闇より来たりし者

平坂 静音

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昔話 五

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 その話は初耳だった。私はつい目を見はってしまった。
 トヨールは作り主の命令にしたがって、小銭を盗んでくると言われている。ときには持ち主の嫌いな人間を困らせたりするとも言われているが、他愛のない小鬼のようなものだと思っていた。
 それを言うと母は首をふった。
「まぁ、ちゃんとしたボモーが作ったものならともかく、悪い術師によって作られたら、とんでもない面倒を起こすことになるよ。だって、持ち主が生きている間はちょっとした悪戯ですむだろうけれど、考えてもごらんよ、持ち主が死んでしまった後、のこったトヨールはどうするんだい? 持ち主の家族が引き受けることになるんだよ。うまく飼いならせられればいいけれど、それができないと、今度は持ち主の家族に悪戯をしかけてくるかもしれない。それこそ本当の小悪魔にでもなって悪さを働くようになるかもしれない。トヨールっていうのは、いったん飼うと、その持ち主の家族や子孫についてまわるっていうからね。おそろしく寿命のながい危険な獣を飼うようなもんだよ。ああいったものには、手出ししないのが一番だね」
 ボモーとは、霊能者のようなもので、占術や呪術もたのめば引き受けるが、開明的であることを自負している父は、そういった人をいとうていて、いっさい家には近寄らせなかった。
 だが母の口調は、そういった妖しの存在や、それに携わる人の言い分を信じていることを示している。田舎の農家の娘であれ都会の名家の令嬢であれ、女というものは、こういったたぐいのものをまったく拒否せずにはいられない生き物なのかもしれない。学舎で席をならべた西洋の文明国の子女たちであってさえも、祖国の妖精や幽霊の話をするときはその目が、不思議ときらめいていたことを私は思い出した。
 私は裏庭の草むらで何かをさがしていたサリナの背中を思い出した。そして、彼女が持っていた黒い塊のようなもの。
 ああ……やっとわかった。あれは、赤ん坊の遺体だったのだ。
 サリナは、あれをボモーのもとに持ち込んでトヨールを作ってもらったのだ。そしてトヨールに命じて小銭を盗んでこさせて、美しいクルンを買ったのだ――それにしても、そんなものがそこにあることをどうしてサリナが知っていたのか……後になって考えると奇妙なことだが、そのときの私はその点を追究することを忘れていた。
 あれこれ考えて、私は一人赤面した。
 なんだかひどく突拍子もないことを考えていることに気づいた。
 トヨールを本当にいると思っているなんて……。
 母の世代ならともかく、少なくとも私は教育を受けた娘なのだ。冷静にならなければ。私はその後も言葉をつくろって、呉家へといそいだ。つい頭に血がのぼって、妙なことをしてしまった自分を恥じながら。

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