31 / 34
不死鳥
しおりを挟む
「歌や、芝居、物語というのは鳥のようなものさ。うまく巣立てば、都じゅう、国じゅう、それこそ大陸の果てまで空を飛んでいける。けれどもやはり命運というものがあって、何十年と長生きするものもあれば、一年はおろか一季節で死に果ててしまうものもある。不死の黄金の鳥、それこそ永遠の命を持つという鳳凰に変じ、永久に語りつがれる幸運な鳥なんぞ、何千何万羽のうちに一羽いるかどうかだね」
微熱にだるむ身体を褥のうえに起こして、花鈴は老女の持ってきてくれた粥に口をつけた。
「その後、どうなったの?」
「桜玉の死で、秋封は世間の批判をあび、都にいられなくなって姿を消す。花鈴も、恋人をうしない、世間からは桜玉を死に追いやって秋封を破滅させた毒婦のように責められ、結局心労のあまり病で死んでしまう。悲恋だね」
遣り手婆は苦笑いしながら首をふった。
「やれやれ、若い娘の妄想というのか、思い込みはすごいもんだね。あんたが泣きじゃくりながら朝方帰ってきたから、いったいどうしたのかと思ったら、あんた、この話を読んで夢を見たんだねぇ」
「そんな古い物語読んでないわよ」
花鈴は憮然とした顔になっていた。
「それじゃ、どこかで老いぼれの歌売り女からこの歌を聞いたんじゃないかい? それで物語を本当のことだと思い込んでしまったんだよ。若い頃や子ども時分には、ときどきそういう事があるんだよ。ほら、剣劇の芝居を見た子どもらなど、しょっちゅう自分が芝居のなかの豪傑になったつもりで通りで棒きれふりまわしているだろう。あれと同じさ」
嘲るようでいて、花鈴の額に浮いた汗を布でぬぐってくれる老女の手つきは優しい。
「で、でも、わたし、見たのよ。秋封を。それに、桜玉様だって来たじゃない? お婆さんだって女のお客が来たのは、知っているでしょう?」
「ああ、あれ? あれは童の勘違いで、来たのは酒代を取りに来た酒屋の下女だよ。何をどう聞き違えしたのかねぇ」
「だ、だって、お料理だって出して」
「でも誰も来なかったじゃないか。そうやって出した料理も手つかずで、そのまま残っていたし。まったく、ちょっとした損害だよ。童にはきつく言っておかないとね」
そんなことがあるものか。花鈴は騙されている気がしてきた。楼主や童、遣り手婆、皆で話を合わせて花鈴を騙しているのではないかとすら思えてきた。
「秋封が、夜に来てくれて……」
遣り手婆はうつくしい蕾でも見るように花鈴をながめたが、その一見、愛でるような賞賛するような視線の底に、季節に咲きおくれた花への哀れみをただよわせて、花鈴を傷つけた。
「あんたにも、どうにかしていい客をつけなきゃね」
微熱にだるむ身体を褥のうえに起こして、花鈴は老女の持ってきてくれた粥に口をつけた。
「その後、どうなったの?」
「桜玉の死で、秋封は世間の批判をあび、都にいられなくなって姿を消す。花鈴も、恋人をうしない、世間からは桜玉を死に追いやって秋封を破滅させた毒婦のように責められ、結局心労のあまり病で死んでしまう。悲恋だね」
遣り手婆は苦笑いしながら首をふった。
「やれやれ、若い娘の妄想というのか、思い込みはすごいもんだね。あんたが泣きじゃくりながら朝方帰ってきたから、いったいどうしたのかと思ったら、あんた、この話を読んで夢を見たんだねぇ」
「そんな古い物語読んでないわよ」
花鈴は憮然とした顔になっていた。
「それじゃ、どこかで老いぼれの歌売り女からこの歌を聞いたんじゃないかい? それで物語を本当のことだと思い込んでしまったんだよ。若い頃や子ども時分には、ときどきそういう事があるんだよ。ほら、剣劇の芝居を見た子どもらなど、しょっちゅう自分が芝居のなかの豪傑になったつもりで通りで棒きれふりまわしているだろう。あれと同じさ」
嘲るようでいて、花鈴の額に浮いた汗を布でぬぐってくれる老女の手つきは優しい。
「で、でも、わたし、見たのよ。秋封を。それに、桜玉様だって来たじゃない? お婆さんだって女のお客が来たのは、知っているでしょう?」
「ああ、あれ? あれは童の勘違いで、来たのは酒代を取りに来た酒屋の下女だよ。何をどう聞き違えしたのかねぇ」
「だ、だって、お料理だって出して」
「でも誰も来なかったじゃないか。そうやって出した料理も手つかずで、そのまま残っていたし。まったく、ちょっとした損害だよ。童にはきつく言っておかないとね」
そんなことがあるものか。花鈴は騙されている気がしてきた。楼主や童、遣り手婆、皆で話を合わせて花鈴を騙しているのではないかとすら思えてきた。
「秋封が、夜に来てくれて……」
遣り手婆はうつくしい蕾でも見るように花鈴をながめたが、その一見、愛でるような賞賛するような視線の底に、季節に咲きおくれた花への哀れみをただよわせて、花鈴を傷つけた。
「あんたにも、どうにかしていい客をつけなきゃね」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
雨が止むとき、人形は眠る
秋初夏生
ホラー
「雨の日に人が突然倒れる」という不可解な事件が、金沢で続発していた。
冥府庁調査課の神崎イサナと黒野アイリは調査の末、ひがし茶屋街に佇む老舗の人形店「蓮月堂」へ辿り着く。
そこでは“誰も作った覚えのない人形が、夜ごと少しずつ増えている”という奇妙な噂が立っていた。
病に伏す人形師・桐生誠士は、異変の真相解明を二人に託し、さらに姿を消した元弟子の人形師“斎宮”を探してほしいと願う。
増え続ける人形、曖昧に濁される証言、消えた記録。静かな雨音の下で、隠された想いが少しずつ輪郭を帯びていく。
これは、失ったものを手放せなかった人間の執念が引き起こす、じわじわと心を侵す怪異の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる