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絵師 五
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「え……いえ……村の人がどう噂しているか気になって。私、親はもう亡いのですが、養家の人がどう思っているかと思うと、気になるんです」
「養家の人から連絡は?」
輪花はこんなことを言ってしまったことを深く後悔した。
林家からはなんの連絡も伝言もない。
緑鵬はもう都へ出てしまっているはずだ。とはいえ、育ててくれた緑鵬の両親もなにも言ってこないことを考えると、輪花はつくづく自分が天涯孤独の身の上だと思い知らされた。
(ああ……そうだわ。私にはもう誰もいないんだわ)
清鳳があわてた顔になった。
「どうしたんですか? 泣かないでください」
「す、すいません。つい……」
清鳳があわてて肩を撫でてくれた。
「私がよけいなことを訊いてしまったから。……ゆるしてください」
「いえ……、私、なんだか寂しくなって。自分が一人ぼっちだと思うと」
「私もそうですよ」
「え?」
涙がからんだ瞳を見開いて、輪花は自分より頭ひとつ分背が高い清鳳を見上げた。
「私も孤児でした。六歳のときに亡き師匠にひきとられて、育ててもらったんです」
「そ、そうだったんですか」
「師匠は最初は私にただ仕事の手伝いをさせるだけだったんですが、私は幸か不幸か、絵に興味がありまして、いつしか兄弟子たちに混じって絵筆を取るようになったんです」
「それで、立派な絵描きさんになられたんですね。すごいわ」
世辞で言っているのではない。どんな道であれ、女がひとつの道をまっとうして食べていけるようになるのは大変だ。歌舞音曲の道ならともかく、書画の道はほとんど男で占められている世界だ。輪花は崇拝の目で相手を見ていた。
清鳳は苦笑した。
「立派かどうか。それでも女の絵師というのが珍しいのでしょうね。そこそこ仕事もくるようになって、どうにか一本立ちできました」
(羨ましい)
輪花は切ないほどにそう思った。自分と同じように二親に先立たれた身の上だとしても、清鳳には絵という特別な仕事がある。だが、今の輪花にはなにもない。家や財産は勿論、才能もこれといった技術も。少しでも優れたところといえば、せいぜい使用人の身にしては珍しく書が堪能なぐらいだが、それで身を立てられるほどのものでもない。
「いいですね。私もなにか出来たら良かったんですけれど」
清鳳は声をあげて笑った。
「養家の人から連絡は?」
輪花はこんなことを言ってしまったことを深く後悔した。
林家からはなんの連絡も伝言もない。
緑鵬はもう都へ出てしまっているはずだ。とはいえ、育ててくれた緑鵬の両親もなにも言ってこないことを考えると、輪花はつくづく自分が天涯孤独の身の上だと思い知らされた。
(ああ……そうだわ。私にはもう誰もいないんだわ)
清鳳があわてた顔になった。
「どうしたんですか? 泣かないでください」
「す、すいません。つい……」
清鳳があわてて肩を撫でてくれた。
「私がよけいなことを訊いてしまったから。……ゆるしてください」
「いえ……、私、なんだか寂しくなって。自分が一人ぼっちだと思うと」
「私もそうですよ」
「え?」
涙がからんだ瞳を見開いて、輪花は自分より頭ひとつ分背が高い清鳳を見上げた。
「私も孤児でした。六歳のときに亡き師匠にひきとられて、育ててもらったんです」
「そ、そうだったんですか」
「師匠は最初は私にただ仕事の手伝いをさせるだけだったんですが、私は幸か不幸か、絵に興味がありまして、いつしか兄弟子たちに混じって絵筆を取るようになったんです」
「それで、立派な絵描きさんになられたんですね。すごいわ」
世辞で言っているのではない。どんな道であれ、女がひとつの道をまっとうして食べていけるようになるのは大変だ。歌舞音曲の道ならともかく、書画の道はほとんど男で占められている世界だ。輪花は崇拝の目で相手を見ていた。
清鳳は苦笑した。
「立派かどうか。それでも女の絵師というのが珍しいのでしょうね。そこそこ仕事もくるようになって、どうにか一本立ちできました」
(羨ましい)
輪花は切ないほどにそう思った。自分と同じように二親に先立たれた身の上だとしても、清鳳には絵という特別な仕事がある。だが、今の輪花にはなにもない。家や財産は勿論、才能もこれといった技術も。少しでも優れたところといえば、せいぜい使用人の身にしては珍しく書が堪能なぐらいだが、それで身を立てられるほどのものでもない。
「いいですね。私もなにか出来たら良かったんですけれど」
清鳳は声をあげて笑った。
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