メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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 その子たちはマダムの実家があるコレーズ県で祖母たちによって養育されているそうだ。その子どもたちに恥ずかしくない教育を与えてやるためにもマダムは夫の遺産である家をメゾン・ランデヴーにして客を呼んでいたという。ここにも名もなきフォンティーヌがいた。

(でも……マダムは自分が身を売ったわけじゃないんだし) 

 コンスタンスの想いは微妙だった。

 あらためて珍しいものでも見る想いで、被告人席に立たされたマダム・オベールを見た。

 こんなことになってもマダムはまったく動じていないようだ。今日も黒いドレス姿で、首には小粒のダイヤが光るネックレスを着けている。背筋を伸ばしたその姿は貴婦人そのもので、いっそ奇妙な貫録すらある。悔恨など露とも見せず、その白い横顔は誰を睨むでもなく挑発するでもなく、静かに詩の朗読にでも耳をかたむけるように、しとやかそうにかすかに傾げている。傍聴席の人々はまるで女優の演技を鑑賞するようにマダムのすらりとした姿を、ほとんどうっとりとした顔で見ていることにコンスタンスは気づいた。

「ラ・ヴォアワザンかミレディーだな」と、誰かがつぶやく声が聞こえてくる。

 前者は王制時代に毒殺や呪殺の容疑で火あぶりにされた毒婦で、後者は、『三銃士』に出てくる蠱惑的こわくてきな悪女である。稀代の毒婦か悪女の黒い威厳をまといつかせて、マダム・オベールは見る者の目を奪っていた。

 コンスタンスは正直、マダム・オベールを見直した。

 裁判官たちが言うように、法律に背き、秩序や道徳を踏みにじる行為をしたというのに、どういうわけかマダムからは威風すら漂ってきそうだ。

 後悔している様子も恥じ入っている素振りもすこしも見せず、かといって、こういうときこの種の女がよく見せるように、泣き縋ったり同情を買うような言動もいっさい示さない。

 そんなマダムの様子をどう取ったのか、初老の裁判長は溜息をついた。

「一家の母親であるあなたが、幼い子どもたちを最も卑しむべき放蕩ほうとうにおいやって、恥ずかしいとは思わないのですか?」

 マダムは艶然と笑う。そして、次には、聞く者の鼓膜に一言一句しっかりと届くように力をこめて述べた。

「ですが閣下、それならば、どうしてあなた様は、私どもの所におみえになると、いつも、あの子たちのことを、歳を取り過ぎているとおっしゃるのでしょう?」
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