双珠楼秘話

平坂 静音

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月の呪い 二

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(私だって……両親さえ生きていてくれたら。あのまま、お父様の商売がうまくいってさえいたら)  
 もっと綺麗な衣をまとい、宝玉で身を飾り、舞や歌だとて充分にこなす自信もある。
(あんな、香菊こうぎくなんて相手じゃないわ。愛景あいけいさんにだってひけはとらないだろうし、……金媛様にだって、負けてないかも)
 両親さえ生きていてくれたら、父の商売がうまくいってくれていたら……。そんな思ったところでどうしょうもない想いが込み上げてきて輪花の胸をさいなむ。 
 気づくと輪花の頬は涙で濡れていた。
 雲が空をおおい、月を隠してくれる。涙をこらえなくてすむ。光の消えた世界で輪花は思う存分、自分の不幸に酔うことができた。
 ほんの少し運命の神が、天が自分に優しくしてくれていたらつかむことができた幸福、ささやかな栄光、娘らしい他愛たあいもない矜持きょうじ、悩むことの少ないおだやかな日々。そして、何よりも出会えたはずの愛する人とともに築きあげていく新しい人生。そんな、得ることのかなわなかったさちを思って、輪花は月星つきぼしも遠い墨色すみいろの世界の底ですすり泣いた。

 どれぐらいそうしていたろう。長い時間のようにも思えれば、ほんのわずかな間だったようにも感じられる。輪花はあわてて頬をぬぐった。
(いけない。こんなことしている場合じゃないわ。ああ、もう!)
 頼りない自分を叱咤するように内心で舌打ちし、主殿に入ろうとした。
 そのとき、雲が、まるで役者の登場に合わせて引かれる幕のように引きちぎれ、空にふたたび月の女神があらわれた。
 そして、月光のもと、輪花は息を飲んだ。
「嘘……!」
 目に映ったものが信じられず、驚愕のあまり盆を落としていた。幸いなことに地面の土がやわらかだったおかげで、水瓶すいびょうわんも割れずにすんだが。
 少し目先のところに小さな池がある。
 池の水面は月光を吸いこんで輝いて見える。だが、輪花の目を奪ったのは、にぶく光る水の銀盤ぎんばんではなく……。
 輪花は、悲鳴をあげていた。

「人が死んでいるだと?」
「自害とか……?」
「まさか、あんな浅い池でどうやって」
 中年の下男と下女がひそひそと話す声が輪花の耳にも入ってきた。ちなみにこの二人は夫婦だと聞いた。
「いったいどうしたのだ?」
 輪花の悲鳴を聞きつけた下男が走ってきて、彼もまた池に浮かぶ死体――それは、ぬめぬめと藻のように黒く光る長髪から女だと知れたが、それを見て仰天し、すぐさま人を呼びあつめた。その間、輪花は恐怖と驚愕のあまり池のまえに立ちつくしていた。
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