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お坊ちゃん
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「おまえ、名はなんというのだ?」
「あの、花鈴です」
少年は無遠慮に花鈴を見る。
この地味な装いからは、まず妓女とは思われないだろう。庶民の娘が祝賀の風に浮かれて迷い歩いていると見なされるように花鈴は願っていた。そして、相手はその願いどおりに花鈴を見てくれたようだ。
「近所の……小間使いの娘か?」
このあたりには庶民の家はあまりなく、近辺を歩く貧相ななりの娘なら、どこかのお屋敷の下女でしかない。そう相手は思ってくれたようだ。西にある遊里は、まだ若輩の彼には、自分の足で歩いていける場所であっても、雲のかなたの異郷のようなものなのだろう。
そして花鈴は強く、相手が自分を普通の娘だと思ってくれることを望んでいる。会ったばかりの相手だというのに。
「はい」
かすかに胸の痛みを感じながら、花鈴はいつわりの言葉を吐いた。
(ほんのひと時、今だけよ)
今だけの嘘なのだから、いいだろう。
「ふうん……、あ、わたしは秋封だ」
人に名を訊いておいて自分が名乗らぬのは失礼だと思ったようだ。偉そうにふるまってはいても、家庭の躾がうかがいしれる。
「お屋敷のお坊ちゃんですか?」
口が重いくせに考えなしなところのある花鈴は、あっさりと思ったことを口にした。〝お坊ちゃん〟という言葉が気にさわったのか、相手は形よく長い黒眉をよせた。
「なぜ〝お坊ちゃん〟だと思うのだ?」
「えー、あの、お召しものがきちんとしていらっしゃるから、良家のご子息様かと」
「世間知らずに見えるか? わたしは働いているようには見えないのか?」
「え……、あのぉ」
意外な返答にとまどいつつも、花鈴は自分の思ったことを舌にのせた。
「まだ前髪を垂らしていらっしゃるので出仕勤めされているようには見えないし……」
相手が鼻白んだ。
「貴族には見えないか?」
身分は高そうだが、貴族というには身なりに品はあっても華がない、という思いはさすがに口にせず、花鈴はべつの理由を述べた。
「お貴族様でも宮廷に殿上されていらっしゃれば、御髪はまとめていらっしゃるはずです」
「武人には見えないのか?」
秋封と名乗った相手は、不満そうに口をとがらせて胸をそらした。
「佩刀していらっしゃらないし」
「おまえ……、するどいな」
そうだろうか。これぐらいの推量なら誰でもできると思いつつ、花鈴は黙って頭を下げた。
「あの、花鈴です」
少年は無遠慮に花鈴を見る。
この地味な装いからは、まず妓女とは思われないだろう。庶民の娘が祝賀の風に浮かれて迷い歩いていると見なされるように花鈴は願っていた。そして、相手はその願いどおりに花鈴を見てくれたようだ。
「近所の……小間使いの娘か?」
このあたりには庶民の家はあまりなく、近辺を歩く貧相ななりの娘なら、どこかのお屋敷の下女でしかない。そう相手は思ってくれたようだ。西にある遊里は、まだ若輩の彼には、自分の足で歩いていける場所であっても、雲のかなたの異郷のようなものなのだろう。
そして花鈴は強く、相手が自分を普通の娘だと思ってくれることを望んでいる。会ったばかりの相手だというのに。
「はい」
かすかに胸の痛みを感じながら、花鈴はいつわりの言葉を吐いた。
(ほんのひと時、今だけよ)
今だけの嘘なのだから、いいだろう。
「ふうん……、あ、わたしは秋封だ」
人に名を訊いておいて自分が名乗らぬのは失礼だと思ったようだ。偉そうにふるまってはいても、家庭の躾がうかがいしれる。
「お屋敷のお坊ちゃんですか?」
口が重いくせに考えなしなところのある花鈴は、あっさりと思ったことを口にした。〝お坊ちゃん〟という言葉が気にさわったのか、相手は形よく長い黒眉をよせた。
「なぜ〝お坊ちゃん〟だと思うのだ?」
「えー、あの、お召しものがきちんとしていらっしゃるから、良家のご子息様かと」
「世間知らずに見えるか? わたしは働いているようには見えないのか?」
「え……、あのぉ」
意外な返答にとまどいつつも、花鈴は自分の思ったことを舌にのせた。
「まだ前髪を垂らしていらっしゃるので出仕勤めされているようには見えないし……」
相手が鼻白んだ。
「貴族には見えないか?」
身分は高そうだが、貴族というには身なりに品はあっても華がない、という思いはさすがに口にせず、花鈴はべつの理由を述べた。
「お貴族様でも宮廷に殿上されていらっしゃれば、御髪はまとめていらっしゃるはずです」
「武人には見えないのか?」
秋封と名乗った相手は、不満そうに口をとがらせて胸をそらした。
「佩刀していらっしゃらないし」
「おまえ……、するどいな」
そうだろうか。これぐらいの推量なら誰でもできると思いつつ、花鈴は黙って頭を下げた。
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