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憂い顔の新妻 三
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「逆だよ。……正直、まだ良く解らないけれど、君のその不思議なところが魅力的なんだ」
「……私を、……お好き?」
「好きだよ」
嘘ではない。今までに読んだどんな詩句よりも蠱惑的で美しく、どんな学問よりも興味深く、はかり知れず、英風の好奇心や探究心をくすぐるが、それを口に出すのは野暮だと気づいて止めた。
自分とは違っていて、不思議で良く解らないからこそ魅かれ、知り尽くしたいと望むものかもしれない。
(女人とは、何て不思議なのだろう? 皆が皆そうなのかな。いや、やはり金媛は特別そうなのかもしれない)
英風は、今までは軽蔑していた、妓楼に通いつめて散財したり、人妻に夢中になって痩せ細ってしまったり、美姫に溺れて国を傾け地位を失くした君主たちに、ほんの少し共感しそうになった。
決して誉められた行為ではなく、むしろ世間からは愚かだとなじられるような行いだが、そうせずにはいられなかった哀れな男たちの心情がすこし解りかけてきたのだ。
(恋とは、本当に不思議なものだなぁ)
あらためて感嘆した。
つい数日前までは顔を見たこともなく、数ヶ月前まではその存在も互いに知らなかったはずなのに、出会ったその日に床を共にしただけで、これほどに魅かれあっている。
金媛以外の女性でもこれほど愛しくいじらしく感じたろうか。
英風は内心で自問してみて一瞬迷ったが、心のなかで否、と答えた。やはり金媛であるからこそ、こんなふうに想うのだ。
芝居や物語では偶然出会った男女が激しい恋に落ちるという筋が多く、それを運命の出会いだと信じて登場人物たちはいっそう情熱的になるが、自分たちの場合はすべてまわりにお膳立てされて取り決められたもので、果たしてこういう関係に本当の愛情など生まれるものなのだろうか、と英風は結婚前にひそかに迷ったり悩んだりしたことがある。
英風の両親もまた親同士がきめた縁組だったそうだが、それでも家が近かったせいで、たがいに顔は知っており、話を聞く分では二人とも相手を憎からず想っていたようだ。そこへ、結婚して子どもを生み育て長い歳月を過ごしていくうちに増した情愛も加わって、今の二人は、静かにともに過ごす時間をいつくしんでいる似合いの夫婦だ。両親はまずまず幸せな夫婦といえるだろう。
だが、英風自身は、そんな幸運な関係をはたして相手と築けるだろうかと疑問に思っていた。
しかし、今は断言できる。知人がもたらした縁談であって、実際に決断したのは親だが、それでも、これもひとつの運命の出会いなのだと。周囲に仕切られて、あてがわれた相手であっても、目の前の妻は、天がもたらした唯一絶対の人に思える。
(人の心とは……なんと奇妙なのだろう)
間違いなく、今の彼女は英風にとって母親に次ぐ、いや、母と同じくらい大切な女性となってしまっている。やがては母以上に大事な存在になってしまうかもしれない。
英風はそう思っている自分に気づいて、自分自身が少し怖くなった。
(私は恋愛に慣れていないから……深く考え過ぎているのかもしれないが)
もう余計なことを考えるのは止めよう。目の前の可愛い人をただひたすら愛そう。
(夫婦であってもうまくいかない組み合わせは山のように世間にはあるのに、これほどに相手を真実いとしく想えるのだから、私は恵まれているのだ)
英風は妻を抱く両手に力をこめた。いっそう鼻に甘い香がしのびこんでくる。
「……私を、……お好き?」
「好きだよ」
嘘ではない。今までに読んだどんな詩句よりも蠱惑的で美しく、どんな学問よりも興味深く、はかり知れず、英風の好奇心や探究心をくすぐるが、それを口に出すのは野暮だと気づいて止めた。
自分とは違っていて、不思議で良く解らないからこそ魅かれ、知り尽くしたいと望むものかもしれない。
(女人とは、何て不思議なのだろう? 皆が皆そうなのかな。いや、やはり金媛は特別そうなのかもしれない)
英風は、今までは軽蔑していた、妓楼に通いつめて散財したり、人妻に夢中になって痩せ細ってしまったり、美姫に溺れて国を傾け地位を失くした君主たちに、ほんの少し共感しそうになった。
決して誉められた行為ではなく、むしろ世間からは愚かだとなじられるような行いだが、そうせずにはいられなかった哀れな男たちの心情がすこし解りかけてきたのだ。
(恋とは、本当に不思議なものだなぁ)
あらためて感嘆した。
つい数日前までは顔を見たこともなく、数ヶ月前まではその存在も互いに知らなかったはずなのに、出会ったその日に床を共にしただけで、これほどに魅かれあっている。
金媛以外の女性でもこれほど愛しくいじらしく感じたろうか。
英風は内心で自問してみて一瞬迷ったが、心のなかで否、と答えた。やはり金媛であるからこそ、こんなふうに想うのだ。
芝居や物語では偶然出会った男女が激しい恋に落ちるという筋が多く、それを運命の出会いだと信じて登場人物たちはいっそう情熱的になるが、自分たちの場合はすべてまわりにお膳立てされて取り決められたもので、果たしてこういう関係に本当の愛情など生まれるものなのだろうか、と英風は結婚前にひそかに迷ったり悩んだりしたことがある。
英風の両親もまた親同士がきめた縁組だったそうだが、それでも家が近かったせいで、たがいに顔は知っており、話を聞く分では二人とも相手を憎からず想っていたようだ。そこへ、結婚して子どもを生み育て長い歳月を過ごしていくうちに増した情愛も加わって、今の二人は、静かにともに過ごす時間をいつくしんでいる似合いの夫婦だ。両親はまずまず幸せな夫婦といえるだろう。
だが、英風自身は、そんな幸運な関係をはたして相手と築けるだろうかと疑問に思っていた。
しかし、今は断言できる。知人がもたらした縁談であって、実際に決断したのは親だが、それでも、これもひとつの運命の出会いなのだと。周囲に仕切られて、あてがわれた相手であっても、目の前の妻は、天がもたらした唯一絶対の人に思える。
(人の心とは……なんと奇妙なのだろう)
間違いなく、今の彼女は英風にとって母親に次ぐ、いや、母と同じくらい大切な女性となってしまっている。やがては母以上に大事な存在になってしまうかもしれない。
英風はそう思っている自分に気づいて、自分自身が少し怖くなった。
(私は恋愛に慣れていないから……深く考え過ぎているのかもしれないが)
もう余計なことを考えるのは止めよう。目の前の可愛い人をただひたすら愛そう。
(夫婦であってもうまくいかない組み合わせは山のように世間にはあるのに、これほどに相手を真実いとしく想えるのだから、私は恵まれているのだ)
英風は妻を抱く両手に力をこめた。いっそう鼻に甘い香がしのびこんでくる。
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