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破談
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いくら鈍感で晩生な花鈴でも、これだけ胸がうずき痛む想いをしたら、もう認めないわけにはいかない。まぎれもなく、自分は秋封に恋をしてしまっている。
自分には一生縁がない感情だとあきらめていたのが、こうも簡単に経験してしまうとは。会ったその日に人を恋い慕うという、ありきたりの物語のようなことが、まさか自分の身の上に起こるとは。花鈴は、自分で自分にあきれた。
(花鈴、花鈴、おまえ馬鹿じゃないの? 想ったところでどうなる相手でもないのよ)
「どうしたのだ? 花鈴、そんな顔でわたしを見て? わたしの顔に何かついているのか?」
もしかしたら花鈴以上に晩生なのかもしれない秋封は、きょとんとした顔で花鈴の憂鬱そうな顔を見下ろしてくる。
「あの……、若様、こんなところに来てはいけません。誤解されます」
「べつに悪いことをしているわけではないだろう?」
「それでも……若い身空で楼通いなんて世間に思われたら、ますます若様のご出世にさしつかえますし……。それに……若様の良い人だって気になさるかもしれませんよ」
秋封は怪訝そうな顔になった。
「良い人? わたしに良い人などいないぞ」
意味がわかっていないのかもしれない。花鈴はもどかしげに言葉をたした。
「たとえば、若様の恋人とか、婚約者とか……。若様のような名門の御子息なら、そういう方もいらっしゃるでしょう?」
とたん秋封は憮然とした表情になった。
「ああ……、いたことはいたが……、断られた」
「え?」
これには花鈴の方が目を丸くした。
「花鈴、もうわたしの家の事情は誰かから聞いているのだろう? それなら、わたしが許嫁にふられたことだって聞いているはずだ」
笑いながらも秋封の目に、一抹の哀切感がこもっていることを、花鈴は見抜いた。
「父の急逝で、わたしが継ぐと思われていた都督の地位を政敵にうばわれ、数少ない一族とも没交渉になってしまった我が家に、あえて大事な娘を嫁がせようとする親はいないさ。先方から、婚約の話は白紙にして戻してほしいと言われたのだ」
「まあ……」
では、桜玉の言っていたことはどうなるのだろう。
そう思ってからすぐに、花鈴は自分で答えを出した。
親が婚約を解消しても、娘の桜玉は納得できなかったのだ。彼女にとって秋封は許婚のままなのだ。だから案じ、嫉妬し、楼まで来たのだ。親に反対し、その目を盗んでまでも。
「もともと親同士が決めた婚約だったから、べつに未練はないのだが」
言葉とは裏腹に、彼からただよってくる寂寞感に、花鈴はやや意地の悪い心境になった。
「あら、でも残念そうなお顔ですわ。きっと、さぞかしお美しいお嬢様だったのでしょう」
自分には一生縁がない感情だとあきらめていたのが、こうも簡単に経験してしまうとは。会ったその日に人を恋い慕うという、ありきたりの物語のようなことが、まさか自分の身の上に起こるとは。花鈴は、自分で自分にあきれた。
(花鈴、花鈴、おまえ馬鹿じゃないの? 想ったところでどうなる相手でもないのよ)
「どうしたのだ? 花鈴、そんな顔でわたしを見て? わたしの顔に何かついているのか?」
もしかしたら花鈴以上に晩生なのかもしれない秋封は、きょとんとした顔で花鈴の憂鬱そうな顔を見下ろしてくる。
「あの……、若様、こんなところに来てはいけません。誤解されます」
「べつに悪いことをしているわけではないだろう?」
「それでも……若い身空で楼通いなんて世間に思われたら、ますます若様のご出世にさしつかえますし……。それに……若様の良い人だって気になさるかもしれませんよ」
秋封は怪訝そうな顔になった。
「良い人? わたしに良い人などいないぞ」
意味がわかっていないのかもしれない。花鈴はもどかしげに言葉をたした。
「たとえば、若様の恋人とか、婚約者とか……。若様のような名門の御子息なら、そういう方もいらっしゃるでしょう?」
とたん秋封は憮然とした表情になった。
「ああ……、いたことはいたが……、断られた」
「え?」
これには花鈴の方が目を丸くした。
「花鈴、もうわたしの家の事情は誰かから聞いているのだろう? それなら、わたしが許嫁にふられたことだって聞いているはずだ」
笑いながらも秋封の目に、一抹の哀切感がこもっていることを、花鈴は見抜いた。
「父の急逝で、わたしが継ぐと思われていた都督の地位を政敵にうばわれ、数少ない一族とも没交渉になってしまった我が家に、あえて大事な娘を嫁がせようとする親はいないさ。先方から、婚約の話は白紙にして戻してほしいと言われたのだ」
「まあ……」
では、桜玉の言っていたことはどうなるのだろう。
そう思ってからすぐに、花鈴は自分で答えを出した。
親が婚約を解消しても、娘の桜玉は納得できなかったのだ。彼女にとって秋封は許婚のままなのだ。だから案じ、嫉妬し、楼まで来たのだ。親に反対し、その目を盗んでまでも。
「もともと親同士が決めた婚約だったから、べつに未練はないのだが」
言葉とは裏腹に、彼からただよってくる寂寞感に、花鈴はやや意地の悪い心境になった。
「あら、でも残念そうなお顔ですわ。きっと、さぞかしお美しいお嬢様だったのでしょう」
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