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聖処女 二
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でも、これでいいんだよね。おしめの頃からの付き合いだもの。やっぱりそういう風にしか感じられないし、それ以上に想うことは、なんだかまるで近親相姦みたいで、良くないことのように思える。そりゃ、いとこ同士でも結婚できるんだろうけれど、やっぱり、ちょっとね……。保険の授業のとき、体育の先生が「いとこ同士の結婚は法的にはみとめられていますが、優生学的にはあまり好ましくないです」って、言っていたし。
さすがにそんなことまで考えている自分が、また恥ずかしくなってきた。
「いいの? ここ男子禁制じゃない?」
「身内だから、大丈夫よ。ちゃんと面会の許可取っているし。面会室は飲食もOKなの」
私は友哉君を、寮の玄関ホールを入ってすぐ近くにある面会室へ案内した。
「すごいな、ガラス張りなんだね」
「そ。外から丸見えだからさぁ。あ、ちなみに喫煙はダメだからね」
「それは大丈夫、僕煙草吸わないから。……へぇー、こうなっているんだ。まるで、教会みたいだね」
友哉君は、やっぱり好奇心がわくのか、興味津々で建物を見わたしている。
「うん。ミッションスクールだからね」
私も入寮してすぐの頃は、ヨーロッパのホテルのような造りや教会のような装飾にびっくりしたり感動したりしたものだけれど、一ヶ月も経つと、しきつめられた赤い絨毯も、ステンドグラスの窓ガラスも、古風にセピア色に光る壁や床も、見慣れて変わりばえしない風景となって気にもとめなくなった。
「……これって、聖アグネスだね」
友哉君は壁にかけられた絵を見て、目を見張っている。つられて私も壁を見た。
そこには、かなり大きな油絵がかけられてあり、薄い布をまとったような髪の長い少女がおびえた顔で、とまどうように立っている。
「そうなの?」
正直、絵にはまったく興味がないので、私は深く気にもとめず返事した。
「そうか、ここの校名は聖アグネスだからだね」
そう、ここは聖アグネス女子学園の寮。
私がなにも言わず黙っていると、友哉君は苦笑した。
「知らないかな? 聖アグネス。有名な聖女で、十三歳で殉教したんだ」
この絵の少女は十三歳なのか。
「友哉君、くわしいのね」
「近所に小さな教会があってね、聖女に関して牧師さんが話してくれたことがあったんだ。聖アグネスについてはよく覚えているんだ」
友哉君は、絵のなかの髪の長い少女を見つめた。そうしていると、一重の目がひどく知的に見える。
さすがにそんなことまで考えている自分が、また恥ずかしくなってきた。
「いいの? ここ男子禁制じゃない?」
「身内だから、大丈夫よ。ちゃんと面会の許可取っているし。面会室は飲食もOKなの」
私は友哉君を、寮の玄関ホールを入ってすぐ近くにある面会室へ案内した。
「すごいな、ガラス張りなんだね」
「そ。外から丸見えだからさぁ。あ、ちなみに喫煙はダメだからね」
「それは大丈夫、僕煙草吸わないから。……へぇー、こうなっているんだ。まるで、教会みたいだね」
友哉君は、やっぱり好奇心がわくのか、興味津々で建物を見わたしている。
「うん。ミッションスクールだからね」
私も入寮してすぐの頃は、ヨーロッパのホテルのような造りや教会のような装飾にびっくりしたり感動したりしたものだけれど、一ヶ月も経つと、しきつめられた赤い絨毯も、ステンドグラスの窓ガラスも、古風にセピア色に光る壁や床も、見慣れて変わりばえしない風景となって気にもとめなくなった。
「……これって、聖アグネスだね」
友哉君は壁にかけられた絵を見て、目を見張っている。つられて私も壁を見た。
そこには、かなり大きな油絵がかけられてあり、薄い布をまとったような髪の長い少女がおびえた顔で、とまどうように立っている。
「そうなの?」
正直、絵にはまったく興味がないので、私は深く気にもとめず返事した。
「そうか、ここの校名は聖アグネスだからだね」
そう、ここは聖アグネス女子学園の寮。
私がなにも言わず黙っていると、友哉君は苦笑した。
「知らないかな? 聖アグネス。有名な聖女で、十三歳で殉教したんだ」
この絵の少女は十三歳なのか。
「友哉君、くわしいのね」
「近所に小さな教会があってね、聖女に関して牧師さんが話してくれたことがあったんだ。聖アグネスについてはよく覚えているんだ」
友哉君は、絵のなかの髪の長い少女を見つめた。そうしていると、一重の目がひどく知的に見える。
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