闇より来たりし者

平坂 静音

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聖処女 六

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「なんでしょう?」
 私はついさっきまでの動揺をかくして訊いた。寮長がこんな時間に来るのが気になる。
 信楽寮長は黒い前髪をかきあげながら、いかにも困惑したように眉をよせる。地味なグレーのTシャツに青いジーンズ、髪は後ろでひっつめただけという、いつもどおりぱっとしない装いで、私は自分のことを棚にあげて、もっとお洒落すればいいのにと、先ほどの恐怖もも忘れてつまらないことを思ってしまっていた。
「工藤さんが帰ってこないのよ。連絡もないし、外泊の届出もないし……。あなた、何か聞いていない?」
「え? 美菜、帰っていないんですか?」
 意外なことに美菜は門限におくれるときは、寮のルールにしたがって必ず連絡を入れる。  
 ちなみに寮のルールでは、外泊する場合は、前もってかならず行き場所と連絡先を用紙に記入して事務所に届けることになっており、そのデーターは後日親元にも届けられることになっている。勿論、おもてむきは友人の家の連絡先を記入しておいて彼氏のところへ泊まるようなことも、友人の了解と協力をあおげば、出来ないわけではないけれど……。
 でも遊びに行くにしても、美菜なら、ちゃんとそこらへんの細工は抜かりなくして遊びに行きそうだ。まさか、出先で事故にあったとか……。
 私は先ほどの奇妙な恐怖を思い出して、また寒気を感じた。
 まさか、さっき不気味な気配を感じたのは、ホラー小説や怪談などでよくあるように美菜が事故にでもあって死んでしまい、私に会いに来ていたとか……? そんな馬鹿な、と思いながらも心がさわぐ。
「工藤さんて、意外と寮則を守る人じゃない? 心配になってきて。舎監先生がお母様のところに電話してみたんだけれど、まだ連絡がつかなくて」
 寮長の言葉には、微妙な響きがあった。寮長も美菜の家庭の事情を聞いているのだろう。
「あなたなら何か聞いていないかと思って」
 私は首をふった。
「すいません。聞いてないです」
「工藤さんが行きそうな場所って心当たりない?」
「渋谷のダンススクールにときどき通っているのは聞きました」
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