龍蘭帝国奇談夜話 影絵遊び

平坂 静音

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不死鳥

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「歌や、芝居、物語というのは鳥のようなものさ。うまく巣立てば、都じゅう、国じゅう、それこそ大陸の果てまで空を飛んでいける。けれどもやはり命運というものがあって、何十年と長生きするものもあれば、一年はおろか一季節で死に果ててしまうものもある。不死の黄金の鳥、それこそ永遠の命を持つという鳳凰に変じ、永久とわに語りつがれる幸運な鳥なんぞ、何千何万羽のうちに一羽いるかどうかだね」
 微熱にだるむ身体を褥のうえに起こして、花鈴は老女の持ってきてくれた粥に口をつけた。
「その後、どうなったの?」
「桜玉の死で、秋封は世間の批判をあび、都にいられなくなって姿を消す。花鈴も、恋人をうしない、世間からは桜玉を死に追いやって秋封を破滅させた毒婦のように責められ、結局心労のあまり病で死んでしまう。悲恋だね」
 遣り手婆は苦笑いしながら首をふった。
「やれやれ、若い娘の妄想というのか、思い込みはすごいもんだね。あんたが泣きじゃくりながら朝方帰ってきたから、いったいどうしたのかと思ったら、あんた、この話を読んで夢を見たんだねぇ」
「そんな古い物語読んでないわよ」
 花鈴は憮然とした顔になっていた。
「それじゃ、どこかで老いぼれの歌売り女からこの歌を聞いたんじゃないかい? それで物語を本当のことだと思い込んでしまったんだよ。若い頃や子ども時分には、ときどきそういう事があるんだよ。ほら、剣劇の芝居を見た子どもらなど、しょっちゅう自分が芝居のなかの豪傑になったつもりで通りで棒きれふりまわしているだろう。あれと同じさ」
 嘲るようでいて、花鈴の額に浮いた汗を布でぬぐってくれる老女の手つきは優しい。
「で、でも、わたし、見たのよ。秋封を。それに、桜玉様だって来たじゃない? お婆さんだって女のお客が来たのは、知っているでしょう?」
「ああ、あれ? あれはわらべの勘違いで、来たのは酒代を取りに来た酒屋の下女だよ。何をどう聞き違えしたのかねぇ」
「だ、だって、お料理だって出して」
「でも誰も来なかったじゃないか。そうやって出した料理も手つかずで、そのまま残っていたし。まったく、ちょっとした損害だよ。童にはきつく言っておかないとね」
 そんなことがあるものか。花鈴は騙されている気がしてきた。楼主や童、遣り手婆、皆で話を合わせて花鈴を騙しているのではないかとすら思えてきた。
「秋封が、夜に来てくれて……」
 遣り手婆はうつくしい蕾でも見るように花鈴をながめたが、その一見、愛でるような賞賛するような視線の底に、季節に咲きおくれた花への哀れみをただよわせて、花鈴を傷つけた。
「あんたにも、どうにかしていい客をつけなきゃね」
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