闇より来たりし者

平坂 静音

文字の大きさ
30 / 141

聖処女 四

しおりを挟む

「へぇー、そうだったんだぁ。そんなことがあったんだね。全然、知らなかった」
 友哉君は目を見張った。
「その、恵理ちゃんの本当のお祖父ちゃんていう人は、今頃どうしてるんだろう? 生きているのかな?」
「正直、私、その人には興味ないの」
「会いたいとは思わないの?」
「全然」
 むしろ、今さら会いに来られたらどう対応していいのかわからなくて、困ってしまう。
「でもね、やっぱりそれ聞いたとき、びっくりしちゃった。自分の家系にそんな秘密っていうのか、隠しごとがあったなんて。ずっとうちは平凡な普通の家だと思っていたから」
 それを言うと、友哉君は笑った。
「舟木さんの家の方は普通じゃないだろう? 地元じゃ、有名な家なんだろう? うちの、小倉家の方は本当に庶民だけれどさ」
「小倉のお祖父ちゃんて何やってた人?」
「昔は商売かなんかやってたみたいだけれど、うまくいかなったみたいだね。父さんたちが子どもの頃は本当に貧乏だったみたいでさ。しかも知久ともひさ祖父ちゃんが事故で早死にしてからは、お祖母ちゃんが女手ひとつで僕らの父さんたちを育ててくれたらしいから。
「小倉のお祖母ちゃん、けっこう苦労したんだね」
「うん。でもお祖母ちゃんはなかなか教養のある人で、着物の着付けやお茶やお花なんかできる人だったから、それでどうにかやっていけたみたい」
 それでも、長男を大学にやるのは相当、大変だったろうということは私にも推測できる。それを言うと、
「最初は伯父さんも進学をあきらめるつもりだったんだけれど、遠縁の人がお金出してくれたそうでさ。そのおかげで進学出来たらしいんだ」
「へぇ……そうだったんだ」
 意外と、こうして聞くと、平凡そうに思えた小倉の家にもいろいろあったみたいだ。
「あ、今日言ったこと、家に帰っても本当に誰にも言わないでよ」
 私はもう一度念を押しておいた。
「うん。わかった」
 友哉君は屈託なく笑う。その笑顔は子どもの頃のままに無邪気で、私は胸がちょっとほんわかしてきた。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...