闇より来たりし者

平坂 静音

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遺産 三

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 パリッ、と小気味よい音をたてて美菜がポテトチップスをかじる。
 それにしても、これだけ毎日毎日ジャンクフードを好きなだけ食べて、どうしてこいつは太らないのだろう?  美菜の赤いTシャツから伸びるほっそりとひきしまった腕を見て、内心あきれつつ、うらやましくなった。
「今の時代、二十歳過ぎて留学する人なんていっぱいいるじゃない。馬鹿にできないわよ」
 ローテーブルのうえに、美菜がポロポロ落とすポテトチップスの粉をキッチンペーパーで拭いてやりながら、反論する。
「麻衣、バレエにかんしては本当に真剣だもの。朝もスタジオで自主トレーニングしているらしいし、放課後もバレエ部で毎日練習じゃん。日曜の今日だって専属コーチのレッスン受けてるし。休みなしなんじゃない?」
 ちなみに課外活動というと、私は時々《読書クラブ》という、図書室にあつまって好きな本を読んで感想を言い合うという、実にさえない文化部に所属し、美菜は週一回街のスポーツクラブでヒップホップを習っている。でも、それはあくまでも趣味としてで、最近はあまり行ってないらしい。
 実を言うと、美菜はそこで年上の大学生と知り合って、けっこう仲良くなったらしいけれど、最近どうしているのか、あまり言わない。私も美菜が言わないかぎり、聞かないことにしている。
「ふーん」
 つまらなさそうに私の言葉を聞きながし、話題を変えるように、美菜はちょうど私の背後にあるディスクを指さした。
「ねぇ、それよか、あれって、机なわけ?」
「おもしろいでしょう?」
 それは縦型長方形のチェストのように見えるが、書き物用の机で、蓋のような板を手前に下ろすと、書き物台に変わる。
「なんか、大昔のミシンみたい」
 言わんとするところは解る。子どもの頃、父方の祖母の家で見た昔のミシンは、見た目はちょうどこれみたいに長方形の箱型で、内部に組み込まれてあるミシン機を回転させて出す。
 あれって、ミシン使わないときは机代わりにしていた人って多いんじゃないだろうか。祖母も時折り、何か書き物するときは、それを机代わりにしたりしていた。
「古いもんね」
 材質はマホガニーだけれど、色あせて、窓からの陽射しにセピア色ににぶく光っているところが、レトロで、なんとなく好きなのだ。
「これ、祖父母の家にあったの。あ、お茶の先生していたお祖母ばあちゃんじゃなくて、母方の方なんだけれどね」  
「もしかして、この春に亡くなったっていう、長崎のお祖母ちゃん?」
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