闇より来たりし者

平坂 静音

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うわさ 五

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 そう言っているのは、あんたじゃないの? と訊いてやりたいのをおさえて、無理に笑ってみせた。
「まさか。あの二人がいっしょに旅行に行くわけないじゃない。付き合いぜんぜんないんだし」
「えっ! 知らないの?」
 磯田さんは、わざとらしいぐらいびっくりした顔をする。赤く染めている髪の毛先が一瞬、はねた。
「あの二人、けっこういっしょに出歩いていたみたいよ。小倉さん、工藤さんとけっこう仲いいのに、知らないの?」
「……渋谷に出かけたっていうのは聞いたけれど」
 本人たちから聞いたわけでないことは、あえて口にしなかった。
「あら、それだけじゃなくて、寮の廊下でも二人がいっしょにひそひそなんか喋っていたって、寮生の子が言ってたのよ」
 そりゃ、喋ることぐらいあるでしょう。内心イライラしつつも私は、へー、そうなんだぁ、と当たりさわりのない返事をした。それにしても他人のことをあれこれとつつきまわしたがる女だ。  
「なんか、あやしいわねぇ。二人が出てきたら訊いてみようっと」
 勝手にしたら、と内心でつぶやきながらこわばった笑顔を向けて、私はベンチから立ちあがった。そろそろ午後の授業がはじまる。戻らないと。
「ねぇ、ねぇ、もうあのこと知ってる?」
 校舎に向かおうとする私のシャツを磯田さんがひっぱって、口をよせてくる。精一杯、不快感をかくしながら訊いてみた。
「なによ、あのことって?」
「大桐と工藤ってさぁ、三角関係らしいよ」
 今度は美菜の苗字もよびすてにして、磯田さんはそんなことをささやく。
 学園の生徒は、どこの学校でもそうだろうけれど、ごく親しい関係では名前やニックネームで呼びあい、それほど親しくない間柄では苗字に〝さん〟づけで呼びあう。ごく一部の生徒は、苗字をよびすてにするけれど、それはたいてい運動部の生徒同士だ。磯田さんは運動部には所属していないし、私の知るかぎり、お嬢様っぽい子たちと付き合っているようでもないし、勉強一筋のがり勉タイプ――実は私もそう思われている――の子と交じあっているようにも思えない。特定のグループに属しているわけではないけれど、それでも教室では常に誰かとくっついていて、一人でいるところは見かけない。そして、あちこちのグループにくっついては、そこで噂話に興じている。そういう人だった。
「なんかねぇ、聞いた話では、工藤の付き合っていた彼を、大桐が取っちゃったんだって。小倉さん、このこと知っていた」
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