闇より来たりし者

平坂 静音

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真紅の帳 七

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 私は急に目のまえのミヨが恨めしくなった。
 彼女は私にはないものを持っている。人を恋する心と、まだ自由な身体。
 そうだ、彼女は、私にくらべたらまだ自由なのだ。
 私は、貧しい家で伝統にとらわれながら育てられた娘の、たったひとつの〝未来の夫〟を夢見る権利ですら失くしてしまった。
 今の今まで気づかなかったが、ふと、とてつもなく自分の世界が、この呉家が、この室が、暗いものに思えてきた。
 目のまえが暗くなるとは、まさに今のこの状況だ。夢も希望もない。未来もない。私は肌寒くなってきた。
 不意に、ミヨが憎らしくなった。だが、当のミヨもまた目をかげらせた。
「でも、いつまでも勇様とご一緒にはいられないわ。あのね……勇様、婚約なされるかもしれないの」
 ミヨの口調には哀切な響きがこもって、私は少しいい気味と思ってしまう。
 ここにも不幸な娘がいる。叶わぬ恋に苦しむ娘。
 けれど、恋に苦しむ娘と、恋を得られぬ娘と、どちらがより不幸なのだろう。自問すると、ますます憂鬱になってくる。
「それは……つらいわね」
 私はせいいっぱいの同情を示してみせた。 
「わたし、勇様の奥様になられる方さえゆるしてくださったら、お妾さんでもいいんだけれど。でも……そんなこと言ったら勇様怒るわ」
 ミヨは苦く笑う。
「ああ……願いを叶えてくださる神様か妖精が本当にいればなぁ……」
 ミヨはひどく子どもっぽい目をして、そんなことを言う。
「子どものときはね、近所の神社――お寺か教会みたいなものなのだけれど、そこへお参りしたときよくお願いしたものよ。もっと綺麗な着物が着られますように、お腹いっぱいご飯が食べられますように、って。今思うと、たしかに叶ったんだわ」
「またお願いしてみたら?」
 私もこの国にある中華の神仏をまつった寺院で、他愛もないことを願ったり祈ったりしていた幼い日のことを思い出した。勉強が出来るようになりますように、誕生日には、あの素敵なドレスが手に入りますように。けれど、叶えられたことはあまりなかった気がする。
「この国には、願いをかなえてくれそうな神様っていないのかしら?」
 訊かれて私は咄嗟にトヨールのことを思い出した。
「あるわよ」
 トヨールのことを説明すると、ミヨは目を見張らせた。

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