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神かけて
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「桜玉様は、誤解してらっしゃいます。誓っていいますが、わたしと秋封様とのあいだには、何もございません」
花鈴はあえて秋封のことを様づけで呼んだ。
「もちろん、そうでしょうとも」
桜玉は、花鈴のまえで感情を爆発させて涙ぐんでしまった自分を恥じているのだろう、拗ねたように頬をふくらませた。あどけない幼女のようで、花鈴は微笑ましいとすら思う。
「お話をうかがって良くわかりました。きっと秋封様はそんなことがあって気落ちなさっていのですね。そういうときに偶然、わたしと出会って、きっとほんの憂さ晴らしに、気まぐれなお約束をなさったのですわ」
そう。あれは気まぐれな約束なのだ。現に、この時刻になっても秋封は顔を出さないではないか。花鈴はかすかな胸の痛みをかくして、言葉をつづけた。
「あれは、たわむれのお約束。もし、万が一来られても、お帰りいただきます」
言いながら、花鈴は自分自身に問いかけていた。
(ちゃんと笑顔を向けてるわよね……?)
桜玉はしばらく疑わしげな目をしていたが、やがてその名のとおり桜色の魅力的な唇をふるわせた。
いつか、この唇が秋封の唇と……という下卑た妄想をはねのけ、花鈴はせいいっぱい友好的な微笑を作ってみせる。事実、一方的に非難されたとはいえ、桜玉には悪感情はもてない。この一途さは、愛しいとすら思える。
「本当ですね? お約束していただけますね。もし彼が若気のいたりでこの《遊月楼》に来たとしても、あなたの方からお断りしてくださいますね」
遣り手婆に知られたら、客を断る権利はこちらには無いはずだと、きっと憤慨されるだろうが、花鈴は内心で歯を食いしばって返事をした。
「天地にかけて……、天帝、およびこの空を支配される十二の神将様のお名前にかけて、誓います」
花鈴は胸のまえで誓いの印をむすんだ。
龍蘭には国家的な宗教はなく、むしろ先祖伝来の習慣化した土俗的な信仰が主であり、それも個人の感情の問題なのだが、それでもこういった場合、神名にかけて交わした誓いは重きをもつ。たがえれば、人として道を踏みはずしたと言われてもしかたない。
「……あなたを信じます」
「ありがとうございます。……でも……」
「なんですか?」
「あの、僭越ですが、できましたら、わたしよりも秋封様を信じてあげてください」
ほんの一瞬、桜玉の白い上品な頬が、恥の色に朱に染まった。
「そんなこと……あなたに言われる筋合いではありません……」
言葉は横柄だが、桜玉の怒りの目線は花鈴ではなく、卓上の皿に向けられていた。
花鈴はあえて秋封のことを様づけで呼んだ。
「もちろん、そうでしょうとも」
桜玉は、花鈴のまえで感情を爆発させて涙ぐんでしまった自分を恥じているのだろう、拗ねたように頬をふくらませた。あどけない幼女のようで、花鈴は微笑ましいとすら思う。
「お話をうかがって良くわかりました。きっと秋封様はそんなことがあって気落ちなさっていのですね。そういうときに偶然、わたしと出会って、きっとほんの憂さ晴らしに、気まぐれなお約束をなさったのですわ」
そう。あれは気まぐれな約束なのだ。現に、この時刻になっても秋封は顔を出さないではないか。花鈴はかすかな胸の痛みをかくして、言葉をつづけた。
「あれは、たわむれのお約束。もし、万が一来られても、お帰りいただきます」
言いながら、花鈴は自分自身に問いかけていた。
(ちゃんと笑顔を向けてるわよね……?)
桜玉はしばらく疑わしげな目をしていたが、やがてその名のとおり桜色の魅力的な唇をふるわせた。
いつか、この唇が秋封の唇と……という下卑た妄想をはねのけ、花鈴はせいいっぱい友好的な微笑を作ってみせる。事実、一方的に非難されたとはいえ、桜玉には悪感情はもてない。この一途さは、愛しいとすら思える。
「本当ですね? お約束していただけますね。もし彼が若気のいたりでこの《遊月楼》に来たとしても、あなたの方からお断りしてくださいますね」
遣り手婆に知られたら、客を断る権利はこちらには無いはずだと、きっと憤慨されるだろうが、花鈴は内心で歯を食いしばって返事をした。
「天地にかけて……、天帝、およびこの空を支配される十二の神将様のお名前にかけて、誓います」
花鈴は胸のまえで誓いの印をむすんだ。
龍蘭には国家的な宗教はなく、むしろ先祖伝来の習慣化した土俗的な信仰が主であり、それも個人の感情の問題なのだが、それでもこういった場合、神名にかけて交わした誓いは重きをもつ。たがえれば、人として道を踏みはずしたと言われてもしかたない。
「……あなたを信じます」
「ありがとうございます。……でも……」
「なんですか?」
「あの、僭越ですが、できましたら、わたしよりも秋封様を信じてあげてください」
ほんの一瞬、桜玉の白い上品な頬が、恥の色に朱に染まった。
「そんなこと……あなたに言われる筋合いではありません……」
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