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夜香 二
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(こんなことなら、西破にでも訊いておけば良かった)
生真面目な彼は他の悪友たちとは違って、色里にも遊びに行ったことはなく、妓女とちょっとした冗談さえ言い合ったこともない。
勿論、行為そのものに関しては知識はあるつもりだが、こういったとき男はまずどういう態度を取るものなのだろう。
芝居や物語では恋文を送ったり、愛を伝える詩歌を送ったりするが、結婚の夜にそれをするのはやはりおかしいだろう。
好きだ、とか愛している、と言うのは、親や周囲のすすめでこの日を迎えた自分たちにはそぐわないし、第一嘘くさい。
(いや、好きではないというわけではないのだが……)
内心ひどく焦ってきた。
花嫁はかすかに震えているようだ。
羞恥のせいばかりではなく、初夏とはいえ湯上りの身体に薄衣一枚では冷えてきたのだろう。
早くなんとかしなければ。英風はますます焦った。自分の無骨さが呪わしい。
「あ、あの」
何か言わなければ、と口を開いたとき、震える白い手がおそるおそる伸びてきた。
その手の可憐さに、英風は自然と自分の手をさしだし、そのかぼそい手首を自分の右手で握ってしまった。折れてしまいそうに華奢な手だ。だが、かすかに温もりを感じる。
その小さな手は、一瞬おびえて固まったが、じきにもうひとつの手が英風の手に重なる。
英風はつられるようにして左手をその上にまた重ねた。
はたから見れば何をやっているのだ? と奇妙に思われたかもしれないが、英風はささやかな温もりに満たされた。
重なり合う手と手。二人の心を象徴しているようで、英風の胸は期待に満たされる。
(そうだ。言葉など、つたなくてもいいではないか)
想いがあればいい。
英風は度胸を決めて、思いきって相手の細い体を両腕で抱きしめた。
「あっ……」
腕のなかで相手の身体が、一瞬石のように固くなったかと思ったが、次の瞬間には蜜をこぼす花のようにくずれた。
「え、英風様」
英風はさらに度胸を決めて、相手を横抱きに抱えると、寝台に向かった。
腕のなかの若い佳人は、罠にかかった小兎のように震えているが、本音を言うと、それ以上に英風も震えているのだ。男の見栄と意地、命がけの勇気でそれを隠したが。
「英風様……」
薄紅の帳を片手で開いて、寝台にたどり着くと、英風はそっと白絹の褥に花嫁を横たえた。そうして内心の緊張をかくしながら、せいいっぱい気のきいた言葉をひねり出そうとした。
「……一目見て、好きになった」
生真面目な彼は他の悪友たちとは違って、色里にも遊びに行ったことはなく、妓女とちょっとした冗談さえ言い合ったこともない。
勿論、行為そのものに関しては知識はあるつもりだが、こういったとき男はまずどういう態度を取るものなのだろう。
芝居や物語では恋文を送ったり、愛を伝える詩歌を送ったりするが、結婚の夜にそれをするのはやはりおかしいだろう。
好きだ、とか愛している、と言うのは、親や周囲のすすめでこの日を迎えた自分たちにはそぐわないし、第一嘘くさい。
(いや、好きではないというわけではないのだが……)
内心ひどく焦ってきた。
花嫁はかすかに震えているようだ。
羞恥のせいばかりではなく、初夏とはいえ湯上りの身体に薄衣一枚では冷えてきたのだろう。
早くなんとかしなければ。英風はますます焦った。自分の無骨さが呪わしい。
「あ、あの」
何か言わなければ、と口を開いたとき、震える白い手がおそるおそる伸びてきた。
その手の可憐さに、英風は自然と自分の手をさしだし、そのかぼそい手首を自分の右手で握ってしまった。折れてしまいそうに華奢な手だ。だが、かすかに温もりを感じる。
その小さな手は、一瞬おびえて固まったが、じきにもうひとつの手が英風の手に重なる。
英風はつられるようにして左手をその上にまた重ねた。
はたから見れば何をやっているのだ? と奇妙に思われたかもしれないが、英風はささやかな温もりに満たされた。
重なり合う手と手。二人の心を象徴しているようで、英風の胸は期待に満たされる。
(そうだ。言葉など、つたなくてもいいではないか)
想いがあればいい。
英風は度胸を決めて、思いきって相手の細い体を両腕で抱きしめた。
「あっ……」
腕のなかで相手の身体が、一瞬石のように固くなったかと思ったが、次の瞬間には蜜をこぼす花のようにくずれた。
「え、英風様」
英風はさらに度胸を決めて、相手を横抱きに抱えると、寝台に向かった。
腕のなかの若い佳人は、罠にかかった小兎のように震えているが、本音を言うと、それ以上に英風も震えているのだ。男の見栄と意地、命がけの勇気でそれを隠したが。
「英風様……」
薄紅の帳を片手で開いて、寝台にたどり着くと、英風はそっと白絹の褥に花嫁を横たえた。そうして内心の緊張をかくしながら、せいいっぱい気のきいた言葉をひねり出そうとした。
「……一目見て、好きになった」
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