双珠楼秘話

平坂 静音

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隠し部屋 二

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 清鳳は長い廊下を走った。主殿まで来たが、誰も見えない。とにかく玉蓮か枇嬋をさがして問いただそうと思ったそのとき、庭から大声が聞こえてきた。
「うるさい! はなせ!」
 大声の主は、いかつい顔だちの大男だった。すぐそばには、彼とは対照的にほっそりとした同じ年頃の青年が見える。二人は下男と揉めている。
「どういうことだ? 何故婿の私が入ってはいけないのだ?」
「お、お待ち下さい、今、玉蓮奥様に許可をいただいてきますから」
 あせって言いつのる門番らしき下男に清鳳は声をかけた。
「玉蓮奥様はいないわよ。さっきからお姿が見えないの」
「あなたは?」
 涼やかな目元の青年が訊ねた。彼が婿の英風だろう。
「わたくしは絵師の清鳳と申します。あの、今輪花さんをさがしているんですが、姿が見えないので」
「輪花の身に何かあったのか?」
 英風の顔色が変わった。清鳳はここは言葉を言いつくろっている場合ではないと判断した。
「輪花さんは危険な状態です。理由わけはあとで説明します。とにかく彼女をさがしてください。命にかかわるのです。あの……、あの、大奥様が言うには、蓮華れんげをさがせと」
「蓮華?」
 訊いたのは側にいた英風の友人らしき大男だ。 
「蓮華とはどういうことだ? 蓮華の花をさがせという意味か?」
 太い濃い眉を丸めて真剣に訊くが、そう言われて清鳳もとまどった。
「大奥様がそうおっしゃったのです。正直言うと、私もわからなくて」
「とにかく庭の花壇や池をさがしてみるか?」
「待て、西破。……蓮華だな」
 英風の理知的な瞳がきらめいた。
「そうか……なんとなくわかったぞ。蓮華だ」
「さっぱりわからんが」
 きょとんとしている清鳳と、西破と呼ばれた男に、英風が口早に説明した。
「蓮華だ。つまり、暗八仙あんはっせんだ」
 英風はもどかしそうに口早に説明した。
 道教の八人の仙人のことを八仙と呼ぶ。
 呂洞賓りょどうひん李鉄拐りてつかい張果老ちょうかろう藍采和らんさいか漢鍾離かんしょうり韓湘子かんしょうし曹国舅そうこっきゅう、そして、何仙姑かせんこ。何仙姑はゆいいつの女性である。
 縁起ものとしてこの八人の仙人はよく絵に描かれたりするが、その仙人たちの絵を「明八仙めいはっせん」と呼び、それぞれの持ち物である宝物の絵を、八仙を象徴するものとし「暗八仙あんはっせん」と呼ぶ。
 暗八仙は、呂洞賓の宝剣、李鉄拐の瓢箪ひょうたん、張果老の魚鼓ぎょく、藍采和の横笛、漢鍾離の団扇、韓湘子の花籠、曹国舅の陰陽板おんみょうばん、そして何仙姑の蓮華である。
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