双珠楼秘話

平坂 静音

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余興 二

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 桂葉の耳打ちに、輪花はぼうっとして頷いた。
 素晴らしい歌声だ。
 身にまとっている桃色の衣は絹だし、広くひらいた襟元では真珠色の肌が光っている。彼女があらわれた一瞬、広間が明るくなったようだった。
 髪は高々と結いあげられ、かすかにしなを作って歌に合わせて動く袖からは、桃色の霧がかもし出されてくるようで、客人、特に男たちは皆、食い入るように彼女を見ている。
「綺麗な人ね……」
 どこかで見たような気がするが、有名な妓女だというから顔が売れているのかもしれない。
「なんといっても都一番の売れっ妓だからね。ご覧なさいよ、お婿様まで、ぼんやりしているわ」
 桂葉のやや皮肉な言葉につられて壇上を見ると、たしかに新郎の英風まで、身を乗り出すようにして彩菊を見つめている。
「ねぇ、知ってる? 宴の後はね、男性客は気に入った妓女を連れて帰ることもあるんだって」
「え?」
 輪花は目を丸くした。
「一晩だけだけどね。まぁ、事情によっては数日とか、一ヶ月とか、話がまとまれば、そのまま自分の家に置いておくこともあるらしいけれど」
 一瞬、びっくりしたが、思えば、林家にいたときも、そういうことがあった。
 何かの集まりなどで養父の友人たちが林家に来ることもあり、夜遅くまで酒を飲み語り合うことがある。そんなときは、村の小さな妓楼から女たちが呼ばれ、客たちの酒の相手をする。そして宴が果てると、二人か三人の客が帰るとき妓女の手をひいて行くのを見た。それを見送る緑鵬の母の眉がひどくしかめられていたことを、輪花は思い出した。その理由が今になってようやく解った。
 結婚式のお祝いに来て、初々しい新郎新婦を寿ことほいだ後にそういう事をするとは。
(嫌だ。なんだか、下品……)
 若い輪花は少し不快になった。
 気になって壇上の新婦に目を送ったが、さすがに大家の令嬢としての躾けがゆきとどいているのだろう、金媛は眉ひとつ動かさず、しとやかに静かに座ったままだ。  
 華やいだ気持ちに一瞬泥をかけられたような気になったが、輪花もすぐ気を取り直して客たちに酒を注いでまわった。
 客のほとんどは男であるが、なかには酒癖の悪い者もいて、すでに悪酔いし始めている。
「今回は、前の旦那のようにならんといいがなぁ」
 下卑た笑い声がかすかに聞こえた方向に輪花が目をやると、声の主は村長だった。
 ひひひ……と皺の多くなった口元から品のない笑い声をだす村長に、となりの太った男性客が言葉を返す。
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