衣裳をまとった彼女は、それこそ生きた花嫁人形のようだ。
 額には金でこしらえた蝶のかたちの額飾りをめ、両耳には水晶の耳飾りを垂らし、いつにもまして青いほどに白い肌をほんのり真昼の月のように輝かせ、花嫁の作法にのっとって目を伏せ、つつましやかな百合の花ように座っている。
 新郎新婦の卓には当然、牛、豚、川魚をふんだんに使った豪華な料理や、金波玉液きんぱぎょくえきの美酒がはいされているが、金媛は一口もつけていないはず。それも花嫁の作法である。冷めていく料理を、惜しんでしまうのは、輪花がまだ子ども時代を脱けきっていないせいかもしれない。
 花婿の方は、客からすすめられるままに杯をかさね、さも美味しそうに料理を口にしている。それでも時折、気遣わしげに隣の花嫁を見ては、何か囁いているようだ。花嫁は初々しく頷くばかりだが、その動作を、輪花はとても好もしく思った。
(お優しそうな方で良かったわ)
 そこでひときわ高く銅鑼が鳴り響くと、楽士たちと同じく都の妓楼から呼び寄せた、七色の衣をまとった妓女たちが広間の中央に進み出てきた。中でも一番美しく華やかに見える桃色の衣をまとった妓女が、凛とした声で祝いを述べた。
「花婿様、花嫁様、この度は、大変おめでとうございます。わたくしども《宝菊ほうぎく楼》からも、あらためてお祝いの言葉を述べさせていただきます。本日は、つたない芸でございますが、精一杯勤めさせていただきますので、ご来賓の皆様も、どうぞ心ゆくまでお楽しみくださいませ。では、まずわたくしから」
 そう言うと、彼女は高らかに祝いの歌をうたいはじめた。
「あれが、今都の花柳界かりゅうかいで一番の人気の妓女ぎじょ彩菊さいぎくだそうよ」
 桂葉の耳打ちに、輪花はぼうっとして頷いた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

君の左目

便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。 純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。 それもまた運命の悪戯… 二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。 私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…

処理中です...