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見えてきた敵 一
しおりを挟む廊下を歩いていても輪花の足の震えは止まらない。
「大丈夫ですか?」
大丈夫よ、という言葉が出ない。足元がくずれそうになり、清鳳にささえられた。
「た、助けてくれて、ありがとう」
清鳳は微笑んだ。
「助けてくれたのは私ではなく大奥様ですよ。大奥様が、もしかしたら輪花が危ないことになっているかもしれないから、行って見てきて欲しいと私をよこしたのですから」
火玉のことは今ひとつ理解できないが、輪花にとっては少なくとも今のところは敵ではないようだ。
(でも……この屋敷の人は私にとって敵ばかりだわ)
輪花は、つい先ほどの桂葉の仕打ちを思い出すと頬にまた涙を感じる。
(どうして桂葉はあんなことをしたの? 私たち……友達じゃなかったの?)
「どうしました?」
「ひっく……な、なんで桂葉があんな嘘言ったのか、わ、わからなくて」
清鳳がそっと手を輪花の肩に添えてくれた。
触れた彼女の手の熱を感じる。まるで彼女の生気が入ってくるようだ。同時に、かすかに清々しい香も感じる。薄荷の匂いにも似たその香は、輪花のくずれそうになっている心に活を入れてくるようだ。
「どうやら、このお屋敷にはいろいろあるようですね」
清鳳がそう囁いたのは、もう少しで主殿を出る所まで来たときだった。そのとき背後から声がかかってきて、二人の足は止まった。
「お待ちを」
あまり見かけない下働きの女が息せききって追いかけてきたようだ。
「あの、お待ちを。奥様が、清鳳様をお呼びです」
「私を?」
清鳳がいぶかし気に切れ長の目を見開く。
「はい。なんでも、都から珍しい絵を取り寄せたので、大奥様の所へ持って行って欲しいと。あの、輪花さんはそのまま先に奥殿へ行っておくようにとのご命令です」
輪花は少し安堵したが、清鳳とはなれることに不安を感じた。
清鳳もとまどった顔をしたが、今はやはり彼女の立場では、玉蓮の指示に従わないわけにはいかないだろう。それに輪花は先に奥殿へ行っていいということになっているので、害はないと踏んだようだ。
「では、私はもう一度玉蓮様の室へ行ってきます。輪花さん、あなたは先に大奥様の元へ急いでください」
奥殿は火玉の支配が徹底している。そこでは輪花に危険はないはずだ。二人ともそう感じて、互いにはなれた。
輪花はおぼつかない足取りで一人廊下を進み、やがて主殿と奥殿の間にたどり着いた。
階を下り、奥殿への渡り廊下へと足を伸ばした、まさにそのとき、輪花の身体は宙に浮いた。
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