双珠楼秘話

平坂 静音

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余興 三

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「まぁ、今回は大丈夫でしょうよ。真面目まじめそうな若者ですし」
 野太い声が割りこんでくる。
「いいやぁ、わからんぞぉ。前の婿だとて見た目は真面目そうだったのに、あんなことになってしもうたし」
 いずれも上等そうな衣をまとった、村の名士である。
 前の婿とは玉蓮の夫、金媛の父のことだろう。つい輪花は好奇心から聞き耳をたててしまった。
「やっぱり大奥様にいじめられたんだろうな」
 村長の声にはどこか面白がっているふしがある。他人からみれば呂家の問題は笑い話なのだ。
「わしは、前の婿殿は都へ学問の勉強に出たと聞きましたがなぁ」
「それは表向きの話じゃろう。どうせ今頃、どこかの安遊郭やすゆうかくにでも転がり込んで酔いつぶれとるに決まっとる」
「今度の婿殿もそんなふうにならんといいが」
 聞いていて輪花はますます嫌な気持ちになってきた。
 ちょうどそのとき、酒の匂いでよどんだ空気を追い払うように、銅鑼が高々と打ち鳴らされた。
 中央に木の仮面をかぶった二人の役者が進み出る。
 木面は穴がふたつあいただけの簡素きわまりないものだが、それが奇妙に見る者の目を引きつける。
 一人は女でもう一人は男の装いをしているが、本当の性別は定かではない。
 笑劇しょうげきが始まるらしい。
「輪花ったら、ぼんやりしていないで、こっちの卓にもまわってよ」
「あ、はい」
 桂葉にせかされた、輪花は仕事をつづけたが、にぎやかな鳴り物に心ひかれて、ついつい目は役者たちに向かう。
 台詞はないが、手振り身振りでなんとなく話の流れが見えてくる。
 派手やかな衣装をまとった女が、質素な装いの男の袖をひく。最初は恋人同士かと思ったが、どうやら雰囲気で商売女と通りすがりの男という設定だと気づく。
 男は最初は気の無さそうな素振りだが、女の強引さについていってしまう。
 ここで待っていて、そんなふうに椅子に男を座らせて女は奥に消える。実際には少しはなれて観客に背を向けただけなのだが、そういう意味がちゃんと伝わってくるのがうまい。
(なんだか面白そう……)
 輪花はわくわくしてきた。
 昔からこういった芝居が好きで、村の祭りでは緑鵬といっしょによく旅の一座のお芝居を見に行ったりしたものだ。
 芝居を見ている数刻は、別の世界で別の人生を生きているような錯覚にひたれるから不思議だ。不思議で楽しく、そしてその夢から醒めるときは少しわびしかったが、それでもそのときはすぐ隣に緑鵬がいた。彼こそは輪花にとっての現世うつしよの夢だったのだ。
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