双珠楼秘話

平坂 静音

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余興 四

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 そんな哀愁を振りはらうように輪花は目の前で行われる芝居に見入った。客も他の使用人も、いつの間にか芝居にのめり込んでいて輪花を咎める人はいない。
 男はそわそわしながら女を待っている。
 やがて女は頭から薄布をかぶってあらわれる。とまどいながらも男は女を拒まない。
 二人は女のかぶっていた薄布のなかで大袈裟に手を振りまわし動く。
 ここで客たちは笑う。
 だが、薄布が振り落とされると、そこに現れたのは、先ほどとは違って恐ろしい鬼の面をかぶった女だった。男は仰天して、尻もちをつく。笑い声は大きくなる。
 さらに女は居丈高いたけだかにふるまい、客の男に金を要求するように右手を差し出す。
 美しい女の誘いにのったものの、実際に相手をするのは醜女しこめで、その後かなりふっかけられる、という話は遊里ゆうりではよくあるらしい。珍しい話でもないが、こうやって芝居仕立てで見るとなかなかに笑える。輪花もつい笑ってしまった。
 壇上の新郎も苦笑している。だが……。
 輪花は一瞬、背筋をかるく棒で打たれたような衝撃をうけた。
 新郎の隣につつましやかに座っている新婦、金媛は笑っていない。
 いや、笑っていないどころか……、
(お嬢様……、怒っていらっしゃる?)
 花嫁の美しい顔は青ざめ、眉は吊りあがっている。形の良い美しいあかい唇はひきしめられ、明らかに不愉快そうである。
 婚礼の日の出し物にしては不謹慎と取られたのだろうか? 
 あわてて目をそらした輪花の視界に、苦笑いする中年の女性客の姿が入る。眉をひそめながらも、女性客は笑っている。普通はそうだろう。
(金媛お嬢様、きっと神経質になっているのね)
 考えてみれば、今日は彼女にとっては人生の変わり目である。
 思えば……、今夜、彼女は新郎との初めての夜をむかえるのだ。
(いやだ、私ったら、変なこと考えている)
 我知らず、頬を熱くしながら輪花は仕事に専心することにした。

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