闇より来たりし者

平坂 静音

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うわさ 六

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 知らないでしょ? あんた友達っていったって、その程度の付き合いなんだから。磯田さんの細い目は、面白そうにいっそう細められて、そうっている。私は背筋に虫が這うような不快感を、必死に顔に出さないようにつとめた。
「それでさぁ、なんか先週の日曜だったかなぁ、多分そのことで揉めてたみたいで。一階の廊下の隅、ほら、絵のある端の方で二人でコソコソ話してたらしいよ」
 晴れわたった涼しげなアクアマリン色の空のもと、赤煉瓦造あかれがづくりの教会のような校舎が遠くに見えるなか、磯田さんの存在はひどく場違いで不似合いな気がして、私はほとんど彼女に怒りすら覚えてきた。なんでこんな女が聖アグネスにいるんだろう?
「ふうん」
 私は精一杯つまらなさそうな顔をしてやった。興味ないわ、そんな低俗な話、というふうに。
「だからさぁ、二人がいっしょに休んでいるっていうことは、もしかしたら何かあったんじゃないかって皆言ってるの」
「何かって?」
「二人で決闘でもして、怪我したのかもって。あ、もち、冗談だけどね、でも、皆、言ってるの」
 皆って、誰と誰と誰よ。その名前を挙げてみなさいよ。そう言いたくて、私の苛立ちはますますひどくなる。ちょうど、そのとき予鈴が鳴った。
「じゃ、午後の授業があるから」
 私はこみあげてくる怒りをどうにか抑えて、校舎に向かった。

 夕方、寮にもどってき私は少し憂鬱だった。あれから、別の生徒にそれとなく美菜と麻衣の話を向けてみると、彼女も二人にまつわる三角関係の噂を聞いていたらしい。知らなかったのは、どうやら私だけみたい。
「あなた、噂話とか興味ないし、当の二人と親しそうだから、皆遠慮して言わなかったんじゃない?」
 特に親しいわけではないけれど、選択している授業でよく顔を合わす彼女は、なぐさめるように言った。
「私もちょっと聞いただけなんだけれど、相手は工藤さんが通っていたダンススクールのスタッフ――といっても学生アルバイトなんだけど。そこには他の生徒も通っていて、その人が言うには最初は工藤さんが親しくしていた彼を、後から来た大桐さんが取った……、って言っていいのかな、なんだか仲良くなっちゃったみたいで」
 そのダンススクールにはバレエのコースもあって、それは基礎的なものらしいけれど、麻衣も練習量を増やすために通っていたらしい。まったくそんな話は美菜からも麻衣からも聞いていなかった。
 私はかなり落ち込んだ。二人にとって、私はそういうことを話し合うほどの友達じゃないんだろうか?
 自室でぼんやりと座り込んでいると、涙ぐみそうになってきた。
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