闇より来たりし者

平坂 静音

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真紅の帳 八

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「妖精を作り出せるなんて、おもしろいわね。ねぇ、それって本当に作れるの? それがあったらお金を持ってきてくれたり、嫌いな人間に仕返ししたりできるの?」
 五つの童女のようにあどけないことを言うミヨが可愛くて、私は少し大げさにつたえた。
「そうよ。トヨールを持っていると、何でも出来るのよ……。呪術師にお金をはらって頼むと、作ってもらえるのよ」
 言葉の後半は、声をひくめて囁くように言った。勿論、冗談のつもりだが、ミヨは心底感心したように目を輝かせている。こういうところに、無知で無学で、それでいて、身を焦がすような欲望や願望にとりつかれた娘の狂おしいほどの情熱があらわれている。
「いくらぐらい?」
「さぁ……百リンギットぐらいかしら?」
 問われてあわてた。私だってそんなことは知らない。咄嗟とっさに当てずっぽうな額を口にした。ミヨは眉をしかめる。
「この国のお金なんて、私、一銭も持っていないわ。もともとお金なんて縁が無いのだけれど」
 私は、この正直で純情で、身に過ぎた恋の野心にとらわれている娘が、突然いじらくしなってきた。
 出来ることなら、本当に彼女の願いを叶えてやりたい。同い歳だというのに、彼女を見ていると私は自分が百歳をへた老女になったような気がしてくる。それは、青春をあきらめた娘が、まだ青春のさなかにいて、未来への夢を捨てられない娘への、羨望まじりの憐憫の気持ちなのかもしれない。
「私、トヨールを持っている人を知っているのよ」
 私の脳裏には、庭から土の塊のようなものを掘り出していたサリナの姿が浮かんだ。
「え? 本当にそんな人いるの?」
「その人に、貸してもらえるよう頼んでみてあげてもいいわ」
 ミヨの目が輝いた。
「もし、そんなことが出来るなら、是非そうしてみて」




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