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八
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「あ、でも、もう十六になってます」
子どもあつかいされるのが嫌で思わず言ってしまったが、その瞬間、またもマダム・オベールの瞳が妖しく輝いたことまでは気がまわらなかった。
「さ、どうぞ、こちらへ」
通された室は広間になるらしく、高価そうな寝椅子や椅子が置かれてあり、暖炉のうえには鈴蘭がガラスの花瓶に盛られるようにして活けられている。
「ねぇ、他のお客様はいないの?」
パーティーをするとカルロスが言っていたのが気になって、隣に座っている彼にコンスタンスは小声で訊いてみる。
「ああ、もうすぐ来るよ。あ、ほら来たみたいだ」
ベルの音が鳴り、玄関のあたりから人声が聞こえてくる。やがて靴音が響いて、現れたのは赤いスカートをはいた少女だ。
「あら、先客?」
「やあ、ブリジット。紹介するよ、こちらはコンスタンス」
「あら、どうも」
素気なく挨拶したブリジットは烏の濡れ羽色の黒髪に、おなじくきらきら光る黒い瞳が印象的な娘だった。歳はコンスタンスと同じぐらいか、もしかしたら年下かもしれないが、その瞳はコンスタンス以上に世の中というものを見ているのだという自負が感じられ、驕慢なきらめきにあふれている。
コンスタンスがなんとなく反発を感じたのは、彼女がどことなくペリーヌと似ている気がしたせいだ。それでいて昼間会ったクレオにも似たところがある。ある種の強さを備えているのだ。ブリジットがもっと年長だったら好意を感じたかもしれないが、歳が近いと反発が先だってしまう。
「あんたもここで働くの?」
軽食を取りに行ったカルロスの席にちゃっかり座り込んだブリジットは、なれなれしい態度で訊いてきた。
「え? 働くって、ここ、なにかの仕事場なの?」
「いやだぁ、あんた知らなかったの?」
ブリジットが帽子をとると、黒い髪が白いブラウスの肩に散って、それがとても魅力的に見える。おそらくそう見えることを充分意識しているのだろう。そんなところはエマを思い出させて、ますますコンスタンスの反感はつのる。だが、今は話のつづきが気になる。
子どもあつかいされるのが嫌で思わず言ってしまったが、その瞬間、またもマダム・オベールの瞳が妖しく輝いたことまでは気がまわらなかった。
「さ、どうぞ、こちらへ」
通された室は広間になるらしく、高価そうな寝椅子や椅子が置かれてあり、暖炉のうえには鈴蘭がガラスの花瓶に盛られるようにして活けられている。
「ねぇ、他のお客様はいないの?」
パーティーをするとカルロスが言っていたのが気になって、隣に座っている彼にコンスタンスは小声で訊いてみる。
「ああ、もうすぐ来るよ。あ、ほら来たみたいだ」
ベルの音が鳴り、玄関のあたりから人声が聞こえてくる。やがて靴音が響いて、現れたのは赤いスカートをはいた少女だ。
「あら、先客?」
「やあ、ブリジット。紹介するよ、こちらはコンスタンス」
「あら、どうも」
素気なく挨拶したブリジットは烏の濡れ羽色の黒髪に、おなじくきらきら光る黒い瞳が印象的な娘だった。歳はコンスタンスと同じぐらいか、もしかしたら年下かもしれないが、その瞳はコンスタンス以上に世の中というものを見ているのだという自負が感じられ、驕慢なきらめきにあふれている。
コンスタンスがなんとなく反発を感じたのは、彼女がどことなくペリーヌと似ている気がしたせいだ。それでいて昼間会ったクレオにも似たところがある。ある種の強さを備えているのだ。ブリジットがもっと年長だったら好意を感じたかもしれないが、歳が近いと反発が先だってしまう。
「あんたもここで働くの?」
軽食を取りに行ったカルロスの席にちゃっかり座り込んだブリジットは、なれなれしい態度で訊いてきた。
「え? 働くって、ここ、なにかの仕事場なの?」
「いやだぁ、あんた知らなかったの?」
ブリジットが帽子をとると、黒い髪が白いブラウスの肩に散って、それがとても魅力的に見える。おそらくそう見えることを充分意識しているのだろう。そんなところはエマを思い出させて、ますますコンスタンスの反感はつのる。だが、今は話のつづきが気になる。
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