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因習 二
しおりを挟む「大丈夫か、英風?」
ああ……と、呟いてはみたものの、英風は眩暈を感じそうになって必死に馬の手綱をにぎった。陳円の話の内容はそれほどに衝撃的だったのだ。
酒と魔香のせいでかなり呂律が妖しかったが、それでもさすがに陳円はもとは頭脳を見こまれて呂家に婿入りしただけあって、話は充分解りやすかった。
「すべての元凶は、呂家に伝わる双胎を忌みきらう習慣のせいよ」
たしかに地域によっては双子を忌みきらう所もある。歴ある家では、双子が男子であった場合はお家騒動になることを案じて一人は養子に出したり、悲惨な例では生まれてすぐ間引くこともあるという。
また地域によっては双子を特別視し、寺院や神殿にあずけて聖職や神職に就かせたり、女子の場合は尼や巫女にしたり、呪術師の家に里子に出したりする所もあれば、ごく普通の存在とみなす場合もある。逆に、多産の象徴として祝福したりする所もあると英風は聞いた。
「お、俺は、そんなことは迷信だと何度も言ったが、婆ぁは聞かなかった。世間には生まれた赤子は一人だということで通したのだ。つまり他の子の存在を抹殺したのだ、あの妖怪婆ぁ!」
金媛には銀媛という名の妹がいるのだという。だが、その名と存在は両親である陳円と玉蓮、祖母の火玉、そして古参のごく限られた召使以外は誰にも知られることはなかった。
「し、しかも不憫なことに、生まれたときから金媛は口が聞けなかったのだ」
陳円のその言葉を聞いたとき、英風は眉をしかめて訂正したのだ。今はちゃんと喋れますよ、口数は少ないですが、と。その言葉に陳円は笑い泣きした。
「ひ、ひひひひ。だから、それは銀媛よ」
英風と西破は言葉をうしなった。
「す、すべては火玉の婆ぁが考え出したことよ。あの子たちが二つになったとき、姉は口が聞けず、妹は目が見えないということがはっきりわかったのさ。因習に縛られたうえに、田舎の旧家はそれでなくとも世間体を気にするものだ。か、火玉の婆ぁは、孫娘の欠陥を人に知られたくなかったのさ。家名に傷がつくと思ったんだろうな」
〝欠陥〟という言葉が英風の胸を突く。
そんなことは、たいした問題じゃない……。そう言いたくなったが、陳円の言うとおり田舎の人間は人目を気にするうえに、夫に先立たれてから女主としてずっと気を張って家を守ってきた火玉は、どんなことであれ自分たちが村人から軽く見られるのに絶えられなかったのだろう。
金媛たちは深窓の令嬢として屋敷の奥深くで過ごし、稀に来客がある場合は、銀媛を出して、二言、三言喋らせる。
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