メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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(好きで家を出たわけじゃないわよ!)

 コンスタンスのなかで、今までこらえにこらえていたものがとうとう爆発した。

「どこへ帰れって言うんですか! どこに帰ればいいのよ!」

「え、だから家に帰ればいいんじゃないか?」

 向かいに座っていたフィオー刑事がコンスタンスの権幕にあわてた顔になると、コンスタンスの怒りの火はますます燃えさかりだし、自分でもどうにもならなくなった。

「家にいられないから、こうして他人の家に住み込んで慣れない女中の真似なんかしているんじゃない! あんた、わたしの事情を知っているんでしょう? あの家のことを調べたんでしょう? 父親の商売は破産して借金だらけで、わたしはエマに売られそうになったのよ! 父親だってそれを止めようともしないのよ! 十六の女の子が家も親もなくて、どうやって生きていけばいいのよ! 他に行くところがどこにもないからあそこにいるんじゃない!」

 若いフィオー刑事はコンスタンスの怒りように気圧されて黙ってしまったが、あいにく彼よりかはもう少し世間を見ているマセ刑事の方は甘くなかった。

「しかし、君、お針子や売り子はしようとしないんだろう?」

 またのんびりした口調で妙に淡々と言う。

「いるんだよ、君らみたいな子。あの店でもそうだったよ。たしかに事情はあるだろうし、苦労もしているんだろう。けれど、やっぱりどこかで汗水垂らして働くよりかは化粧してシャンパン飲んで、男の相手をする方がマシだというような子。いい客をつかまえれば、香水やドレス、ちょっとしたアクセサリーなんかをねだってくる子たち。君もそういう子だろう」

「そうじゃない子もいます。病気の親やきょうだいのために必死に生きてる子だっています!」

 ブリジットやカルメン、ビュルの顔が浮かぶ。つかの間の友人たちへの友情のためにコンスタンスは言わずにいられなかった。

 だがマセ刑事は、やれやれ、というふうにめんどくさそうに首を振る。

「最初はそういう理由で仕事に入るかもしれないが、そんななかでやっぱり心も性根も娼婦になっていくんだよ。一刻も早く足を洗って更生するよりも、太い客をつかまえて楽しようというふうになっていく……、皆。私はそんな子を腐るほど見てきた」
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